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3話後編『最終防衛線②』





「──ごばッッッ!!!!?」


男が、それを声というには余りに奇怪な悲鳴を上げた。

その表情は驚き、そして苦痛。その目は瞳孔が大きく開き、口もまた大きく開かれて唾を飛ばしている。


そしてその胸には……、突如として真後ろから突き立てられた“剣先が、赤く黒い血を滲ませつつ“貫通”していた。



──斬全刀。


それは、中雅に伝わる古の魔剣。


歴代の皇帝によっても愛用され、その込められた魔力のチカラによってあらゆるモノを切り裂く。先の正朝内戦でも、重要な局面において使われた逸物だ。



「……まったく、隙がありすぎでしょ。いくら戦勝ムードとはいえ、もう少し警戒しとくべきだったんじゃないかな?」


いつの間にか男の後ろに立っていた少年は、感情の感じられない声で呟きながら、突き刺さった剣を容赦なく引き抜く。


当然ながら、その傷口からは血が噴き出すように出てくる。誰の目で見ても分かる、明らかな致命傷だった。

そのまま男は、力無く膝から崩れ落ちる。



それを見つめる少年の顔はまた無表情。


──風早、唐馬。


このユトソル諸島での争いを終わらせるために潜入していた今の彼には、普段の感情豊かで心優しい姿のカケラもなかった。




「………………かっ……はっ───」


そんな唐馬とは対照的に地に伏せた男は、なんとか浅い呼吸のようなものをするばかりで、既におよそ人間としてまともな活動は出来なくなっていた。その口からは血が溢れている。


彼はそんな男を尻目に、迷うことなく彼の座っていた椅子の前に置かれている大きなパソコンへと手を移す。

そして懐から取り出したスティックを挿しこみ、ささっとキーボードを叩いて、何かを起動した。



「悪いけど、この中の情報ぜんぶ頂いてくよ」


なんて少し冗談ぽく彼が言っていると、その画面には新しいウィンドウが開かれ、ゲージと共に何%という表記が浮かぶ。


“何か”のダウンロードが開始された合図だ。



その完了にはしばらくの間かかるらしい。

作業もひと段落した彼がふと横を見ると、そこにあったのはあまりにも無惨な血溜まり。そして、その中心に倒れ伏した男はピクリとも動かない。既に生命活動を終了していた。




(はぁ。任務とはいえ、やっぱ気分のいいもんじゃないなぁ)


小さなため息を吐きながら、唐馬が目を少しばかり細める。それは、彼がこの敵拠点に潜入してから初めて出した感情のようなものであった。


今までのは任務に支障をきたさないようにするためであり感情を押し殺していただけで、思う所はそりゃ当然ある。彼は別に幼少期から殺し屋になるすべだけを教えられてきた孤児や、悲惨な過去の結果感情を失った男だったりする訳ではない。

 


だがしかし。そう心の中で感じてしまうのと、実際それをすることを躊躇うかどうかは別だ。

平時ならともかく、今は非公式とはいえ戦時下。

必要だというのなら、いくらでも敵軍は殺す。


もし、この世界に“あの世”があるというのなら、地獄へ落ちる覚悟はできている。




──そんなことを改めて決意しているうちに、データのコピーが完了したようだ。


スティックをさっと引っこ抜き、再びそれを懐にしまう。

あとはこの中のデータを味方陣営へ送信すればオーケーなのだが、通信を傍受されるなりするのをを警戒し、ここを脱出してからやることとする。警戒は任務の遂行に支障をきたさない限りでは、するに越したことはない。




「まぁそんな訳で、まだやれることはありそうだし、もうひと暴れしようかな」



そう呟くと、彼はニヤリと不敵に笑った。



そして。



その手に“粘着爆弾”を握りしめて、歩み出すのだった────。





 



────────────────────────────








「──という感じで、風早jrが侵攻軍の最高責任者をぶっ殺して司令室にあったデータをあらかた盗んだ後、自前の爆発物と武器庫にあったのを使って司令本部と武器火薬庫爆破に成功したらしいから、今敵軍は混乱状態にあるって訳よ」


「「「……えぇ……」」」



そんなこんなで。


作戦行動が開始され、例のステルス艦の中に乗り込み、美しいほどに綺麗な地獄洋の強い波に揺られていた高崎たち一行はそんな成果の報告にちょっと言葉を失っていた。


なんというか、少しばかりドン引きなのだった!



