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11話後編 『最終作戦③ —国民総選挙— 』





「──よし、これで準備完了ってとこか?」


目の前にある大きな機械を弄りつつ、ルヴァンがそう呟いた。

その機械はなんだか妙に古臭く、普通に地球でも見られるようなテレビ放送用のモノであった。


強いて言うなればその電波に関しては最新式の、超広範囲に行き渡る製品を採用しているが。



「へいッ! 放送開始ってのはここでやればいい感じか?」


『ちょっと待って! ……ふんふん、なるほどね。

うん、そこの大きい赤いボタンを押せばオッケーなはず!』


“エレナ”が“セルヴィナ”といくつか言葉を交わし、操作方法を伝えた。


「オーケー、やっぱこれか。これ程目立つボタンだから、自爆ボタンなのかと思っちまったぜ」


ルヴァンがそんな軽口を叩きながら、ボタンに手を触れた。




──話は少し前に戻るのだが。

中都テレビ局を制圧した後、『正朝アルディス連合制圧部隊』は、それぞれの役割を果たすために動き出していた。


正朝の兵士達は、四方上下からの敵の侵入を防ぐ防衛。

テラや唐馬は、屋上にある巨大なアンテナを専門家と共に弄りに行っている。



そして、全てがAIで行えるような今の時代。兵器とはそれ即ち機械を操ると言うこと。だから、それに長けるルヴァンとそのサポート役として高崎が、この放送器具の操作の役割に任命されたのだが。



──ひとつ、大きなミスがあった。




書いてある言語が、よく分からない⭐︎






……というのも、大正帝国の領土は大陸に跨るほど超広大。

その為地域によって、文字をも含めた“一種の方言”のような、大きな言語的差異があるのだ。


無論現在では、国の教育によって共通語の統一が為されてはいるが、元々あったそれらが完全に消滅する訳でもない。

この機械は地方民の意地なのか、なんとも不便なことにその方言の1つを使っており、何となくは分かるものの微妙に内容が把握しきれなかったのである。



そんな訳で、高崎がデバイスを通して、中雅語のよく分かるエレナやセルヴィナと通話を行なって、方言の解釈が間違っていないか確認を取っていたのだった。





『それにしても情けないわね。アンタ、確か中雅語は軍事学校で学んでたんでしょ?』


「……いやそりゃ確かに使えるが、こっちのお勉強はあくまでメインは軍事関係の専門技能なんだ。ただの講義と独学で、各地の方言まで完全にマスター出来るかよ。つーかお前が言語習得に関して優秀すぎるんだ」


ルヴァンが呆れたように言う。

実はエレナは中雅語を含めて5つ言語を習得していたりする。

彼女に言わせてみればそんなの貴族の教養の範疇とは言うが、それにしても優秀なのだった。

やはりトラブルメーカーなことと、回復以外の魔術が壊滅的であること以外は名門一族の血を持つ者らしい。






「──よし、これで全国放映のテレビはジャック出来たな。

 …………おい!ネットの方はどうなんだ!!?」


ルヴァンは機械が動き出したのを確認すると、隣で待機していた高崎にそう投げかけた。



「お、丁度連絡が来たぞ。……あぁ、SNSで中都戦線の生放送を行うことを呟いた後、大手動画投稿サイト全てで、既に生放送は開始されたとよ」


高崎がそう呟きながら、動画アプリを開いた。


まぁ当然この発展した世界では、テレビなんかよりも圧倒的に“インターネット”の方が力を持っている。


中毒を生み出すほどの娯楽である、動画投稿サイトやSNSなどは、かつて旧来のシステムを継承しつつ、やはり存続しているのである。


()()()”を拡散するのなら、動画サイトやSNSを使うのが一番だろう。



「なにせ、政府アカウントによる最前線の様子の放送だ。見てみろ、『ネスリナ動画』なんか、開始5分で既に150万人が視聴してるぜ」


高崎がその生放送を実際に見ながら、軽く笑った。

コメントは一瞬にして次のコメントに掻き出されてしまい、最早見ることは出来ない。



──そして。


そこには、中都での“風早と建隆の戦い”が映されていた。


ドローンで映し出されたその音速レベルの“ケンカ”は、見る者を圧倒することは間違いない。


そして恐らくそれは、世界でも初めてと言っても良い程度には、最強レベル同士の戦闘を写した生放送であろう。

その噂と話題は、瞬く間に全国に、……いや全世界中に広まっていた。


なんと視聴者数の数値は、わずか数秒でほぼ倍に増えていた。




そして、高崎がデバイスから目を話すと、テレビには戦闘の様子が映し出されるのが、彼の目には映った。

 

