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9話後編『特区地下の決戦』





「──いくぞッッッ!!!!」


そしてその掛け声と共に、彼らは地面を強く蹴った。手負いとなった奴らへ迫っていく。

こうなれば当然不利なのはロドネス側だ。彼はギリギリのところで回避しながら、顔を歪める。

無理もない。肩からの出血は決して少なくはない。


「オラァッッッ!!!!」

「きゃっッッ!!!?」


ルヴァンの一撃が、アルディノの槍を襲った。

折れ……はしなかったが、柄が曲がってしまったらしい。

だが攻撃が止むことはない。次なる一手がアルディノの首付近に叩き込まれ──!


「させるかよッッッ!!!」


ガギンッッッッ!!!!


そのギリギリの所で、金属と金属がぶつかり合った音が響く。

セレンの剣がすんでの所でルヴァンの攻撃を防いだのだ。

例え認識を歪められていても、セレンという男の豪傑さは変わらないのだろう。



一方の防がれたルヴァンは、一旦その反動を利用して後退すると、今度は手に火を灯した。



「ならこれはどうだ?……『メルギナ(フィノルマーヨ=)の聖火(メルギナ)』!!!!」


その瞬間、ルヴァンの前を炎が埋め尽くした。

その“炎の壁”とも言える魔術は、そのままロドネス達を襲う。


「──ッッッ!!!?」


今度はロドネスやセレンを庇うようにエルヴィノが前に立つ。

そして、対魔術用シールドを貼ってルヴァンの炎を防いだ。



しかし。


「そっちはブラフだぜ!!?」

「───てやああああああ!!!」


ルヴァンがそう笑って言うと、ロドネス達の頭上からテラが落下して、そのまま至近距離から腕を振るい衝撃波を放つ。



「なにッ!!? ……がはッッッ!!?」


セレンが避けきれずに体にクリーンヒットを食らった。

ガッッ!と、衝撃が骨にまで届いた鈍い音がする。


当然、彼らも防御魔術はしているため、それ如きでは死にはしないが、確実に消耗しているのは確かだろう。

それが分かってきるからこそ、攻撃の手を緩めない。



「……クソがッッ!!!」


苦し紛れにロドネスが武器を振るう。

もう彼らに余裕の表情は一切なかった。彼らはもうルヴァンとテラの猛攻を防ぐのだけで手一杯だという感じだ。


それを銃を冷静に構えながら高崎は見ていた。勿論先ほどから例の銃弾は撃っているのだが、流石にあのスピードでは奇襲でもない限り当たりそうもない。


──しかし、それでも今の彼は安堵していた。



(このままなら、あと少しでいける……ッッ!!)






──しかし。


ロドネスが一旦距離を取った…かと思うと、小さく詠唱して。


「──こうなれば、仕方がない」



ドガガアァァッッッ!!!

鼓膜が破けるかと思うほど莫大な破壊音が空間を襲った。


それは恐らく何かしらの射出魔術。……しかし、そのあまりの威力に、もはや爆発かと錯覚する程であった。

そしてそれによる煙はたちまち広がっていき、あっという間に視界の全てが遮られた。



──つまり、奴がしたいこと、は。







(撤退かッッッ!!!)


ルヴァンが咄嗟に反応する。

距離を取ったであろうロドネスらの声が僅かに聞こえた。

“技”、また遠回しな表現だがこれはルヴァンにも分かった。



(この野郎、また“前”みたいに逃げるつもりか……ッ!!)