……いや、だが実際のところ。この敵軍に追い込まれた状況を打開する必要がある今、余りある大戦果ではあるの確かだ。


別の島のことであり、二島にはまた別の拠点と司令官はいるだろうとはいえ、敵軍全体にかけて凄まじい混乱が起きていることは想像に難くない。

これで、作戦もうまくいきやすくなることだろう。さすれば、こちらの死者も減るという訳だ。



そういう意味では、彼の成し遂げたことは非常に素晴らしいのだが…、それはそれとしてそのやり口には味方側ながらに恐怖を抱かざるを得ないのが人としての心境だ。


そりゃそうだろう。一国の……しかも三大国を占める大国の軍の1つの拠点が、たった1人によって壊滅させられたのだ。

最新鋭の科学技術と、才能溢れる魔術を最大限に活用したことで、そんなバカげたことが成し遂げられてしまったのだ。相変わらず、この世界はぶっ飛んでいると言わざるを得ない。


そして裏を返せば、これはそのような事態は“こちら側”にも起きうる、ということにもなる。



というか唐馬、お前あんな純粋そうなフツーの思春期男児って感じだったのに、そんな一面もあったんだね……。




「──ま、消し飛んだ彼らにゃ少しは同情しないでもないが、あっちも先に奇襲ふっかけてきたんだからお互い様だろ。それに対処できないのが悪い」


流石に報告を聞いた時には少し困惑していたルヴァンも、すぐにいつもの冷静な感じに戻っていたらしく、そんなことを呆れながら言っていた。

そんな彼を見て、テラも苦笑しながら呟く。



「ですね。それにやったのは正国の唐馬ですし。もしものときは僕たちは全く関与してませんとシラばっくれましょう」


「うん、この前までけっこう絡みのあった相手に対する対応とは思えないな。最近はルヴァンよりテラの方が実は怖いんじゃないかって心から思うよ。

……てかそんだけ無双できるんだったら、もうあいつ一人でいいのでは??」



テラのけろりとした表情から放たれるえげつない意見に高崎がけっこう本気で抱いた気持ちを吐露すると、ルヴァンが手を広げてやれやれと言わんばかりに息を吐いた。


「ま、そう考えたくなる気持ちは分かるし少しばかり同意したくなるんだが、流石にそりゃ無理だろうな。人間である以上、魔力には限界があるし、そもそもの話身体的な体力にだって限界がある。それに、今頃あいつもやることやり切って、潜伏体制に移行してるだろう。だから後は俺たちが頑張るしかない」


ルヴァンの話によると、二島にこれから高崎が使う地下に張り巡らされた隠し通路があるように、三島にまた古くから有事のために用意していたという潜伏地があるという。

だから、限界まで暴れた唐馬は、その後味方の軍が来てくれるまで、そこで待機すればいいと……いう寸法だそうだ。

まぁ確かにそれなら、かなりの確率で安全といえるだろう。




「だから俺らが今考えるべきなのは、目前に控えた自分達の任務のことだけだ。これが敵の勢力下への潜入な以上、少しのミスが文字通り命取りになるんだからな」


そうルヴァンが普段以上に真剣な声色で言い切った。

そして手元では、なんだか少し物憂げな表情をしながらピカピカのピストルの手入れをしている。



「ま、そりゃそうなんだが……、にしてもそんな複雑そうな表情してどうした? “さっきの女”のことでも考えてるのか?」


「うるせぇ黙ってろ気が散る俺は今作戦開始前のルーティン中なんだ分かったら今すぐ回れ右して他の奴らとでも絡んどけ」


少しニヤついてコフェ=アベリがルヴァンに問いかけると、彼は息もつかせぬほどの早口で棒読み気味にそう言い返した。

普段はあまり取り乱すことのないルヴァンなのだが、今に関してはそんな感じはまるでしない。



……まぁそんなやり取りをどこか他人事のように見ていた高崎としても、そんなルヴァンの様子は“先ほど”のことと関連しているのではと考えていた。




そう、それは────。









────────────────────────────








それは、本日の朝方のこと。


遂に奪還作戦当日となった軍には異様な緊張感が流れていた。まぁそれも当然だろう。今日は間違いなく多くの死傷者が出ることになる。そして気を抜けばそうなるのは自分なのだ。


