3話前編『最終防衛線①』
「──という訳で現在、マナスダ合衆国の卑劣なる奇襲攻撃から約2週間が経過したが、既に我らのアルディス王国軍の防衛線は、ここ“一島”にまで後退している」
高崎たちがこの島に降り立ってから約1時間後。
彼らは例の勲章を大量に付けていたおっさんに導かれるままに、一島における軍事基地の施設に連れて来られていた。
そこでは現在、本日よりこの戦場へ到着した特任部隊やその他の軍人たちに対するブリーフィングが開かれているのだった。
その話によれば、彼は陸軍大将で本作戦における総司令官“ケルテラ=ノエラス”である。
先ほどの剽軽そうな態度はどこへやら、今の彼の顔つきはまさに真剣といった感じで、さすが総司令官といった感じである。
そしてノエラスといえば、あのカスティリア家と肩を並べる大貴族の家系。ノエラス家の家名であり、アルディス王からの信頼も厚いというアレだ。
(……んで、ノエラスってことは……)
高崎がちらっと、横へと目を向ける。
「…………………」
そこに居るのは、特任部隊のメンバーであるコルタス=ノエラス。今年度からこの部隊に飛ばされてきた男である。
先の魔術博覧会では簡単な警備任務について貰っていたが、今回は遂に彼にとって初の「危険な任務」である。その顔つきからも、かなりの緊張が分かる。
そして、その姓が示すように。
(──確か、あれはあいつの叔父がなんかなんだっけか)
しかし、先ほど外で会ったときから……彼らは一度たりとも言葉を交わしていなかった。
普通に考えたら、公私は分けている。という感じなのだろうが、彼はそれだけではなさそうな“何か”を感じとっていた。
そんなことを高崎が考えていると、司令官が再び口を開く。
「しかし、その劣勢は既に終わりを告げた。何故なら、元よりこの地を護りし部隊の者たちの必死の抵抗によって、この一島を奴らが奪わんとする前に、我ら主力部隊が到着したからだ」
司令官はそう告げ、少し目をつぶって黙り込んだ。
それは、自らの命を散らしてまでもこの地を守ろうとした彼らへの敬意を払っているように見えた。
「そして万全な我らアルディス軍ならば、奴らマナスダの野郎に負ける道理はない。今後は我らが逆に奴らに“やり返し”を行う番が来たのだ!!」
そうして、彼は声を張り上げ右手を突き出した。
その迫力ある宣言に、その場にいた全員の気持ちが改めて締まった空気が流れる。
「──では、今から明日より行われる二島奪還作戦について話す。死んでいった者たちのためにも、必ず成功させるぞ」
そう彼が静かに告げ、そこに本格的なブリーフィングが始まったのであった。
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そして、8月10日。
空を見上げれば雲一つない空。
海は濁りのない美しいエメラルドグリーンっぽい色をしていて、照りつける太陽が夏の訪れを告げているように思えた。
そんな中、ある島の一角ではひと目見れば誰でもわかるほどの程の強い緊張感が走っていた。
「で、いよいよ作戦実行ってとこまできた訳だが」
そう呟く高崎たち一行は、各自必要な装備を整えて決行の地に待機しており、既にじきに訪れる作戦決行を待つのみというばかりである。
今回の服装に関しては、迷彩柄の軍服にヘルメットも着用し、その他銃火器なども持った標準的な一般アルディス軍兵士のスタイルである。ちなみに迷彩柄は灰色。いわゆる市街地戦とかに使われるタイプだ。
そんな格好をした彼は、かつてない程に不安そうな顔をしながら漏らすように呟いた。
「本気で、このままあの二島に突撃するのか……?」
そう愚痴をこぼす彼の前にあるのは、一島の北東の海岸線に築かれた軍港。そして、そこには勿論いろいろな艦船があるのだが、目の前には大きな艦艇があった。
──そう、そこにおわすのはドック型揚陸艦。
艦内にあるウェルドックと呼ばれる格納庫から、上陸用舟艇を直接運用し、上陸作戦を行うための艦艇である。全長はゆうゆう100mを超え、そこには上陸艇が数機、揚陸部隊は数百人も搭載できるという。
島の攻略をするというのだから、当然ながらこういうのを使って上陸突撃を行うのだろう。
──しかし、彼らが乗り込むのはそれではない。
ならば、どれの乗るのかというと。
「──ハーイ、あなた達が噂の特任部隊ね。私がこの作戦での君達の分隊長、レイス=ウェスタリア軍曹よ。よろしくね!」
突如真後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには軍服を見に纏った女性がいた。
年齢は30前後といったところか、生粋のアルディス人といわんばかりの綺麗な金髪に、いかにもという感じの濃いメイクをしている。それは軍人とは思えない程だ、作戦行動中に崩れないのだろうか……?
