エンディング 〜これからも〜
──あれから、2年の月日が経った。
ユトソル諸島での一連の戦闘行為については、アルディス連邦王国・大正民国連合軍による、マナスダ合衆国・ディノマ帝国連合軍に対する二島及び三島奪還作戦の完了によって、勢力図が開戦前の状態になったことを以て終結。
……しかし、それでも両陣営の関係性自体は戻るわけもなく。
それら東西二大国家間における対立はさらに深まっており、ちょっとしたことをきっかけにして、いつ全面戦争が起きてもおかしくはない……まさに一触即発といった状態だ。
──そして、そのような緊張した世界情勢の中。
「……さて、あとは降下地点に着くまで待機するだけか」
「あぁ、ここまでの流れは順調そのものだ。……順調すぎて、この後ありうるしっぺ返しが怖くなるくらいにはな」
そんな掛け合いをする、2人の男たちがいた。
彼らは、特別任務遂行部隊に与えられた任務として、アーヴィナ国からマナスダ連合国という、西大陸の南北間を航行する輸送機の貨物室内に潜入していたのだった。
そんな彼らに与えられた任務は、両国の間に位置する三大国が1つ、マナスダ合衆国への潜入捜査。
故に、彼らはこうしてこんな居心地の悪い場所で、パラシュートを背負って待機をしているのだ。
──そう。彼らの名は、高崎佑也とルヴァン=ナデュトーレ。
つまり、その任務とは『魔術聖典』に関することで。
具体的に言うと……現在2人は、マナスダ合衆国中西部に位置する世界最大の砂漠『ヘヨヌ砂漠』のどこかにあると言われる古代遺跡。そして、そこに隠されているという『魔術聖典』を見つけ出すための任務に従事しているのであった。
「──まだしばらく時間もありそうだな。……暇だし、なんか話さないか? ユウヤ、なんでもいいから面白い話してくれよ」
「なんだそのむりゃぶりは。……そうだな。そういや今頃、みんなは何をしてるんだっけか」
手に持った五十口径もある愛銃のメンテナスをしながら語りかけてきたルヴァンに目を向けながら、高崎はそう呟く。
言わずもな。彼の言う『みんな』とは、彼ら以外の特別任務遂行部隊の仲間たちのことである。
「──テラは、アベリや大正民国の風早唐馬と一緒に、東大陸南部にある亜人国家、魔民族共和帝国とサラマ王国に行ってるはずだ。魔術の扱いに長けている彼ら魔族やサラマ族の中から、『協力者』を見つけるためにな」
オイルを銃身に丁寧に塗りながら、ルヴァンは話す。
「……エレナは、恐らく『アイツ』と行動を共にしてる。身分上、それが出来る一番の適役だからな」
「それはまぁ、そうだろうな。……確か、コルタスやエリゼは、アルディス国内でスパイ任務に従事してるんだよな?」
「そうだ。2年前は入隊したのてガキだったアイツらも、今じゃなかなか立派になったもんだ」
ルヴァンが散布したガンオイルを拭き取りながら、どこか感慨深げにそう呟いた。
「──それと、お前の彼女は、回復魔術を使った隊の救護部に常駐か。良かったのか? 置いてきちまってさ」
「……いや、だから彼女じゃないって」
「はぁ? 前からずっと同棲してるのにか? それとも、エレナとの二股を維持するための方便か?」
「ちげーよ!! ……つーか、そう言うお前だって、今はあの世界一の大企業シヴェル社の娘さんと同棲してるんだろ? お熱いねぇひゅーひゅー」
「いやなんだその煽り方は。小学生か? ……まぁ、シエルは最近、特任部隊における最大手の協力スポンサーとして『アイツ』と仲良くやってるよ。おかげで部隊の各設備や装備は充実してるし、ありがたいことだ」
そう口にしたルヴァンは、整備の終わった銃を眺めながら。
「──それと、クルズとセルヴィナは今頃、ロダン少佐のしごきを受けてるんじゃねぇか」
「そうか、そういやその2人も入隊してからしばらく経つもんな。そろそろ本格的になる時期だろうし、大変そうだ」