そんな中、高崎達特任部隊のメンバー達は、プレハブで作られた駐屯地の寮(?)から軍港へと移動していた。


まだ集合するには些か早かったのだが、(高崎としては緊張のせいか)早く目が覚め落ち着かなかったのと、ルヴァンの「ま、散歩ついでに早めに出発しとくか」という提案によってそういう運びとなったのである。


そうしてたわいない会話をしつつ、ゆっくりと歩いていると。



「───待ちなさい!!」


そんな、突如真後ろからかけられたそんな大きな呼びかけに、彼らは思わず体をビクッとさせた。


誰のことかと思いパッと周りを見渡せば、ここには自分らしかいなかった。どうかしなくても自分たちを呼んでいるらしい。


そう考えた高崎は、くるっと振り返ってその声の聞こえてきた方向へと目を向ける。正直、直感的になんか面倒くさそうな予感がしたので関わりたくはなかったのだが、こういう場合は無視したら無視したでもっと面倒になるというのが相場なのだ。



──そこにいたのは、1人の妙齢の女性。

具体的に言うと、だいたい22、3歳くらいだろうか?


優雅に日傘をさしている彼女は、この地には似つかわしくない、まさに大人……って感じのドレスを見に纏っていて、その特徴的な長い赤髪は一本に纏めて横から流している。

身長は靴によるプラスを考慮してもかなり高そうだ。170cm程度はあるのではないだろうか。


そして、その雰囲気。


なんというか、こう、絵に描いたような高飛車のお嬢さま…という感じだった。これだよこれ!これこそが俺の知ってるお嬢さまってヤツだぜ! ……なんて言いたくなるくらいにだ。


こう言うと、私はお嬢さまっぽくなくてすみませんねぇ! ……なんてエレナに怒られそうだが、高崎のいう“お嬢さまっぽい”は、ワガママとかナルシストとかのどちらかと言えばマイナス的な方面での意味なので、むしろエレナは“ぽくない”ことを誇るべきである。……まぁ今彼女はここにいないのだが。



「あ、あの人は──」


隣で高崎と同じく彼女を見つめていたテラが、何かを口にしようとしたとき。

そのさらに奥の隣では、ルヴァンがこっそりと振り返ることなく、そのまま静かに歩みを再開しようしとしていた。



「って、こらルヴァン!! そんな露骨にめんどくさそうな顔してそっぽを向くんじゃないの! せっかくこの私がわざわざ来てあげたのよ!!」


そんな様子を見た彼女が、そう怒鳴りつける。

なんだか、ずいぶんご立腹なご様子であった。




「……………はぁ、シエル。お前、こんな場所に何をしに来た。言っておくが、ここはお前がいていい場所じゃねぇぞ」


流石に観念した、といった感じでルヴァンがようやく振り返って口を開いた。……だが、その声色はだいぶ低めだ。


だが彼女はそんなのに構うことなく、ドヤ顔的な表情を決めて胸を張った。

………けっこう、いやかなり大きいな。



「それは勿論、お父様の生んだ数々の“成果”に関する視察ってやつよ! ここならそれが生で見れるって聞いたからね!」


「…………あのなぁ──」




そんな彼女とルヴァンが、目の前で繰り広げている会話を見ながら、高崎は思う。


(…………うーん、誰ですか……??)


そんな彼のあからさまな様子を見て察したのか、隣にいるテラが耳打ちで話しかけてきた。


「先輩。彼女は、シエル・シヴェル・アベリア。あの天下の大財閥『ラ・シヴェル』代表取締役のご令嬢ですよ」


「…………それ、まじかよ」


「ええ、マジのマジです」



そのまさかのカミングアウトに、高崎が思わずまじかと何度も小さな声で反芻してしまう。


──ラ・シヴェル。

その名を、この世界で知らない人はそうそいないだろう。電子機器、鉄鋼、自動車、そして軍事……あらゆる業界にその手伸ばし、アルディス国内だけでなくこの星のほぼ全ての地域にと言っていい程にその勢力を伸ばしている世界一の大企業だ。