まぁそんな感じで第一印象としては、なんというか。ちょっときt……若作りをしてそうな感じである。
「──はっ、いかにも。私たちがロダン少尉の命にてこの地馳せ参じました特任部隊です。我らは常に祖国にこの身を捧げる所存。どうぞ駒だと思いお使い下さい」
すると、隣にいたルヴァンが敬礼をしそう言い放つ。
相変わらず、自分が気に入らない奴なら上司でも歯向かうものの、平常時なら礼儀正しい奴である。
……って、コイツはなんてことを口走ってやがるのか。高崎には建前としてすらそんな覚悟は勿論ないのである!
それにそもそもここには命令で連れてこられた訳ですらない。
「あーあーいいのいいの、そんな畏まらないで。むしろあなた達の方が実績でいえば上なんだし。聞いたわよ、ここ最近の“活躍”。すごいのね!」
ピチッと敬礼して静止するルヴァンを見て苦笑いして、彼女は笑顔でサムズアップする。
その様子はとても上官とは思えないレベルだ。厳しすぎるのは最悪だが、ここまで緩いと逆に不安にならなくもない。
こんな上官でこの先大丈夫なのだろうか……?
「では、つかぬことををお聞きしますが、“ウェスタリア”ということは……」
高崎がそんな漠然とした不安を感じていると、今度はテラがそう問いかけた。その疑問は彼としても感じていたものだ。
「そうよ、あなたのご想像の通り私はウェスタリア家の出身。まぁ、四女だし影響力なんて全然ないんだけどね」
そんなレイスは、少し自虐めいた口調だった。
高崎は貴族社会、しかもこの世界に関してのソレに対しては全然明るくないが、まぁ自分のイメージするものと大して変わらないのだろうか。
「それと、特任部隊のエレナちゃんのこともよく知ってるわよ。私の従兄弟がよく遊んでもらってたらしいしね、かわいいわよね〜あの娘!」
彼女が、懐かしそうな笑顔でそう言葉を漏らす。
(……エレナがちっさい頃によく遊んで貰ってた相手……か)
高崎がそれを聞いて、ふと前のことを思い出す。
それは特任部隊で王都へ出向いたときのこと。
そのときエレナが、子供の頃よく同じ貴族の男の子と遊んでたと言っていた気がする。
……そう、確か振り回されていた苦労人だった筈だ。
まさかそれが、この人の従兄弟……だったりするのだろうか。
彼女はそうして少しの間、昔を思い出して懐かしそうな顔をしていたが、軽く咳をするようにして仕切り直してこちらへと目を向けた。
「──それじゃ、そろそろ任務の最終確認をするわよ」
そうして、キリッした“まさに”という感じの表情となる。
やはり、彼女も彼女で軍人らしい。スイッチが入れば印象は全く変わってくる。
「まず私たちの最終的な目標となるのは、二島にある奴らの軍事基地への潜入。および破壊工作よ」
彼女がデバイスを開き、それをこちらへと見せてくる。そこには、二島の全体図が載ってあり、その中心付近に赤いバツマークがあった。そこが、その軍事基地とやらなのだろう。
現在、二島にいるマナスダ軍の数は2万弱程ではないかという予測が出ている。それは、島の大きさを考えればかなり多いと言ってよく、強固な防衛体制が築かれていることだろう。
「それは勿論把握してますけど……、そんなの本当に可能なんでしょうか? あっち側だって、敵の上陸なんて1番警戒してるでしょうし、本陣への攻撃なんてもっとじゃないですか」
「そうね。だからこその“アレ”よ。私たちはアレで主力部隊が上陸するところとは別の場所から潜入するの。それなら気づかれにくいでしょ?」
何を当たり前のことを、と言わんばかりなキョトンとした顔で彼女がその指をある方へと刺す。
その先にあったのは、他の艦より少し形状が角張っている一隻の船だった。そしてその特徴としては、何より小さい。軍の船といえばどれも大きめなのだが、あれにはせいぜい10人程度しか乗れないのではないか。
──その艦艇の正体は。
「……ステルス艦、か」
「そう正解、アルディス軍の技術が結集した逸品よ。隠密に航海したいからもってこいね」
ステルス、ようするに敵のレーダーから極力探知されることなくするための技術のことだ。
