ハッピー&アンハッピー(6)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
翌日。人生最大級の大厄日を終えた柚は、昼休みに龍を屋上に呼び出した。
目的はいつもやってる復讐のため。ではなく、感謝をするためだった。
もちろん、それだけならすれ違いざまでもできるが、わざわざ呼び出したのには、雲雀や宙あたりに見られると恥ずかしい理由があったからである。
「言っておくけど、ちょっとだけだからね。それに、はっきり言って余計なお世話だったよ」
「ははは。やっぱ、手厳しいな」
「けど、感謝してるのは本当よ。あれが無かったら、今頃……だから……」
そう言って柚は、頬を赤く染めて目を逸らしながら、鞄から綺麗に包装された箱を渡した。
昨日から日付が変わって、今日はバレンタインデー。そう。箱の中身は手作りチョコである。
朝っぱらから襲撃しに来た相手からの予想外のチョコに、龍は驚きを隠せない。
「か、勘違いしないでね。お礼の義理チョコだし、龍君の命を諦めたわけでもないから」
「……わかってるよ。それでもすごく嬉しい。ありがとう。猫宮さん」
悪意の欠片もない優しい笑顔でそう言われて、胸がキュンとなった柚は、耳まで真っ赤にする。
と、そこへ、この現場を陰から覗き見ていた死獣神メンバーと未来と美夜と宙が姿を現した。
見ようによってはヤンデレ&ツンデレの本命チョコを渡すシーン。そうでなくても微笑ましい場面を茶化された柚は、不満と照れくささから頬を膨らませた。
こんな青春の1ページのような光景に柚が加わっていることに、武文や未来らが嬉しく思う中、同世代のチョコを追い求める宙は、
「なぁ、ネコ。龍の分があるってことはぁ、幼なじみである俺の分もあるなよな?」
と、希望を込めて聞いた。が、
「無いよ」
即答で返され、残念そうに肩を落とした。
「あっ。でも、チョコじゃないけど、1つだけ渡すものがあった。もっとも宙君だけじゃなくて、翔馬君もだけど」
何かを思い出した様子の柚に笑みを浮かべてそう言われた下心丸出しコンビは、チョコ以上のものが貰えるかもしれないと期待に胸を躍らせた。
その一方で、彼女の笑顔を見てゾッとした龍達は、邪魔したら悪いなど適当な理由をつけて、屋上から出ていった。
その嫌な予感は見事に当たっていた。
龍達が出てから間もなく、今回の一件の元凶である翔馬と、それに便乗して柚を押し倒した宙は、彼女の拷問フルコースをくらって、血塗れのズタボロ&干物になった。
恐ろしい手段で報復した彼女が作っただけに、龍は帰宅後、恐る恐る食べたが毒は入っておらず、他の4人から貰ったものと同じぐらい、甘くて美味しい真心のこもったチョコレートだった………………
余談だが、翔馬は予想通り恋と零からチョコを貰えたものの、宙は美夜に愛想を尽かされて貰えず、結果、例のお隣りさんからの1個しか貰えないという散々なバレンタインとなった。
以上が死獣神メンバーと宙らのバレンタインデーです。宙に関しては自業自得ですが、各々素晴らしい日となったことでしょう。
ちなみに僕は幼稚園ぐらいがバレンタインのピークで、最高で7個ほど貰っていました。(今となっては0ですが)




