朱雀と人形(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
午後8時。一足先に風呂から上がった龍と澪が卓球をしていた頃、雲雀は露天風呂で人志のことを考えていた。
(人兄ぃ、あの頃のまんまやったなぁ……9年、か……もうそんな経つんか……)
そう心の中で呟いたあと、雲雀は9年前の出来事を思い起こした。
平成8年8月20日。登別に来ていたとあるサーカス団のテント内で、2人の少女が曲芸を披露していた。
1人は当時5歳の雲雀。もう1人は雲雀と同い年でありながら、このサーカス団の最年少クラウンであり、先日師匠を病院送りにしたばかりの問題児・道重鶉である。
2人の可憐な少女の芸と、そんな彼女達におもちゃにされるピエロ役をしていた当時18歳の人志のおかげで、この日の興行も大盛り上がりで終演した。
午後7時半。1日の仕事を終えた雲雀達団員は、サーカステントの隣りで打ち上げパーティをしていた。
「お疲れ。雲雀、ウズラ。よく頑張ったね」
「おおきに、人兄ぃ」
「もう、人兄ぃ。あたしはウズラじゃなくってジュン! ほんっと人兄ぃっていけずなんだからぁ。ピエロのくせに生意気だよ?」
そう言う鶉を雲雀が窘めるのを見て、人志や団員達はまた姉妹喧嘩が始まったと茶化し、親戚のような目で2人を見ていた。
それもそのはず、雲雀がいたサーカス団は、そのほとんどが何らかの事情で親に売られた者達で構成されており、雲雀も4歳の時に勝手な理由でここに売り飛ばされた者の1人である。
故に雲雀にとって人志は、仲間であり、師匠であり、兄のような存在でもあった。
そんな親戚の集まりのような楽しいパーティは佳境に入り、雲雀ら子供の団員達がそろそろ寝る時間になろうかという時に、団長が雲雀を呼び出した。
鶉が呼ばれるのなら、例の病院送りの件を咎めるためと納得がいくのだが、自分となると理由がわからない。
「きっと、直々に誉めてくれるんだよ。ここのところよく頑張ってたし」
人志の言葉で、幼いながらに合点がいった。
「ほなら行ってくるわ。鶉もあとで顔見せた方がえぇで。あのことで団長怒っとるやろうし」
「そんなの、ヒバリンに言われる筋合い無いよ」
そう言ってアッカンベーをする鶉に雲雀は呆れたが、今は団長の用が先決だと思い、団長の部屋に向かった。
この過去回想は後々少なからず関わってきます。