この技術力高めな世界のことだから、本当に消えるヤツもあったりするのかな……と最初は思ったが、流石にそんなヤバイものは存在しないようだ。
「にしても、レーダーから探知されないってだけで解決するのか? 敵だってほいほい敵を呼び込む程甘くはないだろう」
そう悲観的に捉えていたのは“コフェ=アベリ”。特任部隊に所属する、アルディス王国の海外領土出身の黒人だ。
2mくらいある身長とガッチリとした体格にはかなりの迫力があり、雑務における力仕事などでは大いに役立ってくれるある意味部隊の縁の下の力持ちだ。
「そうね、勿論それだけで成功するほど彼らも甘くはない。
──でも策はそれだけじゃないの、色々あるんだけど、まずはその立地が相当特殊ってことかな」
彼女はそうあっさりと言い、再びデバイスを開く。
「ほら見て、これが上陸する場所よ。すごい岩壁があるでしょう? そしてその上は牧地に農地帯、民間施設しかないのよ」
彼女がデバイスを開いて画面いっぱいの画像を見せてくる。
そこに写っていたのは、強く波打つ海とそれを受けるゴツゴツした岩壁。その高さはかなり高く、ゆうに2、30メートルはありそうである。
確かに、こんな場所から軍隊が上陸して攻め込んでくるに違いない! ……とはそうそう考えないだろう。特に、別のポイントにて大規模な上陸作戦が行われている最中ならば特に。
「そして極め付けはこの洞窟。この先には、アルディス軍が秘密裏に作っていた軍事施設があるの」
彼女がデバイスをスライドして、次の画像へと画面を移すと、今度はその話の基地とみられる図面が描かれていた。
岸壁にある洞穴から侵入し、地下に張り巡る下水なども含んだ地下通路を使って、島の至る所へと移動ができるようだ。
このような敵軍に島一つをまるごと占領され、取り返したいという状況下なことを考えれば、喉から手が出るほど欲しい“抜け道”といっていいだろう。
たまたまこんなものがあった! ……なんて訳もないと思うので、アルディス軍とて、前々からこのような状況を可能性として考え、対策を講じていたということか。
「なるほど、確かにこれが使えるなら、少なくとも侵入までに関しては可能性は十二分にあるな」
ルヴァンが納得していると、ただし。とレイスが釘を刺した。
「でも、この基地に関して彼らには決してバレる訳にはいかないし、その後の地下通路については割れてる可能性も非常に高いというのが上層部の見立てよ。
だから少人数でしか行かない訳。それゆえにそんな状況としては最も戦果を上げることのできるこの潜入任務なのね」
「………潜入任務、ですか」
テラが口から漏らすようにそう呟いた。
別に口にした訳ではないが、その目から「そんなこと出来るのか」という感情が高崎にすら見て取れる。
彼女もそれを察したのだろう。
それを見て真剣な表情で再び口を開いた。
「勿論、決して楽な任務ではないわ。でも、私たちがそれぞれの能力によって割り振られた仕事を果たし切れば問題ないの」
そう皆を鼓舞する一方で、彼女は彼らにのしかかっている現実的な状況も示す。
「ただし、失敗は決して許されない。この任務は本当に大切なの。私たちがしくじったら、冗談抜きで別働してる主力部隊が壊滅しかねないんだから」
そのいつになく重い言葉に緊張が走る。
現在、このユトソル諸島に集っているアルディス軍主力部隊の数はおよそ3万ほど。作戦次第で彼らが壊滅状態に陥るかもしれないと考えれば、その責任の重大性がよくわかる。
「まぁまぁそんな絶望的な表情しないで。簡単にそんなことにはならないように“対策”は軍もとってるんだから」
「……対策、ですか?」
テラがその言葉に軽く首を傾げた。一体、そのような大きな効果をもたらすような対策とは一体なんなのか。
「えぇ、この話はあなた達はもう聞いたと思うけど、今回の事件は、正国軍との協力作戦なの。前の正朝内戦で手を組んだこともあるから可能となった夢のタッグね。彼らとしても、いくら自国が今ごたごたしてて忙しいとはいえ、これ以上マナスダ合衆国の暴走を見て見ぬふりは出来ないってこと」
──正国軍。