「させるかよッッッ!!!」


ルヴァンが『ヨノクトセル』で握ってトドメを刺しにいく。

続けてテラも拳に宿し、接近戦に切り替えた。

両者は煙の中、迷いなく突っ込んでいき、声の音源を頼りに鋭い一撃を奮った。


身体強化を駆使した強烈な一撃だ。まともに当たれば人としての原形を保つことは不可能だろう。







──しかし、そこには既に“誰もいなかった”。


……これがワープ。

常識もへったくれもない、理不尽な戦線離脱方法だ。




「逃げやがった、か」


地面を刺さった『ヨノクトセル』を引き抜いて、忌まわしそうにルヴァンが呟いた。地面は最早完全に破壊されており、隕石でも落ちたのかというクレーターになっていた。



「ま、いいだろ。これで奴らだって諦めてさっさと撤退するさ。とにかく、みんな無事で良かったぜ」


高崎が銃を仕舞い近づきながら笑って言った。

ようやく思い出したのか、血塗れの脇腹を今更抑え始める。



「ま、そうなんだが。……ほんと、何とも言えねぇタイミングで来やがったなお前」


「えっ」


まさかそんなことを言われると思ってなかったのか、動揺する高崎を横目にしてルヴァンは先ほどのことを思い返していた。


一体、奴の言う『闇』とはなんだったのだろうか。


全く以て分からないが……。


──何か“嫌な予感”だけはルヴァンの心を覆っていた。





「それで、テメェの目的は達成できたのか?」


その不安は一旦横に置いておくことにして、ルヴァンが高崎に尋ねた。彼に預けられた、“大切な役割”のことだ。

高崎はそれを聞くと、首を縦に振って。


「あぁそりゃ勿論、……だけど」


急に彼は頬をかきはじめた。目は横にそれ、今にも汗でも垂らしはじめそうな感じだ。

ルヴァンとテラが不安そうに聞き返す。


「「だけど??」」


「“最善の策”は尽くした、が……」


「「………が?」」


「──正直自信はない……! だって威力が異次元すぎる!! あれほどの威力を“アレ”如きで本当に封じ込めれるのか!?」


高崎がヤケクソ気味に叫んだ。

それはもう、彼の心からの本音なのだった!!



「あぁ分かったそりゃそうだ!! だったらさっさと逃げるぞ!! 奴らの最後っ屁で爆死なんてしてたまるか!!」


「どうやって!!? よく見たら入り口、さっきの爆発で破壊されてるじゃねぇか!! 何やってんだ!?」


「お、おいおい嘘だろ……」



彼が振り返ると、その先にあったのは瓦礫の山。

その先には、本来入り口があったはずだ。

なんと帰り道が封じられていた。呆然とするしかない。


「あの最後の攻撃。あれは目眩しであると共に、退路を塞ぐ攻撃だったってことですか……!」



テラの力のない声が静かな空間に響いた。

瓦礫は1つ1つですら高崎達の身長を遥かに越している。これらを撤去するには今は時間が足りなさすぎる。


しかし、だからといって諦めるわけにもいかない。

ルヴァンがその瓦礫に近寄って1つ1つ魔術で破壊していく。

──ただ……、それは時間が許してくれそうもない。



(──ちくしょう!! このままここで爆発に巻き込まれて瓦礫の下敷きなんて絶対に嫌だぞ!!?)


