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7話『魔術博覧会②』





魔術博覧会は今のところ特に問題はなく順調に開かれており、既に時計は午後を示していた。


敷地内は変わらず多くの人で埋まっており、世界各地から集まった人々が、留まることなく次々と来場して来ている。

現在東部にある14学区では魔術を駆使したサーカスが、西部にある2学区では最新技術による遺産考古学の講義が開かれているなど、初日から開催地として教育特区や政府関係者やも全力を挙げて盛り上げようとしているらしい。


そんな中、中心部10学区に位置する中央会館には魔術遺産の展示が行われていた。

普段は生徒の政策物や、大学研究によって集められた魔術科学に関わらない骨董品や研究対象などの展示室として使われている場所である。


だか今はまったく別物と言える程に改装され、今回集められた魔術遺産の、実に40%が集められていた。



そして高崎はそんな場所に、ルヴァンを連れて来場していた。

何故かと言えば監視なのだが、“理由はそれだけではない”。

因みに先程まで同行していた新人2人は、さっき別の奴に半ば無理矢理押し付けておいた。



会館の中に入るや否や、彼らは思わず感嘆の声をあげる。

当然ここに置かれているモノは、そのどれもが古き時代の学者も唸る一品ばかりなのだ。



「すげぇな、これが現存する最古の祭祀器具ってやつか?」


高崎が近づけるギリギリまでに立ってソレを見つめる。

彼の真っ先に目に入ったのは、ガラスケースに丁寧に入れられた金色の器である。見るからにソレの過ごした時間は、高崎達とは比べものにならないことが分かった。金は錆びないことで有名だが、そうであってもこれ程美しさを維持したモノを彼は見たことはない。



「……“エムロスの杯”。アフメド大陸北部のトロヴァ遺跡で5000年前に作られた一品だ。最新の研究じゃ長いこと民族の祭式に使われてたって話だな」


「5000年前!?魔術ってそんな前からあったのか!?」


高崎が驚きを隠せないと言わんばかりに悔い気味に言った。

最新の研究では、せいぜい紀元前1500年以降には広く認識されていたという認識なはずだ。

だってエラド教授が講義でそう言ってたし。



「──いや、()()()()()()()“作られた時期”と、“魔力が込められた時期”に大分ズレがあるみたいだな。それこそ、ウン千年ってレベルでだ」


なるほど、つまりこれに魔力が込められることになったのは作られてから大分後という訳か。



「んでこれは……、なんだ?」


「イラノフの石板。現存する世界最古の文字が記されてる石板だよ。ここに彫られた文字の解読は、その道の研究家たちにとっては人生における最大の目標らしい」


両手を広げるよりも大きいその石板には、彼の解説通りびっしりと文字と絵が描かれていた。



「なるほどそりゃ価値ある訳だ。……って、なんだこれ丸ごと持ってきたのか!?」


中央入口からの通路に置かれたその石板を見ていた高崎がふと上を見上げると、その横にデカい石像があったことに今さら気が付いた。


「こりゃニトヴェ遺跡の石像だな。全長14.7m、古代文明の中で現存する世界最大の像だ」


ルヴァンがあっさりと答えた。

解説を読むに、当時の王をモデルに作られたらしいのだが、これ以外にも歴代の王のモノが壊れていたのも含め何個も見つかっているらしい。


そしてそれだけではない。

さらに進むと、大きいモノから小さいモノ。古いモノから近年のモノまで。ありとあらゆる魔術遺産が置かれていた。




「これ全部が魔術遺産なのか……」


高崎がそれらを見つめながら感嘆するようにそう呟いた。……というか、ここに来た者は皆そうなるのだろう。


「──ま、魔術遺産つっても、結構ピンキリだぜ? そこそこの古い魔力が古い物体から検出されれば、それでもう遺産として認定されちまうんだ」


「でも、これだけの遺物がこれだけ綺麗に保存されてるってだけで相当なレア物だろ。これなんか4000年前に作られたヤツなのにこんなにキレイなんだろ」


「それはそうだな。魔力を宿すと劣化しにくくなり形状が保存されるって性質があったのは歴史家にとって幸運に違ぇねぇ」


ルヴァンが両手を上げて目を瞑り、笑いながらそう言った。




「──でもなんでこんなに展示場所を分散させてんだよ。しかも小ちゃい建物にまで細かく。……なんか、いちいち移動が面倒くさくないか?」


一旦一息ついた後、ふと地図を見た高崎はそう思った。

確かに展示場所は色んな場所に小分けにされている。


「さぁな。まぁ敷地全部を楽しんで欲しいっていう考えなんじゃねぇか? それかスポンサー様の意向とか……」


それにルヴァンが答えていたのだが、急に彼は黙り込んだ。



「いや待てよ? 配置場所のこの不自然な感じ、これは」


彼はそう言うや否やデバイスを取り出し、地図を真剣に眺め始めた。色んな展示場を辿るように確認しているようだ。


「──やっぱりそうか……。こことここに“アレ”が置かれている。おい、ここにもソレが置いてあるのかッ!!?」



「……おい、さっきからどうしたんだ? そんな急に真面目モードになってよ」


彼がそう聞いてもルヴァンは地図と睨めっこをしたままである。呆れた高崎が近くの遺産を見ていると、ようやく彼は慎重に口を開いた。




「──いや、あくまで俺の仮説なんだが……。奴らの“手口”が分かったかもしれない。もし推測が合ってれば……下手したら2000万人なんて目じゃないことが起きるぞ」








────────────────────────────








「さてと、ここが最終地点だな」


男は部屋に足を踏み入れると、そう呟いた。

ここまで来るのにかなりの苦労が掛かったのか。心底疲れたというように彼は壁に寄りかかる。


そこは広い空間だった。半径40mはある円状に作られており、中央に近づくにつれて小さな段差が重なっている。そしてその中心には、“大きな球体”が置かれた大きな台座があった。

