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12話 『最終作戦④ —中雅の運命— 』





──その時、どこかで誰かが言った。


「私は、風早陛下の側に付こう」


退役軍人の彼は、自室に座っていた。50歳はいっているであろうその荘厳な顔は、彼の人生の功績を自然と連想させる。


そこには多くの現役時代のものと見られる写真や銃などが置いてあり、数々の勲章さえも目に入った。



「あれから12年。ようやく陛下もお目覚めになりましたか」


彼は噛みしめるように、呟く。

──何を隠そう、彼はあの北方戦争のときに1人の軍人としてコンクノーナに駐留していた男だ。


だから、“あのこと”もよく知っている。



「ならばこの私、元陸軍大佐として再び立ち上がりましょう」



そうして彼はケースに入れてあった銃を担ぎ、外に出た。






───東のどこかでは、ある子供が母に聞いていた。



「………“きょうわせい”って、なに?」


「共和制ってのはね、皆で話し合って決めようってことよ」


娘の純粋な疑問に、笑いながら答えた。

彼女は隣に座っていた、お父さんに顔を向ける。


お父さんも釣られるように笑って肯定する。


「……そうだな。私たちが、自分達の未来を決めるんだ」



しかし、娘の方はとんちんかんな様子だ。


「………よく分かんない」


「あはは難しいか。でもいつかは理解しなくちゃならないぞ」


なんで? ……と聞くように、その少女は首を傾げる。

その様子を見た父は、こう説明するのであった。



「この先、“これが”大切なキーワードになるだろうからな」






──西の方では、若者達が部屋でテレビに向かっていた。



「遂にこの地にも民主化の光ッ!!

 とんでもない時代に生きてるなぁ俺らッ!!!」


その中でも一番屈強そうな男が叫んだ。その声に対してうるさそうにしながら、隣の小柄な女子がつぶやく。


「でもなんで、今までこうならなかったんだろうね。隣国のウラディルもアルディスも民主的な国なのに」


眼鏡を掛けた少年が疑問そうに呟いた。

確かに、この世界には王政の国はまだまた多いが、北東大陸の隣国においては、王の権力などとは全く無縁な国がある。



「ま、この地は4000年以上もの間、王や皇帝が支配し続けた地域だし。国民の側にも政治ってのはそういうモノなんだ、っていう観念がずっとあったんじゃない?」


メガネを掛けた男の子が答えた。


「でもあの人も言ってたけど、権力的王政なんてもう古い古い!! 時代はとっくのとうに民主主義の時代だろ!!」


「確かになぁ、俺もこんな勝手にやれる世界は嫌だったんだよ。センコーどもは陛下を敬えってうっせーけどな」


頭に手を組みながら男が言う。



「まぁもともと大陸間戦争終結後からはそういう風潮が高まってたらしいけどね。ウチの燿朝は当時大帝国だったからそういう動きも全部鎮圧されてたみたいだけど」



──高校生ほどの彼らは、アウトドア派インドア派、男子女子、そんな区別は関係なく教室で話し合っているのだ。


そんな自由に討論が交わされる中、1人で窓から空を見上げながら、ある1人の者がこう呟くのだった。



「ま、何にせよ自由になるのはいいことだよなぁ」







───中央部の乾燥地帯でも、誰かが笑う。



「はははは!! やっぱ陛下はこうでなさらないとなぁ!!

 俺はずーーっと、最初から信じてましたぜッ!!?」



銃を手に駆けながら、彼はラジオの一報に歓喜の声を上げた。

彼は各地に居る、逃げ遅れた・もしくはそこを拠点としていた燿朝兵達との戦闘を行っている勢力の一員である。


今も、その前線に向かっている最中だった。



「これでアイツらの士気も上がるだろうなぁ! 燿派の残存兵なんか俺が全部惨めに白旗上げさせてやるぜッ!!」


そう彼は笑い声高らかに宣言して、サボテンの連なる固い大地を駆け抜けるのだった。







───そして、インターネットでもまた、その話題が全てを持ち去っていっていた。



“民主化バンザイ! そして我らの民族の栄光にバンザイ!!” △780k ▼182


“遂に帰って来なさった!!

俺達のヒーローだった頃の陛下が!!”