それは高崎が身に染みて理解しているように、かなりの戦力をもつ。いわゆる、三大国の一角は伊達ではない。
当然、内戦でアルディス王国以上の大損害を被っているだろうが、それでも十分な程の戦力だ。
「だから、二島の攻略にはアルディス軍が中心に、三島の攻略は正国が中心って感じになるんだけど、そこで、まず先手として正朝のある切り札が“1人”で潜入任務を行ってるの。三島は今、彼ら侵攻軍の本部がある場所だしね」
そして、彼がそこで作戦を成し遂げ、彼らマナスダ軍に激しい撹乱を起こすって訳……と彼女が高らかに言った。
「いやいや。潜入が1人って……。それ大丈夫なんです?」
高崎が至極当然の疑問を投げかけた。
いくらこの世界には魔術という個々の能力の差が激しいモノがあったとしても、たった1人で戦争の戦況を変えられるほどのことを成し遂げることなど出来るのか。
そもそも、そんなことを作戦の一角として期待していいのか。
彼らがそんな感じで呆れた感じの表情をしていると、彼女がキョトンとした表情で言葉を返す。
「あら、聞いたところによれば、確かあなた達はその子と面識があるんじゃなかったかしら?
そうね、その名前は───」
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それは、高崎たちがユトソル諸島に来る前のこと。
三島の港にて、ある貨物船が荷物の積み下ろしを行っていた。
それらの多くは食料品。そしてこのユトソル諸島へと遠路はるばる、大正民国から運ばれてきたものであった。
ユトソル諸島は最短距離でも大陸から約1万キロは離れているという、ぶっちゃけると凄まじく不便な立地の島々である。
しかし、そんな場所にもかかわらず、この地にはなんとかなりの人々が居住しているのだ。
そんな訳で、その分の人口を賄うだけの物資が必要な訳だが、この島々は自然が豊かなこともあり、全ての地域で自給生活が出来る程度にはなっている。
だがしかし、それは“出来る”というだけであり、実際にはいろいろな食料品を世界各国から輸入しているのが現状だった。現代人の舌は肥えてるのである。
そんな訳で。非公式とはいえ、こんな戦争まっ直中なときにおいても、そのような貨物船の行き来は地元住民にとって大切なライフラインなのだ。
よって、ここを占領したマナスダ合衆国としてはそんな危険要素は排除したいとは思うものの、流石にそういう訳にはいかないというのが現状であった。戦争において、占領地の住人と無闇に対立しないことは大切である。
しかし、かといってはいそうですかとその輸出入における人物の往来を全て放っておく訳にもいかないので、現在その港には、いくらかのマナスダ軍の兵士が駐留していた。
彼らが、この多くの物の搬入が行われる場所について、その監査を行なっているのだ。
そういう訳で、今日も今日とで監査担当の兵士が貨物の検査を行なっていた。
「──あぁ、このコンテナに関しては異常なし。
……残りは、あそこのやつだけか」
疲れたという表情で、彼が次のコンテナへと移動する。毎日毎日、こんな作業の繰り返しだ。
いや、前線で銃担いで敵軍に突撃するよりよっぽどマシなのだが、それはそれとしてこの作業は退屈だしけっこう体力使うしで面倒くさいのだ。
「ま、これ終わったら休憩できるしさっさと終わらせるかね」
そんな独り言を呟きながら、ゆっくりとそのドアを開けた。
中は当然ながら薄暗く、なんだか不気味な感じだ。
しかし、彼はそこに足を踏み入れてすぐに、そこがおかしいということに気がつく。
「──なんだこのコンテナ、殆どすっからかんじゃねぇか」
怪訝そうな顔で、彼が言葉を漏らす。そう、コンテナの中に殆ど何も積まれていなかったのだ。
既に検査をし終えたものなのか?そう直感的に考えたが、そうだとしても積み下ろし終えるにはあまりにも早すぎる。
彼がそんなことを考えていると。
その瞬間、彼の視界の右端に一瞬何かが映った。
それは人だった。だが運搬業者の者ではないだろう。そして、彼の軍人仲間でもない。
何故なら、その顔は───。
(…………“俺”……ッッ!!?)
