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3話後編『講義と任務』





「──えっと、つまり事情は言えないけど。

この学校で、“何かがあるかもしれない”……って事ですか?」


少女が首を傾げながら聞き返してくる。黒いさらさらとした綺麗な長い髪を揺らしているその少女は、アルディス連邦王国と大正帝国の両親を持つハーフの15歳。

セルヴィナ=ササハラだ。


彼女は不安そうな目で見つめてきていた。

本来、何かがあるこど隠さなければならないのかもしれないが、彼女は既に高崎が軍人であることを知っている。

ならば、ここで逆に不自然に隠し通そうとするのは逆に彼女の混乱を招きかねない。


よってここは一応少しだけ目的は教えて、決して他の人には言わないように言っておいた方がいいのだろう。



「そういうことになるな。……でもあくまでその可能性があるかもしれないってだけだ。正直軍が動くほどの心配事じゃないし、多分上層部の杞憂だからそう心配しなくていいんだぞ?」


彼はまるで保証も出来ないことを、少し歯切れの悪い感じでのたまう。実際はどれ程の規模なのか、そもそも本当にそんなことが起きるかどうか、なんてことは全く知る由も無いのだが。


バックに組織がいるのか、それとも個人的犯行なのか。

いやはやただの風の噂なのか……。

それすらも分からない。


だが、不安そうな彼女を見れば言わずにはいれなかった。



「ま、つーわけで俺はまた面倒な仕事を押し付けられたって話なんだよな。……あとくれぐれもこの事は秘密にしててくれ。まだこの情報が本当なのかも混乱を起こす訳にもいかないし」


「はい、分かりました」


少女は変わらず不安そうな顔のままである。

まぁ当然だろう。……自分の学校で軍人が秘密裏に動いているなんて、普通の人が知れば大混乱待った無しなのだから。



「まぁ大丈夫だよ。もう何かが裏で動いてるんだとしても、そんなのは俺が絶対阻止して守るからさ」


その不安そうな様子にいたたまれなくなったのか。

高崎がそんな慣れないことを言って、彼女の頭を撫でた。

昔はよくこうして彩奈にしたものだ……って。


──何やってんだ俺は!!?


久しぶりに彩奈に会って、感覚がおかしくなってるのか!?


正直自分でも、無意識のうちにやってしまってから「気持ち悪いなコレ!?」……と後悔したがもう遅い。




「───ッ!!!?」


セルヴィナがそれに対してビクッと反応する。

いや、うん。やっぱ気持ち悪いよな!!?


「ごっ、ゴメンッ!! なんかついやってしまったッッ!! いやついってなんだ……。あーもうなんと言えばいいんだッッ!!? ……とにかくマジですみませんでしたッ!!!」



高崎が慌てて手を離し頭を下げる。


──つい昔の感じでやってしまった……。

そうだよな、彩奈は昔からの馴染みだから大丈夫だけど、セルヴィナとはそんな付き合いもある訳ではないのに。



「……い、いえっ!大丈夫ですよっ!!? とっ、とにかくタカサキさん、大変だとは思いますが頑張ってくださいっ!!」


その高崎の全力の謝罪に、セルヴィナが手をブンブンと振りながら顔を少し赤くして慌てたように反応する。

……思っていたよりはドン引かれていなかったようで、高崎としてはまだ良かったと思うしかなかった。




「まぁだけど、今日は夕方まで特にそういうのがないから、普通に授業を受けるんだよなぁ」


彼がそんな風に何ともなしに言うと、セルヴィナが何を思いついたのか、再び顔を上げる。


「な、なら………、その……」


「ん、何だ?」


少女は少し恥ずかしそうに、こちらを見ている。

何かを言いたそうなことは、高崎でもわかった。


「えっと……、お昼、を……」



キーンコーンカーンコーン


廊下に鐘の音が鳴り響いた。

これは、一時限目の開始のチャイムじゃねーか!!?