その経済的規模は凄まじくガチで普通の国家規模くらいなら軽くあり、反緑星に独立国家でも作れるくらい……というか実際に宇宙開発を行なっているほどだ。

古くからアルディス王国政府とか繋がりが深く、言ってしまえば結構ズブズブな関係である。というか、政府側ももはや無視はできない存在なのだ。


そんなやべぇ企業、『ラ・シヴェル』は別に世襲制ではないがかなりのケースでその始業者の家系の者が代表を努めており、そのご令嬢とあらば超絶億万長者。一般市民としては、貴族でなかろうとそれ以上の遠い雲の上の存在と言えるだろう。




「──で、そんなすっごいお方がどうしてルヴァンとあんな親しげに絡んでるんだ?」


「うーん、それはですね……」


テラが、どう言ったものか……と言わんばかりに軽く首を傾げていると、そんなこしょこしょ話を嗅ぎつけたシエル嬢がその会話に割って入ってきた。

その背後では、ルヴァンがまた大きなため息をついている。



「あなた、私とルヴァンが理由が知りたいのかしら? いいわ、教えてあげる。そう、ルヴァンと私は……永遠の愛のもと将来を誓い合った運命の人ってところかしら」


少し頬を紅潮させ両手で抑えるようにしながら、彼女がそう言い放った。その表情は、まるで恋する乙女のようで。


──ってちょっと待て、今なんて言った………?



「……おい、お前の性格上いろいろ暴露されるのはもう覚悟してはいたが、嘘はつくな嘘は。俺たちはただの幼馴染みたいなもんだろうが」


「あら、別に嘘じゃないでしょう? 現にお父様たちは式はいつ挙げるのかといつも聞いてくるじゃない」


「それは……、単にからかってきてるだけだろ。あいつら、自分達が昔からの深い仲だからって───」




「ちょいまてちょいまて、これどういうこと??」


目の前で起きている唐突の会話劇に高崎が困惑していると、再びテラが横から小声で補足をしてくる。


「……まぁ言ってしまえば、あの女の人は、兄さんのいわゆる“許嫁”なんですよ」


「──はぁ!? 許嫁!!?」


高崎が思わず絶叫という程に叫んだ。


……曰く、2人のお父さんは学生時代からの親友で、その繋がりで子供の頃からの幼馴染であり、常に2人でいる程の気の合う間柄となり、それを見た両親がならばと婚約を───って。なにそれ、漫画とかの世界じゃん!

高崎の知ってる範囲では全く女っ気のなかったルヴァンに、そんな人がいたとは驚きだ。



「……でも、お前らって別に貴族じゃないよな。いくら仲がいいからってそんなご令嬢と許嫁になれるものなのか?」


「いやまぁ確かに高貴な貴族って訳じゃないですけど、それは相手も同じですし。それに自分で言うのもなんですが、平民の中では僕たちも軍事系では結構由緒ある家なんですよ? じゃなきゃ父さんが学生時代に同じ学校なんて通ってませんって。しかも正統な後継者になるだろう人は他に色々いますし」


……確かに。

そもそも、高崎はなんとなく親しい故に知っているつもりだったが、ナデュトーレ家自体のことは全然知らなかった。まぁこれだけの才能を受け継いでいる者なのだから、その親も超優秀という訳か。




「──まぁそれは一旦置いといて。おいコラ幼馴染の許嫁とか、ずりぃぞテメェこの野郎ぉぉッッ!!」


「おいテメェ急に胸ぐらを掴むな! ……つーか、お前にだっているじゃねぇか幼馴染!! しかもめっちゃ優しそうな可愛い娘! どの口が羨ましいとか言ってんだボケ!!」


「は、はあああああぁぁーーッッ!!? ああああいつとは別に付き合ってなんかねーし!? 長年一緒に過ごしてきたから兄妹みたいなもんだし!?」


「それを言うなら俺だってそうだわッ!! シエルは子供の頃からの付き合いで姉さんみたいなモンなんだが!!?」



そんな余りにもしょーもない事で胸ぐらを掴みあってる2人を周りが白い目で見ている中、シエルがそんなルヴァンの言葉を聞いて意味深げにクスッと微笑んだ。


「──あらそんなこと言って。ルヴァン。なら、あなたはお姉ちゃんと何度も体を重ねるような倫理観を持ってるの?」


「ぶふッッ!!!」


「ちょっ、ちょっと何言ってんだおまッ!?」


ルヴァンが今まで2年近くの付き合いの中で、一度も見たことないような表情でシエルの方に目を向けた。

一方の高崎としては、突如ぶち込まれた核弾頭クラスの爆弾発言に、なんかもう……人として負けたような気分に打ちひしがれていたのだった!!