「───ッッ!!?」
男が本能的な恐怖を抱き、距離を取ろうとする───が。
「──ふごがッッ!!!?」
間に合うことはなく、そのまま突如後ろから何者かに首を思い切り絞められた。
恐ろしい命の危機を感じ、男が声にならない声をあげようとするが、即座にタオルのようなものを口に抑えられる。
──コイツは、プロだ。
「すみませんね。あなたに恨みはありませんが、ここで見つかる訳にはいかないので」
そう彼はさらっと告げると、その腕の力をさらに強めた。
……息ができない。生物として恐怖を感じざるを得ない強い窒息感ともに、脳に酸素が届かなくなっているのか、思考が徐々に薄れていく。
(…………これ……は、まず…………っ)
がくっ。
暫くの間そうしているうちに、男はかくりと頭を下ろした。
手をゆっくりと離せばそのまま男は力なく地面に触れ臥した。意識は既になくなっていた。
それを確認した彼は、軽く伸びをして息をゆっくりと吐く。
「よし、じゃあいろいろやらせて貰おうかな。目覚めたら、閉じられたコンテナの中。ここから出れる頃には敵国の正国内部だとは思うけど、命を取らないだけ良心的だと思ってね」
そう呟くと、彼は男の体を弄る。
ポケットを漁ってみれば、IDカードが出てきた。
そして、今度は彼の手をとって、懐から器具を取り出しゆっくりと貼り付ける。マナスダ軍で各地に用意されているであろうセキュリティ突破のためにも、彼の指紋も頂いておくのだ。
(ははっ、未だに指紋認証なんかをセキュリティの中心に使ってるなんて、発展したとはいえ流石西大陸の国家って感じ)
そんな風に少し呆れながら、男の指紋を取り終える。
後は、魔術で声をまねるなり、“特殊メイク”でそっくり真似た顔をより本物と比べてより似せるなりをすれば完璧だ。
──これで、第一段階としての準備は終わった。
後は、ここから外へと出発し、奴らマナスダ軍の中核となっている本部をぶっ壊すだけだ。
少しでも奴らに怪しまれぬよう、丁寧に服装含め身だしなみを気にしながら、彼の不敵に笑った。
そう、その彼の名は、“風早唐馬”。
大正帝国初代皇帝、風早相馬の息子であり、
彼の溢れるほどの才を受け継いだ天才少年である。
「──まぁスパイ任務なんてあんまりやったことないんだけど、さっさとやりきってみせましょうか」
そうして、彼はそんな独り言を呟き、歩み出すのだった。
【ぷち用語紹介】
・コルタス=ノエラス
アルディス連邦王国軍、陸軍大将。
今回の作戦における総司令官を務める。
カスティリア家にも並び立つ貴族の名家ノエラスの一族で、国王フューデル18世からの信頼も厚い。ただし、その地位は貴族だから……という訳ではなく、ちゃんとした能力があってこそのもの。
・レイス=ウェスタリア
アルディス連邦王国軍に所属する女性、役職は軍曹。
貴族ウェスタリア家の出身だが、貴族としての格は低く、彼女もその中で四女であるため恩恵は全くと言っていいほどない。
半ば追い出されるような形で軍に入隊した。士官学校にも言っていないので下士官止まり。おちゃらけているように見えるが、意外と頭は切れる。