「やっべ!? 最初から遅刻じゃねーかッ!!? 悪ぃ話は後にしよう!! ……セルヴィナも早く教室向かえよ!!」


高崎がそんな感じで走り出す。

別にすぐに居なくなる場所なのだから、別に遅刻しようが留年とかの危機はないのに急いでしまうこういう所は、かつて学生だった頃の矜持なのか。


彼女が何て言おうとしていたのかは分からなかったが、緊急を要する話ではないのは確かだろう。




──そして。


1人になったセルヴィナも少し不満そうな顔をした後、自身も教室へと急ぎながら、微笑むのだった。



「……えへへ……っ」







────────────────────────────









「──そういえば、クーレンローズくんは魔術については理解しているのかい?」


走教室に駆け込んで席に座るや否や、先生らしき人が言った。

歳はかなりいっていそうな年配である。80はありそうだ。

白くゴワゴワした髭と、優しそうな目が特徴的である。

……あっ、クーレンローズって俺のことか。


エレナが5秒そこらで考えたこの偽名には慣れそうにない。



──とまぁそんなことは置いておいて話を戻すと、実は俺は魔術に関しては正直あまり詳しくない。

軍隊の訓練では魔術に関してのモノもあったが、あくまでそれは技術を磨くもので、根本的な所は前提として進められていたからだ。



「……いや、正直あんまり自信はないっすね」


ここは素直に言っておくことにする。

その返答にも、その年配の男性は優しく笑った。


「じゃあ今日の最初は振り返りといこうかな。最近はずっと次へ次へ進め続けてたから、良い機会になるしね」


そう言うや否や、彼は再び前の机の前に立って話し出す。

周りの者達も、今までずっと詰め詰めの授業を受けてきたのか。久々に気を緩めて話を聞けると各々が嬉しそうな声を上げていた。



「えー、じゃあまず魔術という事象がどうやって起きるのか。細かく話してしまえば日が暮れてしまうし、何なら未だ掴みきれていない謎も多いのだが……それは置いといてだ。

──クーレンローズくん、どうしてだか分かるかね?」


「まぁ一応。確か、魔素を元に体内で生成される“エルダート”を分解する際の莫大なエネルギー放出によって世界が乱れて、普通ならあり得ない事象が起こるとか何とか……」


高崎は、自分が知っている限りの知識を出そうと、頭から記憶を絞り出す。

ここでまさか、あのクソ野郎からの本が役に立つとは。



「……まぁそうだね。大まかな流れとしては間違っていない。

──でもオカシイと思わないかい?……何で分解したときにそんな莫大なエネルギーが発生するんだ?」



その言葉に、高崎は何も返さなかった。

……いや、返せなかった。確かにそうなのだ。


自分の知っている世界には質量保存の法則というモノが存在する。ソレを打破する方法など、核反応くらいしか知らない。



「考えてみてくれ。魔力とは世界をも歪める程の力なんだ。『ワープ』や『時間跳躍』といった、かつて“非現実的”と考えられた事象も、今や理論上は可能とまで推定されている。

いったいこれらの“力”が、どこから発生してるのか……」


彼はそう言い終えると、想像してみてくれと言わんばかりにこちらを向いて軽く微笑んだ。

『ワープ』や『時間跳躍』が可能というのは事実。現に異空間跳躍自体は、既に存在しているのだから。

当然、現在は到底用意不可能な程の大量の魔力が必要なるが。



「これについて今まで世界中の科学者たちがその人生を賭して研究してきた。──その結果分かったのは、“魔素”というモノの特異性……いや、“異常性”と言うべきかな」



その先生の話は、今まで周りの生徒達も聞いたことなかったのか、気がつけば皆興味深そうに聞いていた。

そんな様子を彼は嬉しそうに一瞥して、また口を開く。




「──そう、結論から言ってしまえば“魔素は元素じゃなかったんだ”。……厳密に言うと“我々の知る所の元素”ではなかった」


元素ではない……?

高崎はその言葉に、思わず声が出そうになる。


「その内部の構造は元素とは似て非なるモノだったという訳でだ。1つ1つの部分にありえない程のエネルギーが秘められていた。……そりゃ暴走も起きる訳だね」


先生は一旦咳をすると、再び話し出す。


「──つまり魔素は、まるで“人工的な元素”のような物質だった。それこそ、何処か遠くの世界で作られたみたいにね?」


彼はその、“何処か遠くの世界”でも見ているかのように、顔を上げて真剣な眼差しを向ける。



(何処か遠くの世界……ねぇ)


高崎は、心の中で自然と“奴”のことを思い出していた。

まさか、“これ”も奴の手によるモノなのか……?