「……で、結局2人はどう言う関係なんだ?」


少し経って、高崎がテラにそう問いかけた。

その後方では、ルヴァンとシエルのが何か言い合っている。


「うーん、正確に話そうとすると長くなりますけど、まぁだいたい姉さんの言う通りですよ。フツーに相思相愛の許嫁です、見ててなんか腹立つくらいには。兄さんはなんかああやって少し照れてごまかそうとしてますけど」


テラが苦笑いしてそう言い切った。

その言い方からしても、どうやら間違いなく本当なようだ。

それに、2人きりで話しているのを見てみれば、言葉ではうまく表現できないが……こう遠慮がないというか、少なくともなんだか長年連れ添ってきた関係なのは見てとれた。



そんな彼らを見つめて、高崎が自身の太ももを強く叩く。


「──クッソ!! ちくしょう、むちゃくちゃ羨ましい……相手は世界トップの超大企業の娘にして、歳上の幼馴染でさらには両親公認の許嫁、普段は高飛車な性格だけど、実は自分には優しいお姉ちゃんって……盛りすぎだろ!! それで既に経験済みとまできたもんだ!!」


「……先輩、どうしちゃったんですか急に」


「あんなの急に見せられれば、こうもなろうよ!! ルヴァンはイケメンで天才で運動神経抜群の完璧超人だけど、女っ気がないとこだけが親しみやすいとこだと思ってたのに、なのに……! くそっ!! そんなにイケメンがいいかッ!!」


「いや、確かに兄さんはイケメンですけど……あの2人の場合そこは本質ではない気が。それに、先輩も普通にカッコいい部類だとおもいますよ?」


「やめて変に気を使うの!! なんか虚しくなるから!!」


「いやただの本心なんですけど。……先輩って、自己肯定感低すぎじゃないですか?」


テラがジト目で、地べたに四つん這いの高崎を見つめる。



いや、実際この立場に置かれてみれば分かるだろう!

この特任部隊の面々はひどく個性的(マイルドな表現)な問題児ばかりではあるものの、容姿は美男美女ばかり!それにみんな何かしらの飛び抜けた才能を持ってるときた!!

高崎はそれまでは自分のことをそれなりにハイスペックだと思っていたが、その幻想はこの部隊で儚げにも打ち砕かれたのだ。まさに井の中の蛙というヤツだ。


なんてことを考えながら、高崎が言いえぬ敗北感に打ちひしがれていると、ルヴァンとの話し声が聞こえてきた。




「──で、じゃあ何でそんなに不機嫌なの? 私とそんなに会いたくなかったのかしら?」


「いやそうじゃねぇよ。……だがな、ここは戦場なんだ。安易に一般人が来ていい所じゃねぇんだよ」


そうルヴァンが突き放すように言ったせいか、彼女は余計に意地を張るようにして唇を尖らせた。



「だから大丈夫だって、今から戦場になるのは二島の方なんでしょう? ここなら安全じゃn───」


ガバッッ!!!


そう音が鳴るほどに、ルヴァンが彼女の両肩に手をついた。

急な接近と衝撃に驚いたのか、肩をブるっと震わせた。



「ちょっと何すんのよ……!! ってルヴァン……?」


「──頼む、わかってくれ。戦場には安全な場所なんてないんだ。俺にだって、必ず守るなんてことは出来ねぇ。

 つまり、何が言いたいかっていうとさ……」



そして声を振るわせるようにして、彼は再び口を開く。



「──俺は、お前に何かあってほしくないんだよ……!」


「ル、ルヴァン……」



気がつけば、ルヴァンは彼女の手をとっていた。


一方のシエラは頬を染めて、じっとその顔を見上げている。




「──分かったわよ、本国に帰る。ごめんなさい、私どこか戦場ってものを舐めてた」


「いや分かってくれればいいんだ。ありがとな」



「……でも───」


彼女がそう区切って、握られた手を再び強く握り返す。

そしてその身長差のある見上げる顔には、僅かばかりの涙のようなものが浮かんでいた。



「──あんたこそ、……死なないでよ」


「あぁ、当たり前だろ。必ず帰ってくるから」



そう掛け合って、2人は再び見つめ合う。


そして、ゆっくりとその距離が近づいていき。



そのまま、優しく抱き合うのだった───。






(………お、おうふ……)