「ま、これでひとまず成功だな」


ルヴァンがようやく、という感じで汗を拭き一息ついた。




『テレビ映ったの? ……というか、こっちでも凄いわよ。もう国中が既にその生放送の話題で一杯って感じ』


『──よ、よかったぁ……』


デバイスから、エレナとセルヴィナの声が聞こえた。

彼女らには助けられた。もしあれらを翻訳してくれる人がいなかったらどうなってたことやら。



「サンキューな、ほんと助かったわ。エレナとセルヴィナが居なかったら、放送は始められなかったかもしれなかった」


高崎が素直に感謝の意を伝える。

気持ちをちゃんと相手に言葉で伝えることは大切だ。



『……ど、どういたしまして』


『私だけ仲間はずれってのもなんか嫌だしね。……そんなことより、ちゃんと3人そろって帰って来なさいよ』


彼女達の、それらしい返答が返って来た。



「あぁ、ありがとな」


最後に再びお礼を言って、彼は通話を切った。



これで、高崎達に与えられた“任務”はほぼ終わりだ。





「ま、あとは頼んだぜ。……風早さん」









────────────────────────────









──ついに。

何度目になるか分からない大振りが、ついに風早を捉えた。


そのまま彼は臨時政府棟に突っ込み、壁には大穴が開く。

防御強化されている以上、死にはしないだろうが、体はもう血が滲むほど傷だらけなのが分かった。



「そろそろ、チェックメイトだな」


建隆が、自身の勝利を確信するように、笑って宣言した。

確かに、このままでは風早に勝ち目はない。


「──そうだな」


壁に空いた大穴から這い出るようにしながら、彼も呟いた。


しかし、彼はそんな諦めの言葉を言うような奴ではない。

建隆はそう怪訝に思った。



そして。

……その“予感”は、的中した。



「──それは、“()()()()()()”」


その言葉と共に、風早の表情が一変する。

今までギリギリで避け続け、苦々しかった顔も、普段を思わせる余裕の笑みを浮かべていたのだ。


「はっ、何が言いたい……?」


その不自然な笑みを、建隆は不気味にさえ感じた。




「今更言わせてもらうが、周りにドローンが飛んでたの分かってたか? ──悪りぃな、コレ全世界に中継されてんだ。」


「……そうか、それがどうした」


建隆は、そんな告白にも眉ひとつ動かさない。

しかし、そんな様子を見ても、風早は口を止めることはない。



「建隆。……俺はさ、今でこそこんな大層な立場に居るが、元々はただの一般人だったんだよ。普通の家庭に生まれて、なんとなく学校に行って、友達と遊んでるような」


そして彼は、何故かは分からないが、突然昔の話をし出した。


何処か、遠くのいつかを思い出している。

………そんな目を向けて、彼は言葉を紡いでいく。




「だからさ、1人だけじゃ絶対に辿り着けなかった場所なんだ、“ここ”は」


風早は、ひとつひとつの大切な思い出を、心に思い浮かべる。


「それこそ、あいつら七英雄だけじゃなく。この国に住んでいる沢山の人たちがいて、それに支えられて俺はここに初めて立てている筈なんだ」



──そうだ。

いつだって、風早相馬はみなに支えられていた。


彼はその昔を想うようにして、ゆっくりと息を吐く。



燿朝に対して反旗を翻せたのだって、殷生達の資金や人材の後ろ盾があったからこそで、俺のお陰なんかじゃない。


そして、そんな野望が結果的に成功したのも、それを支持してくれた人々が沢山いたからだ。……それはきっと、当たり前のことだけれど。


──だからこそ、とても“大切なコト”で。




「俺は、それを忘れないでいるつもりだった。……けど、次第に忘れていってしまってたんだ。ほんと情けねぇ話だけどな」


本当に情けない、と思っていると誰もが感じるほどの悔やんだ表情で、風早はその一言を口から出した。


その口は、歯をくいしばるように震えていた。



「自分が勝手にこれが一番国の為になると思っていても、必ずしもそれが正しい訳じゃない。そんな当たり前のことも分からずに、みんなに勝手ながら政策を押し付けて、みんなに伝えることもなく迷惑をかけちまったんだ」



──気がつけば、目の前の建隆も話に聞き入っていた。


反乱の首謀者として、そして1人のトップに立つ者として、……その言葉は聞き逃せない告白だったのだろう。



「でも、もう気がついちまった。いや、気付けたんだ。

──そう、俺はもう、これ以上その大切な人達を裏切る訳にはいかねぇ。……いや、俺がもうンな事はしたくないんだ」




そして、彼は固く拳を握りしめる。




「だから決めたんだ。俺は────────」




そこで、彼は一旦言葉を区切る。


いったい、何故か?



──簡単だ、“強調”したいからに決まってる。






「俺はそうッ!! この国を、“歴代初の完全な共和制国家”にしたいと思うッッッ!!!!」




彼は、そう。

……………高らかに、宣言したのだ。



その宣言に、大正帝国打倒を掲げていた目の前の1人の男が。


生放送を見ていた数百万・数千万の中雅の民が。


そして、世界中の人々さえも。



狂乱の渦に巻き込まれることとなる。





「………さぁ、これが共和制化かそれとも皇帝による統治か。

それを決める国民投票だ!!! 参加方法はとっても簡単。この全国放送を見ながら、勝ってほしい方に祈ってくれ!! それだけで、俺達はこの魔剣を通じてその分の“チカラ”か得られるからなッッ!!」



今までの呟くような声から一転。

彼は全力で叫びながら、言葉を撒き散らしていく。


そして、魔剣『集祈』をゆっくりと手に取る。



「今まで経験したことがないから分からない?

 ……古くからの伝統を壊すわけにはいかない??

 ……それとも、そんなことができる訳がないってか???


 ───んなことは気にすんじゃねぇッッッ!!!!!」




その勢いある言葉に、世界中の誰もが、聞き入っていた。




「“今までの”常識なんかに囚われるなッッ!!

 古臭ぇ考えなんてモンはとっとと捨ててしまえッッ!!!」




そう皆を奮い立たせ、彼は最後にこう宣言する。



「──新しい時代をみんなで作っていこうぜッッッ!!!?」





「……こっ、この野郎……ッッッ!!!!」



今まで固まっていた建隆が、たまらず動き出した。

──相変わらず、凄まじいスピードである。




しかし、風早は“今まで以上の”スピードで難なくこなした。


──どうやら既に、演説の“効果”は出ているようだ。




その事実に、風早は笑みを浮かばざるを得ない。


勿論、この宣言は嘘などではない。


そもそもの話。

“元々”は、この地を民主国家にする予定だったのだから。



だからこそ。


彼は興奮に震えながら、こう演説を締めくくった。






「さぁ、中雅全国国民総選挙の始まりだッッッ!!!!」











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