△469k ▼178k


“これで燿朝支持者どもの大義名分は折れたろ。内戦の終わりも近そうだな。” △250k ▼162k


“大正帝国が終わるなら、次は大正民国にでもなるのか? △102k ▼36k


“でもなんで輸出規制とかの鎖国政策なんか行ったんだろうな

民主化とまでは行かなくても自由主義を少しずつ広めていた皇帝とは同じとは思えない政策だったし。” △231k ▼10k


↑“本当かは知らんが、国内産業の育成と孤立主義による平和が狙いだったって聞くぞ!” △89k ▼1.8k


↑“確かに最近、西大陸では移民とか旅行者による凶悪犯罪の増加が止まらない、って聞くしな。” △67k ▼1.3k


“俺はゆるさねぇよ。雅一族による統一の方が絶対に一体感が出るし、全員平等の世界最強になれるからな。”

△32k ▼69k


↑“雅派がいるぞ!!みんなやれw!!” △34k ▼24k




SNSでの話題は大半をそれ関係が占めて、動画サイトでは戦いの生放送が、同時接続者数の歴代最高記録を更新していた。


そして、その勢いは国内だけに留まらず……。







───アルディス連邦王国にまで、その宣言は波及している。



人民主権の立憲君主制をとるこの国において、隣国の君主政はあまり好感を持たれていなかったためか。

……アルディス国民はその一報を歓迎する声が多かったのだ。



また王都行政府では、ロデナ宰相が面白そうにそれを見ていた。



「ははっ、すげぇな。ここでソレを宣言しちまうか。こりゃ今まで“どっちつかず”だった民衆に、一気に総雪崩でその意志を変えさせちまっただろう」


彼は心から感心したように頷く。




「ま、こうなればもう風早の勝ちかね。

 ──さて、今のうちにこれからの“準備”でもしておくか」



彼はそう言って、画面を消す。

準備とは何か?…………決まっている。





「この先、かなり忙しくなるだろうからな」









────────────────────────────










──そして。



ガキンッッッ!!!!!!!!!



剣と剣がぶつかり合う、凄まじい音が響き渡った。

そのまま押し合いが始まる。


しかしその熾烈な押し合いは、“今までの”力関係”とは引っくり返った状態を示していた。



「……くッッ!!? なんだ、この力はッ!!?」


火花が散る中、建隆が苦し紛れに言葉を吐き出した。

その額には大量の汗が浮かび、歯を食いしばっている。その様子は、まるでこれまでの風早のようであった。



「はっ! 完全に形成逆転だな、この地に住む18億の民はどうやら俺の意見を選んでくれたみたいだな……? 悪りぃが早々に決めさせて貰うぜ……ッ!!!」


そして先程と同じように、風早が剣をぶん回した。その勢いで、今度は建隆が奥の建造物まで吹き飛ばされることとなる。




壁には大穴が開き、既に半分倒壊していた。



「──が、く……くそがッッッ!!」


暫しの間の後、建隆は這い出るようにして出てきた。

既にその体には至るところに血の滲む様子が見られ、彼の体にも限界がきていることを示し始めている。


強い力を持つとはいえ、所詮は1人の人間。人智を超えた戦いには当然負担も掛かるし、それこそダメージなどを食らえばその負担は途轍もないものとなる。


それは、先程まで追い詰められていた風早も同じなのだが、彼はそんな素振りは今は最早見せていない。


──何故か。


“それ以上の、彼に与えられたチカラと使命が、彼を動かしているからに他ならない。




彼は這い出るようにしてそこから出てきた。

口からは血が流れていた。彼は恨めしそうに、声を振り絞る。


「……これが、お前の秘策かッッッ!!?」




その言葉に対し、風早は軽く笑いながらこう告げたのだった。



「いや、これは俺のモンなんかじゃねぇよ。

 

 ──これは、“()()()()”チカラだ」




既に、狩る者と狩られる者の立場は逆転した。

その言葉ともに、再び攻防が始まる。




「がッッッ!!!? ……くッッ!!?」


隙を見逃さずに、風早は空かさず攻撃を加えていく。

そのスピードは常人の理解を超えるレベルであり、ネットで見ている人々は、あまりの非現実さに口が開きっぱなしに違いない。


そしてようやく一旦間が空くと、軽く息を切らしながら建隆は笑った。



「──ならこうだ、お前が共和政を築くってんなら、俺は」


「んなこた言わせるような時間は与えねぇよ!」


その言葉と共に、風早が跳躍するように斬りかかった。

その宣言通りにして、健隆のその先の言葉を阻止する。


──また、剣による押し合いが始まった。



「お前……ッ!!! 自分だけ堂々と民衆にアピールなど不平等だとは思わないのか!?」


「ハッ!! お前の演説は2ヶ月前にさんざんやってたじゃねぇか。平等な社会を作る? ……言ってることは大層なことだが、なら何で帝政を続けようとしたんだ?」


「──んなモン、“前”のお前も同じじゃねぇか……ッ!!」


建隆が押し合いながら、風早の問いに反論する。

その言葉に彼はほんのわずか、一瞬だけ動揺したように見えたが、すぐさま元に戻す。



「……あぁそうだよ。俺もこの20年間、皇帝という位置にいた!! 一応議会は作った。が最終的な決定権は、議会に対する拒否権や非常大権等を持つ皇帝にある事実上の独裁だ!!」