「──しかし、この魔素が古くから存在していることは歴史が証明している。ならば、この魔素とは何なのか……?」


現存する記録によれば、魔術の存在は4000年近く前。

つまりテスナ歴紀元前1500年前後にはあったと、既に確実とした記録として残されている。これはここ数年で判明した……というか、明らかにされた事実らしい。何せ、従来のテスナ教に基づく歴史観においては、魔術はテスナによって作られたモノだったからである。


それこそ、信憑性の薄い証拠や伝承では、もっと古くから伝わると言う話も多くあるが。




「その誕生は本当に偶然の産物なのか、あるいは別世界から訪れた異物質なのか、それとも……本当に我らの主が創りなさった奇跡なのか。この異常性の謎については、今もなお数多くの者が頭を悩ましているという訳だ」



まぁただその行使が上手くなればいい……と考えている奴らが上には多いから、普通の教科書とかにはこのことは書かれていないんだけどね。……と彼は付け加えて言う。



「しかしコレは確実に、“魔術”という存在とは何なのかを全て明らかにできる最後の謎だろう。そう、魔術とは、“神が与えた祝福”なのか、それとも“人類を滅ぼす最悪の力”なのか……」



高崎はその言葉で、魔術聖典のことを思い出していた。

──人類を滅ぼしかねない力。


もしそうならば。

魔術聖典とは……、そして魔力とは何なのか。


またまた、謎が深まるばかりであった。



「ぜひ君達にはいつかこの謎を解き明かすことの出来るような偉大な者になってほしい……と私は個人的に思っているんだ。だからここに今立っている」


自身のヒゲを触りながら、彼は笑う。

………その姿にはとてつもない威厳を感じた。



「──あぁ、そういえばクーレンローズ君には名乗り忘れていたね。申し訳ない」


本当にふと思い出したという感じで、彼は前面にある電子ボードに自身の名を書いていく。



──いや待て、その名前は……。





「私の名は、“エラド=マスケドゥーラ”だ。よろしく」


「…………え?」


高崎は思わず固まってしまった。

エラド=マスケドゥーラ。その名前を彼は知っている。

……というか知らない者は最早いない程ではないだろうか?



エラドと言えば、30年前に世界で初めて“魔力の科学的解明に成功”し、既に教科書にも大きく載っている男だ。

それだけでなく他分野にも精通し、自動学習によって擬似的に感情を有するAIの開発に成功したことや、半永久的に航行が可能な宇宙船の設計図を作ったことでも著名である。


言わば、有史以来最高レベルの天才級の才能が1人に何人分も集まった状態で生まれちゃった☆、みたいな人物だ。


最近第一線を引き、未来の研究者の育成側に回ることにしたことはニュースで知っていたが……。


まさか、ここにいるとは──。




「……え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ!!!!!!!???」


その叫びを予想していた周りの生徒たちは、期待通りのその驚きに思わず笑うのだった。








────────────────────────────









「──ここが次の場所で、当ってるよな?」


高崎は、2時限目の教室に辿り着き一息ついていた。


あの後、彼は何事もなかったかのように授業を始めた。

やはり話していることはかなり難しかったのだが、その内容は一語一句が聞き逃せない程興味深く、彼は思わずずっと聞き入っていた。流石は、稀代の天才である。



「2時限目は現代技術、ってこんな授業もあるのか」


今度は時間に間に合った高崎が独り言を呟く。

流石は世界最先端を往く技術を持つ大国。技術に関する教育にも力を入れているということなのか……ッッ!!