その光景はまるでSFに出てくる会議室で、中心部には地球儀が浮いているようなイメージだ。



「……ったく、こんな場所に入ってバレたりしないのか?」


もう1人の男が、“地下の穴”から這い出るように出てきた。

セレンである。彼はゆっくりと梯子を登りきると、その穴を綺麗に塞いでいった。



「おい、誰にも見られてなかったんだろうな?」


「そりゃな、俺はアンタみたいなヘマはしねぇよ」


「──ならいいが」


鼻で笑いながら言うセレンを、男は悪くあしらう。



「んなことより、実行日は明日なんじゃなかったのか?」


「いや、爆発が起こすのは確かに明日だが、その準備を終わらせるのは今だ。……魔力を完璧な意図的な暴走へと持ち込む為には、“ある程度の猶予”が必要だからな」



振り返ることもなく男が言った。

どうやらこの部屋の特徴を確認しているらしい。


『教育特区中央会議室』と呼ばれるこの部屋は、普段は表沙汰にはできないこの地区に関する方針等を決定する際に使われている場所である。


──しかし今回は特別に、期間限定で“あるモノ”の展示のために解放されるのだ。それが、“今回の計画”の要である。


彼はその“大球”の元へと歩み、触れ、“何か”を唱えだす。

そして30秒もしない内に、再び振り返って汗を拭う。




「……よし、これで“準備”も全て完了した。あとは“アレ”が魔力の暴走を起こすまでただ待つだけだ」


そう言うと彼は、再びここに入ってきた穴を開いた。その中は世間には公表されていない別の出口に通じている。




「だが問題がある。どうやら勘付いた奴がいる」


「──は?何でそんなことが分かる?」



セレンが興味深そうに聞くと、彼が穴に入りながら答える。


「我々のデータに“不正アクセス”を働いた奴がいる。

 しかも、ウチの強固なロックをぶち抜いて、だ」


「おいおいそれまたすげぇ話だな。──でも抜かれたことはこっちとしても把握はできた……と」


納得するようにセレンが呟いた。

男もその予測が正しいことを示すように首を縦にふる。



「あぁ。それにそれだけじゃない。奴は全てを突き破ることは出来なかったものの、大体の情報は抜き取っていきやがった」


「──つまり」


「もしかしたら、“ここにたどり着くまでの情報”も奴らは得ているかもしれない、ということになる」




彼らは梯子を降り切って地面に足をついた。

そこは暗いトンネルのような空間だ。この時のために隠密に作られたモノである。


「その相手は分かっているのか?」


「恐らく。いや間違いなく、前に捕捉された“奴ら”の関係者だろう。つまり、もう情報は政府にも共有されている」


「はぁ!? それで大丈夫なのか?」


驚愕するセレンを尻目に、男は歩き続ける。

そんなことはどうでもいいというように。



「──さっきも言ったが、それは“全て”ではない。それに、アルディス政府は所詮、我々のようなのが来るのが分かっていて、それでも開催を打ち切れなかった弱腰共だ」


馬鹿にするように男は言う。確かにそのときの予測は今と規模が違うとはいえ、一般人に犠牲が及ぶ可能性があったのにも関わらず、結局開催を強行したのは事実。


今更あっさりと止まれはしないだろう。




「それに、もし誰かが止めにやって来ても構わん。もし奴らが強かろうが、実行の準備は今全て終わらせている。故に、もしもの時があろうが、“その予定を早めればいい”だけだ」



そう言ってロドネスは、手に持っているボタンを見せて来た。どうやら、それを使えば強制的に爆破に移行できるらしい。

まぁ、その分爆発を起こす為の準備期間が短くなる訳で、威力は弱まるというデメリットはあるらしいが。


そして、そんな様子を横目にセレンは少し苦い顔をしていた。




(──正直、出来ることなら誰かが止めに動いてくれって思ってる自分もいるんだよな……)


複雑そうな顔をして、セレンはそう思ってしまうのだった。



しかし話は止まらない。事態も次へ次へと順調に進んでいく。そして、男はこう宣言した。




「ならば、どうやって敵はくるか。──簡単な話だ。奴らは確実にまずは“少数”で動く。軍隊丸ごと動かして大規模に介入なんか出来る筈がない」


暫く歩いていた彼らは、そこで再び行き止まりに辿り着いた。

勿論そこには梯子がかかっている。



「なら、()()()()()()()()()()。奴らはいずれ来る。そうと分かっているのだから、早めに叩いておくのが吉だろう?」




ロドネスはそういい終えると、梯子の前で立ち止まった。



「──と、その前に」


彼は振り返って、こっちを見て笑った。


「一旦ここで“足元の刺”をとっておこうか。

 もし計画中に“刺さったりでもしたら”面倒だからな」



何をいってやがる……?


刺……? 足元……?



(───まさか!!?)


セレンが彼の言わんとする言葉の意味に気がつく。


しかし。…………もう、“遅かった”。





「悪く思うなよ。これは“世界のため”でもある」



奴が高く手を上げながら、そう言葉を紡いだ。

それが耳に入った途端。視界が、歪んで。





──そこからの意識は。


 もう、なかった。











【ぷち用語紹介】

・教育特区中央会議室

教育特区における、方針や予算などの大切な物事の決定を決定するときに使用される地下にある大きな部屋。

普段はそう言った時以外は締め切られ、関係者以外にはその部屋がどこにあるのかすら公表されていなかったのだが、今回の魔術博覧会で一般公開されるらしい……が。



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