朱雀と人形(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
平成17年12月3日午前8時頃。龍と澪は1泊2日の登別旅行に誘おうと、雲雀の店を訪れた。
鍵は開いてるものの姿が見えないことから、まだ寝てると思った2人は、彼女を起こそうと、店の奥と2階にある居住スペースに無断で入った。
1階と2階のほとんどの場所をくまなく捜し、残すは突き当たりの1部屋のみ。気を引き締めて扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
物凄い数のファンシーな動物系のぬいぐるみが部屋を埋め尽くしている。普段の雲雀のキャラを知る2人は、その光景とのギャップに絶句した。
「これは……すごい、ですね……」
「う、うん。なんか、圧倒されるよ。ともかく捜そう」
そう言って気を取り直し、龍は澪と手分けして、ぬいぐるみを掻き分けながら雲雀を捜した。
すると程なくして、1体だけ妙に硬いぬいぐるみがいた。
まさかと思い引っ張り出してみると、案の定それは、赤いウサギの形をしたパジャマを着た雲雀であった。
唖然とする2人だったが、抱き上げて確認してから間もなく、雲雀が目を覚ました。
「ん。うぅん……ん!?」
寝起きで自分のプライベート空間に入ってきた不届き者が目の前にいる。雲雀は一瞬夢かと思った。が、
「お、おはよう」
「おはようございます」
と、龍と澪が嫌な予感がしたせいか、顔を引きつらせて言った段階で、現実だと気付き、殺気を伴った怒りの炎を燃やした。
「あわわわわ……」
「人んちで何しさらしとんじゃ、ダブルドアホーッ!」
直後、龍と澪に惨劇が起こった。
午後3時頃。ボコボコにされた龍は、何とか雲雀を誘うことに成功し、昼のフライトで登別に到着した。
本当なら仕事や学業を忘れて、ゆっくり旅を満喫したいところだったが、到着早々翔馬が忘れ物として送ってきた武器一式が、いきなり旅の気分を損なわせた。
とはいえ、せっかく来た以上、満喫しなければもったいない。まずは宿をとることにした。
その際、龍から男女別の方がいいかと提案があったが、宿代節約などから3人同じ部屋で泊まることになった。
龍は雲雀と澪さえ良ければ何でもよかったが、龍を取り合う2人の少女は、彼と同室ということで喜び、最後まで楽しい旅にするために、龍の見えないところで休戦協定を結んだ。
雲雀のような仕事人間のプライベートを覗くことは、基本的に御法度です。このような目に遭いますので。