朱雀の意地(2)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
降車後、龍達は悲劇を断つべく全速力で向かい、彼が待つ屋上の扉を開けた。
そこにはやはり京士郎がいたが、先日の鬼のような姿から一転、まるで無力な赤ん坊のようにうずくまって号泣していた。
見る影もないその姿に、不憫に思った蒼子が声をかけると、京士郎は涙に濡れた顔を上げ、
「……蒼子……僕はなんてことをしてしまったんだ……取り返しのつかないことを、僕はぁ……!」
と、言って再び咽び泣いた。
そんな彼に忍は、罪の意識があるなら切腹するよう促した。
犯罪者なら容赦なく殺す忍にしては、珍しく寛大な方である。おそらく、彼女は彼女なりに情けを感じてのことだろう。
だが、『死ね』と言われてそう簡単に死ねる者などいない。生に執着している普通の人間なら尚更だ。
京士郎とて同じである。死を恐れた彼は切腹を全力で拒み、みっともなく生にしがみついた。
その往生際の悪さに立腹した源士郎は、
「いいかげんにしろ! これだけのことをしておいて、『死にたくない』だと? 笑わせるな! お前がすべきことはただ1つ。己の命で責任をとることだ! それができないというのなら、いいだろう。我々が引導を渡してくれる!」
と、怒鳴り、残存している部隊に指示を出そうとした。
この状況に龍やペガサス達は、とてつもなく嫌な予感がし、なんとか源士郎を落ち着かせて止めようとした。
それは、京士郎の命を救いたいからではなく、
「……ふっ、ふふふふふ、ははははは! ひゃーっはははは! 僕、京士郎。僕、イカレてる。ははははは!」
このように、源士郎の殺意にあてられて、彼が再び狂ってしまうのを防ぎたかったからである。
しかし、それももう手遅れ。狂気の鬼に戻った京士郎を前にし、龍は悔しそうに下唇を噛んだ。
救えたかもしれなかったのに、源士郎のせいでまた鬼と化してしまいました。
というわけで妖剣士・剣菱京士郎との最終戦。その幕が開きました。