ルヴァンと高崎の表情には、恐怖・焦り・そして絶望までもが見てとれる程に浮かんでいた。





すると───。




「───そうです! ならこっちも奴らと同じ方法で!!」


いきなりテラがそう言ったかと思えば、彼は迷う事なく地面に何かを描き出した。見てみれば大きな円の枠組みの中に、幾重もの図形を重ね合わせていく。


「おい、何をするつもりだ?」


テラの行動に戸惑いながらも、ルヴァンがそう問いかける。

それでも一応瓦礫破壊作業は続けてはいるが。


すると、テラは笑顔でこう言った。



「──テレポート。それならここから脱出できる!!」


「……おい何言ってんだ、そんなモン使えねぇだろ!!?」


ルヴァンが何言ってんだと言う表情で叫ぶ。

何度も言うがその通り、転移魔術…すなわちテレポートは現在実現不可能とされている技術なのだ。



しかし、テラはそんな言葉は気にも止めず。


「だから、一旦“異空間を経由する方式”にします。それなら、既存の魔術でも擬似的なテレポートは可能です!!」


そういい終えると、テラは再び地面に何かを描き出した。それは書き足されるごとに、緻密に練られた数式のように計算された美しさを感じさせる。




「──異空間移動!? 本気で言ってんのか!? そりゃ出来なくはないだろうが、死ぬレベルの魔力消費だろ!?」


「えぇ、でもここで全員死ぬよりはマシです!」


ルヴァンの指摘に構わず、テラは地面に書き終えた。

大きな円に、魔術的な意味を持った記号の数々。

いわば魔法陣。描かれた五芒星などの図形がが輝き始める。



──そして。



「はあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」


今まで聞いたこともないテラの絶叫が空間に広がる。

魔法陣に魔力が注がれ、さらにさらに光が強まっていく。

気がつけば、魔法陣の周辺全てが青白い光で囲われていた。




「いきますよッ! 『空間(デノス・)転移(サバディラード)』!!」


テラが叫ぶようにして詠唱を行った。その瞬間。

青白く光る空間の光が高崎達の周りを回るように動き出した。

──かと思えば、凄まじい光線が、高崎達の視界を襲う。


「ごわああああッッッ!!!?」


あまりの眩しさに、思わず目を覆う。それでもわかる周囲の輝きは、やがて頂点に達し。






──そして。


気がつけば、既にそこは明るい世界だった。

目を開くと徐々に視力が戻っていき、5秒もすればそこが大体どこら辺なのかは分かるようになった。


ここは……、教育特区の中だろう。高崎はそう踏んで辺りを見回すと、案の定中央堂があるのが確認できた。


なんとか、脱出は出来たようであった。




「すみません、距離はこれが限界でしt……ごバッッッ!!?」


「お、おいっ!テラ大丈夫か!!?」


高崎がその事実に少し安堵していると、その横でテラが顔面を蒼白にして血を吐いていた。その様子は、最早死人の方がよっぽど顔色が良いと思えるほどである。

間違いなく、魔力の大量消費による欠乏症だ。


──世界最高レベルの魔術師、テラでもこうなる程の魔術。その凄まじさが理解できる。




「大丈夫です、これくらいなら別に死にはしません。

 ──ですが、回復魔術はお願いします……」


そう苦しそうにしてテラはうつ伏せのまま動かなくなった。

慌てて介抱しにいったが、単に体に力が全く入らなくなったということらしい。安心したルヴァンが優しく抱き留め、回復魔術を掛けている。



(──まぁテラのことは心配だけど、これで一見楽着かな)


高崎がそんなことを考えながら、一息ついてると……。






「──っておい。待て、まずいぞ!!? 避難がまだ全然完了してなくないか!?」


彼は自身の視界の前にあったその事実に驚愕とする。

その先にあるのは爆心地たる中央堂。しかし、未だにその周辺にもかなりの人々がいることが見て取れた。


無論、百万単位で溢れた地区なのだからどこもかしこも人だらけなのは当然ではある。事実、高崎たちの周りも様々な人々が歩いている。



しかし、今の状況においては非常にマズイ。避難勧告がまだ完全に終了してないということだ。


──ただでさえ、ここですら今安心できる場所かは全くの不明なのに、だ。




高崎は咄嗟にルヴァンに叫ぶ。


「ルヴァン、声の強化頼む!!」


「ああ分かった、『声帯強化(ミュルナ・デノヴェルツァ)!!」


ルヴァンが詠唱すると、それだけで高崎の喉付近が軽く光を帯びた。そう、声帯が強化されたのだ。



──だから、彼は……こうする。



「アルディス軍、特任部隊タカサキより報告、現在中央堂付近爆発の可能性大! 全員、今すぐ中央堂から離れろ!! もしくは伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



凄まじい大きさの声が空間を裂いた。

突然の情報に、高崎達より中央堂の近くに居た人たちが慌てるようにしてしゃがみ込んだ。

流石に、この世界の人は緊急事態にも少し慣れてるらしい。





──そして、丁度わずか数秒後。



ドガアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!




すさまじい爆炎と爆発音が、目と耳を襲った。

一瞬して爆風は高崎達の元へと訪れ、伏せていても吹き飛ばされるのではないかとも思えてしまう程だ。



「「「ああああああああああああ!!!?」」」



人々の悲痛な悲鳴に等しい声が区内中から届いてくる。

……これが、魔術遺産の恐ろしさだというのか。



──しかし、10秒もすれば爆発の影響は通り過ぎていた。

やはり、威力は想定よりもずっと下がってはいたようだ。




「ば、爆発は……周辺はどうなりやがった……?」


高崎がそう苦しげに呟きなら、ゆっくり立ち上がった。ふらつく足を抑えながら周りの様子を見る。当然、アレだけの爆発なだけあって、凄まじい爆炎の跡がそこには広がっていた。


だが、大凡ここは中心地から200m程か。それほどの距離ですら被害は特にないのだから、2000万人を殺す爆発は、その殆どの威力を失っていたに違いない。


──つまり、“あの札”は十分すぎるほどに仕事をしてくれたということか。




辺りを見回しても、擦りむいたり泣いている者は多く見られるが、これといった死者らしき存在はここらには見られない。


……あくまで“()()()()()”。なのだが、それだけでも十分な成果なのは間違いないだろう。





──まぁそれでも、だ。


彼らの前に広がるは高層ビルより高く立ち上る黒煙、突然の大爆発でパニック状態に陥る人々で混沌を極める施設内全て。

きっと、死者は0人。……なんて奇跡は起きてないだろう。





それらの慌ただしくて凄惨な状況を目の当たりにして、一応任務はしっかりと成功させた筈の彼らも、今は心の中でこう願うしかなかった。




──どうか、1人でも多く無事でいますように、と。











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