「2人とも、教育特区の第二魔術学院を卒業後、お前を追ってきたんだろう? お前にとっちゃ名誉なことだよな」
「それはそうだけどさ……アイツらにはもっと別の良い選択肢があったんじゃないのか……って思っちまうんだよ」
「ま、それは言えてるな。普通の軍隊なんかよりずっと死ぬ危険も多いくせに、表にその活躍が明かされることはない。そこらのコンビニでバイトでもしてた方が、感謝もされるだろうしやりがいもありそうなもんだ」
そんな軽口を挟みつつ、彼らの会話は続く。
特別任務遂行部隊のメンバーは、今は皆、別々の任務に従事しているのだとしても、それぞれが『1つの目的』のために進んでいるのだった。
「──にしても、そう考えてみたら、やっぱあの王女サマはホント人使いが荒いよなぁ。今回だって冷静に考えてみりゃ、輸送機から砂漠のど真ん中に飛び降りるとかイカれてるだろ。俺らは使い捨ての駒じゃねーんだぞ」
『──あら、私の陰口? あなたも一丁前になったものね』
「──ってうわっ!? め、メルヴィ!!?」
そんな愚痴をぼやいた高崎の持っていたデバイスから、そんな聞き慣れた声が急に聞こえてきた。
言わずもな、その相手はメルヴィ王女。
高崎らの愛称(?)で言えば、『アイツ』であった。
『私だって別にあなたたちをこき使うだけ使って、自分高みの見物してる……という訳じゃないのよ? 『敵』の情報を掴むために、当然かなりのリスクを背負ってるんだからね?』
「いやまぁそれは知ってるけどさ。実際現地に出向いて血を流すこっちとしては、愚痴の1つぐらい言いたくなるんだよ」
そう再びぼやいて、高崎がため息をつく。
そんな彼の声を聞いて、メルヴィは愉快そうに笑うのだった。
『──なんて言っているうちに、もうすぐ目的地みたいよ?」
「……うわ本当だ。いつのまにか、そんな時間経ってたのか」
メルヴィの指摘を聞いて、デバイスを使って位置情報を現在の確認した高崎がそんな驚きの声を上げる。
あとものの数分で、この輸送機は降下地点に辿り着くようだ。
『──じゃあ頑張ってね。くれぐれも、そんな場所で死んだりしないように。……期待してるわよ、私の騎士たち』
そう最後に小さく囁いて、彼女は通話を切断した。
それを聞いた2人は顔を見合わせてニヤリと笑って。
「……ったく、しょうがねーな」
「あぁ。俺たち、こんなとこて死ぬわけにはいかねーよな」
そう言って高崎とルヴァンは腕を軽くぶつけ合うと、デバイスなどの装備品をしまってから、ゆっくりと立ち上がった。
「──アシリア、ハッチのロックを解除してくれるか?」
『はいはい任せてっ! こんな時代遅れとしか言いようがない旧世代の電子ロックなんて、朝飯前なんだからっ!! ……まぁ私はご飯なんて食べる必要はないんだけどねっ!』
絶妙に笑いづらいブラックなジョークをかましながら、本当にあっという間にロックの解除が完了する。
まさに、チート級の能力といえるほどの力であった。
このように、彼女のそのような力と、災害級の天才であるホレス=ナカミトの発明品に関する知識は、これまでの特別任務遂行部隊の活動を支えてきた強大な柱である。
彼女がいなければ、特任部隊解析班ホムスらによるホレス博士の発明品の再設計も不可能だっただろうし、こうした潜入任務の実現も難しかったことだろう。
アシリアも、高崎たちにとって立派な『仲間』の1人なのだ。
「──じゃあ行くか、ユウヤ」
「……あぁ、今日も今日もで、世界ってヤツを救うための危険な活動の始まりだ」
彼らは、そんな風に呟き合うと。
開いたハッチから、迷わず飛び降りるのだった────。
『──って、違うでしょー!!? そこは例のセリフでキメるところでしょー!!!」
「はいはい、あいあいさー」
『ちょっと!! そんな落ちながら適当にウェリス様の決めセリフを言わないで────ッッ!!!』
こうして、彼らの物語は続いていく。
──いつか。世界が平和になる……そのときまで。




