狂気の妖剣士(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
3時間半後。準備を整えた龍達は特捜5課所有のヘリコプターに乗り、東京23区の上空にいた。
その機内では、柚がふてくされて頬を膨らませたり、武文ラブの愛花と紫乃がいがみ合いや取り合いをしてたり、雲雀と忍が、
「ほー。にしても、専用ヘリとはなぁ。うちらの税金使ってこんな物買いおって。税金泥棒が」
「文句を言うな。お前が払った税金が役に立つんだ。ありがたく思え。クソガキ」
と悪口を言い合ったりしていた。
そんな険悪な空気を吹っ飛ばそうと、龍と翔馬は、
「そういえば蒼子さん。京士郎さんはなんでそんな風になってしまったんですか?」
「『世界に絶望した』って言ってましたけど」
と、強引に蒼子に質問し、話をそっちに持っていった。
蒼子は口に出すのも辛いのか、少し言い渋っていたが、兄が変貌した経緯を語り始めた。
そもそも、天下流抜刀暗殺剣とは、戦国末期に生まれた流派で、高い瞬発力を駆使し、一撃必殺で仕留める正真正銘の殺人剣。
かの織田信長もこの流派をかじっていたらしく、忍ら犬飼家の者も幼少期から習っており、いくつかの技を会得している。
そんな天下流抜刀暗殺剣の師範を輩出している剣菱家には、代々危険視され、触れることすら禁じた家宝がある。
その家宝の名は鬼光。かつて神剣と呼ばれた名刀・村雨や村正には劣るものの優れた業物であると同時に、手にした者の殺人衝動を駆り立てる妖刀とされている。それを得物にしてしまったのが1つ目の理由。
もう1つは、跡取りなのに病弱だったせいで父親から『軟弱者』と怒られ、虐げられ続けた彼が、ある科学者に誘惑され、人体実験によって、反射神経と瞬発力のデミ・ミュータントになってしまったこと。
成功したと思い、安易な強さを得た京士郎は、大層喜んでいたそうだが、数日前、稽古中に突如激しい頭痛に襲われた。実験は成功などしておらず、不完全な強化手術によって脳細胞の大半が死滅していたのだ。
その結果、京士郎は思考能力や理性、記憶の一部等を失い、自分が強くなる夢も自らの命も近い将来終わると悟り、絶望した彼は、常人離れした身体能力を有したただの化け物と化した。
「……おそらく、今の兄はもう、絶望する心も失われたでしょう。それぐらい、兄は取り返しがつかないところまで壊れてしまっています……」
蒼子の口から語られた内容と、悲痛な想いに、龍と雲雀は子供の感情を知りもしなかった親にも責任があると考え、彼に同情し、この依頼は京士郎を人として死なせるためのいわば介錯だと認識した。
その一方で未来は、自分以外のデミ・ミュータントの研究者がこの一件に関わっていると知り、父の遺志を継ぐ者として、そして不完全なデミ・ミュータントとなり苦しむ彼を救うために、京士郎の暴走を止めたい思った。
親からの重圧から逃れるために手にした力の代償。
安易な方法に出れば、そのツケがいつか回ってくる。
彼はそのいい見本となったことでしょう。