「──ヘイ! タカサキ……だったか?この学校はどうだ?」


そんなことを思っていると、右隣からそんな言葉聞こえた。高崎が横を振り向くと、そこにはこっちを笑って覗く元気そうな男がいた。


どうやら話しかけてくれてるらしい。何ともいい奴である。



「あぁ。さっきはメチャクチャ驚いたよ。あんな偉大な人の貴重な話が聞けるだなんてな。それだけでもうここに潜にゅ……転校してきた価値があったぜ」


「そりゃ良かった。俺はクルズ、これからよろしくな」


「あぁよろしく」


そう言い合って、高崎は握手彼が微笑んで差し出した手を握り握手を交わす。学校なんて本当に久しぶりだが、こういう新しい出会いは何度経験してもいいモノだ。



「きっと転校したてじゃ慣れないことも色々あるだろうし、もしなんかあったらどんどん聞いてくれよ?」


「おう、ありがとな」


彼はそう言うと、親指をグッと立てて再び笑った。

少し会話を交わしただけでも分かる、親切な奴である。



「──じゃあ悪りぃが、早速聞きたいことがあるんだけども……。現代技術って何するんだ?初めて聞いたんだが」


そう高崎が尋ねると、クルズは苦笑して頭を掻いて。


「ん、外部では見られない授業なのかコレ? ……まぁ普段はただの教科書授業なんだが、今日から産休の先生に代わって特区外から非常勤講師が来るらしいぜ? 聞くにすげぇ若いらしいが、そっちの分野に関するかなりの専門家なんだってよ」


「へぇ、そりゃ面白そうだな」




──なんてクルズと2人で会話してる内にチャイムが鳴り、授業開始の合図が為された。


……とほぼ同時に、1人の青年が入ってくる。



その青年は赤みがかった茶髪に、180以上は軽くある高身長、ガタイもかなり良く───。


………って、あれ?



「こんちわー、産休のレノ先生に変わって非常勤で勤めることとなったルヴァン=ナデュトーレと言いまーす。短い間にであると思いますが、よろしくお願いしまーす」


「…………………は?」


高崎は再び固まることとなった。

それこそ、今回はその意味が違うが。



(な、なんでルヴァンがここにいるんだぁぁぁああああああああッッッ!!!!!??)




──その後、ものすごくツッコミたい気持ちをなんとか我慢して授業を受け切った。

流石に、一般人前でそんな話をする訳にはいかないのだ。



「お、おおお。噂通りだ! メチャクチャ若い!! しかも、悔しいがイケメンだなぁ……!」


隣でクルズがそんなことを言っていた。

確かにルヴァンはイケメンの部類に入るとは思うけどね!?



──因みに後に聞いたルヴァンの話によると、3人一気に学校に転入というのは余りにも不自然なので、1人は教師として入れることとなったらしい。


また、彼の授業は一応秀才なだけあって良かった。

まぁどうしてか、軍事兵器に関する詳しい話がちょくちょく混じってきているようなトコロはあったが。


というか。彼はあの歳で、ちゃんと大学も出ているのだ。


ルヴァンが国立軍事学校卒で、テラがアルディス第一魔術学院大学卒である。そして両者共に、通常であれば高校生入学くらいの年齢の頃には卒業を果たしている。




というか、そもそもの話。

それぞれ別々の学校に転校すればいい話なのでは……?



いや、まぁ何か特別な理由があるんだろうけどさぁ。







──まぁ、そんなこんなで。



高崎たちのとんでもない学校生活が、始まったのであった。









「……そういや結局、あのときのセルヴィナは俺に何て言おうとしてたんだろう?」









────────────────────────────










──そして夜。


空には満月が昇り、深夜の静寂が教育特区を支配している。

この時間帯教育特区には、警備員の他に普段は誰も存在し得ない……のだが。



「ここが、その展覧会が開かれるという場所だ」


「なんか思ってたより普通の場所なんだねぇ。もっとでっかいでっかい建物のかと思ってたのに!!!」


男と女が、近くの丘から、立ち並ぶ後者を眺めていた。

教育特区は基本的に暗闇に包まれてはいるが、その内部は各対侵入者用システムが至る所に根を張っているという。



「……始めるか」


男はそう呟くと、センサーを判別するゴーグルを装着する。

すると否や、彼らは広い地区を囲う塀を飛び越えた。


それは5m以上はあり、決して侵入を許さないように有刺鉄線や電流……センサーまで配備されているのにも拘らずだ。


女もあっさりと続き、教育特区に2人の人物が侵入した。

彼も後ろを振り返って、予想以上のザルっぷりだと言わんばかりに呆れたような顔をしてみせる。




「──2200年以上続くアルディス連邦王国も、“終わりの刻”は近いな……」




静寂な暗闇に、その言葉が響き渡っていくのだった。











【プチ用語紹介】

・エラド=マスケドゥーラ

アルディス王国が誇る、現代最高とも評される天才科学者。

その業績を語るには軽く1時間は必要なほどで、最も素晴らしい発見を挙げるなら、魔術を科学的に解明することを世界で初めて本格的に果たしたことだろう。

現在は、新たな人材を育成するためにも一線を引いて、教育の世界で汗を流している。

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