朱雀の意地(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
いくら頭を捻っても答えが出てこない玄武は、蒼子に何か心当たりが無いか尋ねた。
言うべきかどうか蒼子はかなり悩んでいたが、真相を知りたい黒猫や玄武らにしつこく問われたことで、隠し通せないとついに観念し、自身が隠していた秘密も含めて全てを語り出した。
剣菱家にとって警視庁屋上の一角は、10年前まで道場の一部として使わせてもらっていた場所であり、同時に彼女達兄妹にとっては、12歳と7歳の時に禁断の愛を誓い合った思い出の地でもある。
あの頃の京士郎は優しくて純粋な少年で、争いごとを嫌う性格のせいか稽古が嫌で嫌で仕方なかったが、蒼子と幸せになるために強くなろうと毎日必死に努力していた。
しかし、その努力を認めない両親に虐げられ続けたことで、彼の心に次第に焦りと疲弊が蓄積され、心身共に弱りきったところをある科学者に付け入られてしまった。その結果、彼は今に至ってしまったのである。
もちろん、こうなるまで彼女だって傍観していたわけではない。疲れきった兄の心を献身的に支えて癒やし、不完全なデミ・ミュータントになった副作用で頭痛を起こすようになってからは、なんとか治す方法は無いかと色んな医者を訪ね歩いた。
それだけ足掻いてもどうすることもできなかった。だから彼女は、苦渋の決断を下すしかなかったのだ。最愛の兄を眠らせるという、最悪の決断を。
「もう、見たくないんです! 狂った兄も、悲しむ兄も、苦しみに苛まれ続ける兄も………」
自身の心境を吐露する彼女と彼女から語られた京士郎の半生を聞き、龍達はこの悲しい兄妹に同情した。
中でもその気持ちを1番強く抱いていたのは、ずっと蒼子に対して引っかかりを感じていた黒猫だった。
「なんで、こんな悲しいことに……」
「黒猫……」
「大切な者を殺す……そんな事あっちゃいけないのにっ!」
黒猫の心から出た言葉に、悪=死と考えている犬飼親子以外全員が共感した。
当然、こんな心理状態で彼を殺せるわけがなく、黒猫は青龍にプランBの全てを託し、自分はサポートに徹すると告げた。
「わかった。任せて。僕なりに最善を尽くすから」
「ありがとう」
そう礼を述べる黒猫と彼女に京士郎のことを託された龍。
2人が言葉を交わしてすぐ、彼らを乗せた車は、無情にも警視庁に到着した。
これが剣菱兄妹の秘密と半生です。
読者の皆さんはどう思うか知りませんが、僕は息子の努力を認めようとしない彼らの両親を心から軽蔑します。




