黒猫の災難(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
平成18年2月13日午後12時半頃。バレンタインデーを翌日に控えたこの日、女子はチョコを渡す相手の事を考え構想を練り、男子はどれだけチョコを貰えるかウキウキワクワクしていた。
普段は殺し屋稼業をしている死獣神メンバーのほとんども、表ではただの中学生。そこのところは他の同級生らと何ら変わりない。
未来と雲雀と澪は当然の如く龍一筋。美夜は援助交際の相手の中年と、貰えなかった時のお情けとして、武文と翔馬と宙に渡すつもりらしい。
そんなキャッキャしている女子の会話を小耳に挟んだ龍達の話題も同じで、大牙は透美から1個。武文は紫乃とおそらくもう1人から。翔馬は今カノと元カノから1個ずつは堅いと予想した。
残る龍と宙はというと、
「僕は……多分、3、4人、かな?」
「4人って、あと1人誰だよ? 柚ちゃんはあぁ考えてる以上あり得ねぇだろ」
「姉さんだよ。海外から空輸してくると思うけど、忙しかったら無理だろうから」
そう言われて武文らは納得した。
「いいよなぁ、お前らは。1人からってだけでも嬉しいのに、複数って」
「黒田君だって貰えるだろう? 黒川さんに猫宮さんに、近所の良くしてもらってる人」
「最後のは40後半のババアじゃねぇか! 思春期男子たるもの、いつだって欲しいのは、同世代の子から貰うチョコだ!」
武文が上げた名前に声を荒げてそう言う宙のセリフを聞き、龍と武文は名言もしくは迷言が出たと感心しつつバカにした。
「それに、ネコはわかんねぇよ。前のあいつならともかく、今のあいつは、俺らの知ってるあいつじゃねぇから」
宙はそう言いながら、少し俯いた。
確かに前までの彼女なら、チョコをくれたり、ドジったフリをして忘れてくるだろう。
しかし、今の柚は違う。貰えるかもしれないが、冷たい口調で否定される可能性もある。
それぐらい彼女が別人となったことに、宙は落ち込んでいると龍達は思い、同情した。
ところが、程なくして開いた彼の口から出たのは、
「そういうわけだから……てめぇらそのLOVEパワーを俺に恵めぇっ!」
という、いつもの彼の嫉妬に満ちた言葉だった。
「うわっ! 愛に飢えすぎてゾンビ化した!」
「こいつはやべぇな。おっと。俺ちょっと理科室に忘れ物したから取ってくるわ。あとよっろしくー」
「そ、そんな! 鬼ー!」
そう同時に言う龍と武文を尻目に、翔馬はチョコと愛欲しさにゾンビ化した宙を押しつけて、理科室に向かった。
タイトルを見ればわかると思いますが、今回は黒猫が主役の話です。