そんな2人きりの世界のすぐ近くで、なんとも言えない表情をしている1人の男がいた。言わずもな高崎である。

2人の会話劇をただ見ていた高崎としても、それはなんだか見るのも憚れるくらいのイチャつきっぷりであった。思わず口を抑えて「え、ちょっと待って、むり……しんどい……ルヴァシエ尊み深すぎ……」と言ってしまいそうな感じだ。


……なんて下らないことを考えていても、2人の世界はまだ終わってはいなかった。




そうして、しばらくの間。



高崎たちはそんな光景を、静かに眺めるばかりなのだった──。









────────────────────────────








「──うん、やっぱ俺としてもあのご令嬢との関係は気になるな。そんでルヴァン、実際のところお前はどう思ってるんだ?」


「……どうって、何がだよ」


長い回想の末ようやく辿り着いた高崎のその質問に、ルヴァンが銃の手入れを続けながらとぼけたように聞き返す。

因みに、今彼が持っている銃は先ほどシエルが渡したモノだった。最近開発されたラ・シヴェル製の最新鋭モデルだそうだ。



「そりゃもちろん、あのシエルさんのことに決まってんだろ。そりゃ大切に思ってるのは見て分かったけど、本人の口から気持ちを聞きたいと思ってな。……結婚まで考えてるのか?」

 

「………あのなぁ、普通そこまで踏み込んでくるか普通。せめてもう少し婉曲的に聞こうとかいう努力をしろよ」


呆れたようにしてはいるが、彼はあまり嫌そうにしている感じではなかった。その彼女もいなくなったので、もう色々幼少期の恥ずかしい話を暴露されることもなければイチャつきを見られることもないからだろうか。



「──まぁ、あいつのことは好きだよ、そりゃ。それは子供の頃から変わらねぇ思いだし、ぶっちゃけるとさ」


窓から見える海を見つめながら、彼は素直にそう白状した。

しかし、「けど」……と彼は付け加える。



「それはそれとして、俺はまだ当分軍人として生きたいと思ってんだよ。それもまた夢だったし、実際今楽しんでる。

……ただ、この職にいる限り、いつ死んでもおかしくねぇ。だから、俺はいつかアイツ悲しませることになるのかもしれない。それが心配なんだ」


「はっ、なんだそれ。その心配、もう遅いだろ。今ここでお前が死んでもいつか子供が出来てから死んでも、お前はもうとっくのとうにあの人を1番悲しませる存在だろうにさ」


「──うっせぇ。そんなこと、俺にだって分かってる」




ルヴァンはそう小さく呟くと、大きく息を吐いて自身の頬を軽く叩いた。そして、再びこちらへと目を向けてくる。



「つーかお前、他人の恋路となった途端イキイキしやがって。なら今度はこっちが聞かせてもらうが、テメェはあの元の世界からの幼馴染とやらとはどうなんだよ。やっぱ好きなのか?」


「ぶふッッ!!! おま、なにを言って……!!

……いや、確かに自分は根掘り葉掘り聞こうとしといて、自分のことは全部しらばっくれるってのは良くないか……。


 そうだな……、俺は────」




「ほらそこ、いい加減に下らない世間話はやめなさい。もう本格的に作戦行動に入る地点にも着くんだから」



そこで、ちょうどレイス軍曹が話をそう遮った。


その声に反応して船の進む方角へと目を向けると、そこには水平線の果てにうっすらと陸地が見えた。


──あれが、目的地の三島か。



「それで、侵入場所については大丈夫なんでしょうか?」


「ええ、まぁ概ね敵軍は主力の上陸地点に集中しているそうよ。そういう意味では問題なしね。ただ───」


「………ただ?」


「そこの近くに、1つ簡易的な監視台が築かれてたみたい。ほら、軍の駐屯地の端とかにハシゴで登るやつあるでしょ」


「いやその説明はいらないですけど……って、えぇ!? 敵軍いるんですか!? どうするんです!? ステルス艦とはいえ、直接視認されたら意味ないじゃないですか!」


「大丈夫よ、視認可能距離とはいえまだこちらの進行方向的に攻めてるとは認識してないでしょう。時間は十分にあるわ」


「とは言っても、その目的に気づかれるのなんてせいぜいあと1分もないんじゃ……。その間にどう解決するっていうんです? 遠くからの砲撃でぶっ潰して貰うとか??」



「いやそれは無理だな。いくら弾道計算技術によって精度が高くなったといっても、それでも数百メートルはズレうるんだ」


ルヴァンが冷静に割り込んで解説を挟んでくる。

相変わらず、兵器のことに関しては口が回るらしい。



「そうなればどうなる? ……周りの民間施設への爆撃になりかねない。だが、いくら今回は非公式の戦争だとはいえ、明らかな軍事基地以外への攻撃は当該国どうしの暗黙の了解としても倫理的にも許されねぇ」


