少女の涙(2)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
紛うことなき正論。これで止まってくれれば御の字なのだが、ここまで見てわかる通り、彼女は分からず屋である。すぐに戦いをやめてほしいと願うのはそれこそ淡い希望だ。
「……何遍言わせたら気が済むの? あなたのその甘ったるい考えを、私に押しつけないで。そんなに寝言が言いたいなら、寝かせてあげる。永遠にっ!」
黒猫はそう言うと、額とドリルとの距離を縮めていった。が、
「そっちこそ、何回言ったらわかるんだ! この……分からず屋ーっ!」
青龍はそう言って力ずくで彼女をどかし、立ち上がるとすぐに一旦離れた。
その間に今度こそ仕留めようと、黒龍千鱗腕を再び装備した黒猫に、青龍はめげずに停戦を呼びかけた。
「猫宮さん。もうやめよう! こんな不毛で虚しいだけの戦い! 君はもう自分を殺し、自分に嘘をついて、復讐者になる必要無いんだ! そんな悲しい人になっちゃダメだっ!」
「元凶が勝手なこと言わないでっ! あなたがどれだけ甘い言葉を並べ、偽善をしたところで、私の考えは変わらないし、あなたの罪も消えない! だから、大人しく死んで、青龍! 大事な仲間や友と共に……! 夜叉ぁっ!」
青龍を全否定し説得も拒絶した黒猫は、怒りに任せて夜叉をした。
だが、1回目の夜叉を受けたことで、彼はそれをとうに見切っていた。
「龍! 宙らはうちらが全力で守ったる。せやからあんたは、柚を止めぇ!」
「そして、彼女の闇を晴らして!」
未来らの声援を受けた青龍は力強く頷き、その場で高々とジャンプした。
迂闊に跳んだと思った黒猫は、防御態勢すらとらない彼に狙いを定め、飛びかかった。
そこを、彼女の弱点をみつけた青龍は見逃さなかった。
斬られる寸前に、ドラコスラッシャーの重みを利用して着地した青龍は、よけたあと、跳躍に必要な足場を失い落ちてくる黒猫の手を掴み、一本背負いで地面に叩きつけた。
勝敗を分けた黒猫の弱点。それは、夜叉が屋内向きということである。
というのも、夜叉の威力を最大限に上げるためには、教室等といったそこそこの広さと天井がある屋内が理想的である。
それ以外だと、今回のようにスキだらけになったり、せっかくの速度が広さのせいで落ちてしまうのだ。
野外戦闘だったことで勝利を勝ち取った青龍は、疲労と激痛で立ち上がれない黒猫の首元に、ドラコスラッシャーをそっと突きつけた。
「猫宮さん……勝負ありだよ」
「……悔しい。黒龍さん、鴉さん、パパ、ママ……ごめんなさい……仇も討てずに、私は……」
悔しさの涙を流す黒猫とそんな彼女に刃を向ける青龍を見て、宙と美夜は彼が命を奪うと思い、必死に止めた。
一生許されないような裏切りをしたのに、2人はまだ彼女を、柚を幼なじみだと思っていたのである。
戦いは終わりました。
屋内戦ならおそらく負けていたであろう強敵である黒猫相手に、青龍は殺し屋として、彼女の友人としてどのような決断を下すのか。
クライマックスはもう間もなくです。