風早が、溜まりに溜まった自身の心の中を晒すように、叫ぶ。



「俺は大バカだった!! 周りのいい声に調子に乗って、バカみてぇなことをしてたんだ!!」


「──くそっ、何が言いたいッ!?」


「簡単な話だ。あぁ、あの時に民主化させるべきだったんだ。

なのに俺は権力には溺れないと思い込み、自分ならこの国を最高の国に出来ると自惚れちまったんだ!!」


彼は今まで以上に。いや、これまで隠していた、ずっと心の奥底にあったその気持ちを吐き出していく。



「北方戦争の時だって、俺がもっとしっかりしてたら楓は死なずに済んだはずだった!! いや、“そもそも”戦争が起きないようにだって出来たはずなんだよ!!!」


「──ぐッッッ!!!!?」


徐々に剣の押し合いが傾き始める。


「孤立政策? お前の言う通りあれも俺の独善的なモノだ!! 国内の安定化のため、保証金さえあればいいとか勝手に考えて、輸出入に関わる人達のことなんか考えてるふりしても本当には全然考えてなかった!! 俺は何てバカなことしたのかと、出来ることなら関係者1人1人に謝りに行きたいくらいだ!!」


きっと、今の言葉は今回の反乱の理由の1つだった。

だからこそ、ここで言わなければならなかった。



「でもよ。だから身をもって分かってんだよ俺は。1人や少数による独裁なんて“ロクな事にならねぇ”」



──あぁそうだ、いつだって権力は人を狂わせてきた。

王はそれを使って民衆を抑圧し、大量の財産を蓄え、それを浪費し、他国にまで攻めてその土地の人々さえも傷つける。


そして、それは時間を経るごとに酷くなっていくのだ。


勿論、民主政とて完全無欠ではないことは分かっている。

かつて古代ギリシャで衆愚政と揶揄されたように。大衆の選択が常に国家にとって正しいモノになるとも思わない。




──でも、それでも。



「だからさ、みんなで決めるんだよ。自分達のことはみんなの意見を聞いて決める。こんな当たり前のことが出来ない社会にはもう俺はさせたくない!!」



しかしその口上を、建隆は鼻で笑うように一蹴する。


「それこそお前の方も、言ってることは大層だが事実が見合ってないじゃないか。今まで散々振り回しておいて、今になって急に心入れ替えましたって?

……そんな奴、誰が信じる?結局“次”もうまくいく訳がない」



───正論だ。

これは普通なら、全くもって歯がたたない正しい論だ。



だが、風早はその正論を“ひっくり返す”。




「おい、大統領か首相か分からんが、ンなモンになるなんて誰が言った? ……俺はテメェをぶっ倒した後は、どうとなる覚悟も出来ている。人々が今までの俺のことを糾弾するなら、独裁者として吊られてっていい」



本当に。

心からそう思って、彼は宣言する。


──そして。



「でも……いや、“だから”。

 お前に皇帝の座なんて譲らねぇ。そろそろトドメだ」





風早が押し合う剣を握る手を再び強く、強く握りしめた。



「オラあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」


迫真の声と共に、彼は最後の攻勢に出た。


ガキンッッッ!!!


それにより、建隆の腕から剣が弾け飛んだ。

そして手ぶらとなった建隆の顔がさっと青くなる。


──剣を失うとはそれ即ち、これまで与えられていた例の強大な力をも手放したこととなるからだ。



それを見た風早は、自身も剣をしまって、奴へ向かう。

決して、建隆を殺したい訳ではないから。



「さぁ、これで内戦は終わりだッッッ!!!」


「──や、やめ……ッッ!!!?」



ガゴォッッッ!!!!


凄まじい打撃音が鳴り響いた。

その握りこぶしを食らった彼の体は、高く高く宙を舞う。


そして美しいほどに綺麗な放物線を描き、どさりと音を立て、そのまま地面に倒れ伏すこととなった。



「…………く、……くそ、がっ……!」


凄まじいダメージに歯を食いしばりながら、吹き飛ばされた自身の剣を握り直そうとして、剣隆が地を這う。


しかし、その足掻きも最早意味を成さない。

風早は『永雅』を足で押さえつけ、自身の剣を向けた。




──最早これまで。


建隆はそう感じてしまった。そして薄れる意識の中、彼は風早のある言葉を薄っすらと聞くこととなる。




「………でも、もし世間が。民が俺らを許してくれるのなら」



──もう視界には何も映ってはいない。






「次は大統領選か何かで戦おうぜ。こんな“皇帝”なんて立場じゃなくて、ただこの地を愛する1人の国民として」









────────────────────────────









その様子を、高崎はデバイスで見ていた。


ネットでは既に勝敗の結果について大騒ぎだ。

彼はそれらを一瞥すると、軽く息を吐いてからデバイスを閉じて、同じく見ていたルヴァンとテラの方を向く。


「………ま、これで一件落着だな」





──こうして、2563年7月6日。



約2ヶ月に渡り続くこととなった『中雅内戦』は、正朝政府軍側の勝利で幕を閉じたのであった。










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