愛と美の在処(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
が、彼女は助かった。
朱雀を殺すことしか見えてなかった人志の背中をドラコスラッシャーが貫いたからである。
「がはっ! お、お前ぇ……」
「すみません。退屈だったもんで」
青龍はそう言うとドラコスラッシャーを引き抜いた。
傷口から噴き出す夥しい量の血。出血量から彼の命が尽きるのは火を見るより明らかだった。
この予想外の決着のつき方に、朱雀は頭が真っ白になった。
「なんで……青龍……」
「なんでって……あのねぇ朱雀。今回の僕は君のサポート。つまり、君が窮地に陥ったら助太刀するのが仕事なんだ」
「せやかて!」
「まぁまぁ。それに、やられた本人は満足そうだよ?」
青龍にそう言われて朱雀達は今にも死にそうな人志を見た。
青龍の言うとおり、人志はどういうわけか笑っていた。
「……最高だよ、雲雀。僕が求めていた至高の美とは、君だったんだ…………躊躇いや、愛情を抱きながら……それでも死力を尽くして、大切な者と戦う……そんな憂いと儚さを兼ね備え、懸命に戦う姿こそが……こんなに美しいとは……さすがは愛弟子。僕が惚れ込んだだけはある…………ありがとう……僕は……満足…………だ………………」
そう言い終えると人志は、安らかな顔をして息絶えた。
敵として、そして師匠として、彼は最期に弟子の健闘を讃えたのだ。
しかし、当の彼女はこんな幕切れを望んでなどいなかった。
「青龍……なんで……なんで……!?」
「じゃあ僕は、どうすればよかったの?」
「……青龍のドアホーッ!」
平然と聞き返す龍に雲雀は縋り、そのまま泣き崩れる。
けれどその泣き声は、無情にも、雪と寒風の音にかき消されていった………………
翌日。登別旅行を終えた龍は帰りの電車の中で、昨夜のことを反省していた。
雲雀は自分の手で彼を討ちたかったはず。いや、それ以前に、彼を殺さず和解させるという選択もあったかもしれない。
そう思うと、彼女に申し訳ないことをしたと後悔の念が尽きない。
「あの……」
「ん? なんや? ドアホ龍」
雲雀がそう言うと、龍は人志を殺したことを詫びた。
そんな彼を見て、雲雀は諦めのため息をつく。
「……もうえぇよ。過ぎたことやから。それに、人兄ぃは幸せやったやろうから」
「雲雀さん……」
龍が心中を察してしてそう言うと、初めて下の名前で呼ばれた雲雀は嬉しそうに反応した。
「お、呼び方変えたんか?」
「あ。その、自然にそう言った感じなんだけど……嫌だった?」
「嫌なわけあるか。大歓迎や。けど、クヨクヨすんのは気に入らん。帰ったら罰としてパシリな」
いつもの感じに戻った彼女からのパシリ宣告に、龍はギョッとし、ガックリとうなだれた。
今回の旅は深い悲しみを生んだものとなったが、龍が雲雀の恋心を知り、距離が縮まっただけマイナスばかりということでも無いだろう。それぐらいのプラスがなければ、誰も救われない。
余談だが、雲雀の理不尽発言に澪が非難したことで休戦協定は破棄。龍が仲裁に入るまで延々と口論が続いた………………
儚さや憂いと共存する力強さ。それを美しいと感じるからこそ、人は桜など舞い散るものを美しいと思うのでしょう。
そんな感性を持っていただけに、彼の生存フラグを問う質問を活動報告に投稿しようかと思いましたが、話の流れ上、今回は見送らせていただきました。