「じゃあ、一体どうするんだ? 他の解決策はあるのか?」


コフェがそう素直に問いかけると、レイス軍曹がちょっとばかしのキメ顔で結論を言い放つ。



「そんなの簡単な事よ。ようするに、“外さなければいいの”」


「って言ったってそれが難しいって話なのでは───」


「だから、“()()()()”を使うってこと」



彼女がそう意味深に言い終えた瞬間。

高崎たちの後方から艦船の厚い壁越しにでも聞こえてる、まるで空気を切り裂くような轟音が鳴り響いてきた。


ステルス艦にある小さな窓から覗くと、そこには凄まじい速度で青空を移動する何かがあった。



あれは─────。



「……高速爆撃機!?」



「そうよ、一昨日の空戦でだいたいの制空権は既にコチラのもの。そしてそれを操るは、アルディス軍が誇る伝説のパイロット。そう、その名は────」


それを彼女言おうとした瞬間、彼らの船に一件の一方的な通信が飛んできた。それは、その上空からの通信だ。



『おう皆の衆、今からオレがアンタらの道を切り開いてやるからそこで待っとけ! お礼はその後の戦果で頼んだぜ!!』


たとえ常人なら投げ出すほどの厳しい作戦行動中であっても、普段と変わらず仲間とおちゃらけた通信を行う余裕。


そして、その声は───。



「“爆撃王家”、タートスさんか!!」


「タートス?」


ルヴァンがプロ野球選手に会った野球少年みたいな声と表情で叫ぶ中、高崎としては正直ピンときていなかった。



「バカお前知らねーのか!? タートス家つったら大陸間戦争以来、代々一族の者が空軍に所属しててすげぇ戦果を挙げてるっていう超有名な貴族一派だろうが!! この前の正朝内戦でも大戦果を上げたんだぞ!!」


「……そ、そう」


ルヴァンさん、かつてないほどの大興奮だった。

さすがの軍事オタクっぷりである。



そうしているうちに、瞬く間にそれは三島の領域内へと肉薄していき。対象に狙い定めたのか、高度を下げた。



──そして、爆撃。


縦方向へと、激しい爆炎が上がった。


あの特徴的な爆風は……。


「おお。ありゃ、ピンポイントボムか。その名の通り、超局所的に特化した威力を発揮するっていう」



そうルヴァンが解説していると、再び通信が入ってくる。


『おうよ、しっかりピッタリ完璧に任務は完了だ! あとのことはヨロシク頼むぜッッ!!』


そんなことを楽しげに言い放つタートスが乗っている爆撃機とやらは、対空レーザーらしき敵の迎撃攻撃などを子供をあしらうかのようにうまく回避しながら旋回して再び帰っていった。



「──す、すげぇな」


高崎としては、そう語彙力ゼロのセリフを呟くしかなかった。


ああいうのが、本物の天才というのだろうか。

素直にカッコいいな…と思うほかない。





「──よし、これで唯一の懸念点も解決!! 現在の敵の重要な拠点たる三島『デリス島』へ、いよいよ乗り込むわよ!!」



レイス軍曹が、少し興奮気味にそう啖呵を切った。


実際、ステルス艦は既に三島のほぼ目の前という所にまで来ていた。あとは、その切り立った岩壁にぽつんとある洞穴へとそのまま侵入するだけである。




そうして彼らは、敵の本拠地へと乗り込むのだった───。











【ぷち用語紹介】

・シエル・シヴェル・アベリア

世界一の大企業『ラ・シヴェル』の代表取締役のご令嬢。親の繋がりもあり、ルヴァンの年上(22)の幼馴染であり許嫁。

あらゆる事業に手をつけているのがラ・シヴェルグループだが、彼女はその中でも軍事部門に興味津々らしい。……まぁ恐らく、彼のせいだろう。

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