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11話前編 『最終作戦② —永雅の願い— 』





────────────────────────────






『……で、アンタはどうするんだ?』


風早が身の丈に合わない大きな剣を肩に担ぎながら、問う。


ここは、600年近く続“いた”帝国。

燿朝の首都で“あった”中都にある雅一族の宮殿。

──“かつて”の東大陸の中心地である。


まぁ今ではもう各地で反乱が発生しており、この中雅の地の覇権は東方から台頭してきた『大正帝国』が握っているのだが。



──そして今日。“2541年5月5日”。

正朝の軍勢が中都宮殿に侵入し、追い込まれた第34代皇帝の雅建津は、自身でその命を断つこととなった。


つまり、実質的な燿朝の滅亡が決まったことになる。

先ほど正式に、正朝の建国宣言が先ほど行われ、各地ではそれを祝う祝祭が盛り上がっているようだ。



──そして。


ここには、彼らに囲まれるようにして、燿朝皇帝の一人息子、雅建隆が立ち尽くしていた。


齢は確か……12歳程であったか。

父に先立たれ、母とは別の場所に隔離されているのだが、戸惑ったり怖気付いたりする様子はなく、こちらを少し睨みつけるように見ていた。



風早は自身と比較的近い年齢のその少年に、突き放すように、しかしそれでいて少し優しく言葉を告げる。


『勿論無理に従え何てことは言わねぇよ。……ただ、もしまだ争うってんなら、俺達は別に手加減するつもりはないぞ』


『………………』


『ただ、俺だって出来るなら殺しなんてモンは少なくしたいと思ってる。それは、今この瞬間も一緒だ。

──もしお前が自ら燿朝の終焉を宣言してくれるのなら、 雅一族の存続と、ある程度の特権身分は認めよう。

…………ま、大きく権力は制限することにはなるがな』



『──それをして、あなたに何のメリットがあるんです。反乱を起こした貴方達に、そんな慈悲をかける必要もないはず』


20歳に満たぬ男とは思えぬ風格を見せる彼にも負けずに、建隆は口を開いた。その鋭い言葉に、風早は軽く苦笑した。



『ま、そりゃそうだ、俺だって慈善家じゃあないからな。ぶっちゃけて言うなら、“もうやめにしようぜ?” ……ってコトだ』


その言葉で彼はその意図をもう理解したのか、頷くような仕草をして、唾を飲み込んだ。


『もう既に勝負は決まったとはいえ、まだまだ雅一族派の分子はそこそこ居るのが現実。……だからこのままなら、悲惨な戦闘はまだまだ続いてしまうことになる』



確かに、勝負はもう決したが、まだまだ正朝側の敵は多い。

それに南方ではウラディルが、北方ではブラーデンが。内戦で混乱しているこの土地を狙っているという話さえも耳にする。


──つまりは、内戦の長期化は、“どちらの立場”からしても悪い点が存在している訳だ。




『俺はもう、これ以上同胞同士の争いなんて起こしたくねぇんだよ。アンタだって、自分を慕ってくれてる人たちが殺されちまうのをただ見ている訳にはいかねぇだろ?』


その言葉で、建隆は何かを思い出したのか。どこか遠くを見つめるかのようにして天井へと顔を向けた。

──その頭に浮かんでいるのは、一体誰の顔なのか。



『だから選んでくれ。……提案を飲んで平和を享受するか、それとも大切な仲間に僅かな望みにかけて悪足掻きをするか』


『──1つ、条件があるけど』


『……ほう、言ってみな』


条件という言葉に、風早は面白そうに笑みを浮かべた。

普通ならそんな条件なんぞ到底受け入れられない程の、力の差が双方の間には存在する。


が、風早は関係なしに、断ることなくその先を促した。




『………母さんや僕の兄弟だけじゃない。

 ──父さんの名誉も、ちゃんと守ってくれるなら』



金、名誉、それとも自治権? どんな要求が来るのか、と考えていた風早は、その言葉に思わず顔を上げてその目を見つめた。


その目は、真剣そのもの。1人の息子として、今は亡き父のことを守ろうとする、そんな目であった。




そんな彼の様子に風早も、真剣な答えを持って言葉を返す。


『あぁ勿論だ。その最期までを皇帝として生きた1人の男として、その遺体も丁重に扱うと約束しよう』


風早は目を閉じて、生きていた頃の彼の姿を思い返した。



直接会ったのは……確か一回しかなかったが、彼は政策こそ少し空回りしてはいたもの、暴政を繰り返していた先代の失態を挽回しようと、色々やっていたと聞く。


──出来れば、彼が死ぬことなく、2人でこれからの中雅の未来について話してみたかった。




『アンタの父親は皇帝としての是非については兎も角、1人の父親としては良い親父だったみたいだな。

………何せ、その息子がこんなすげぇ奴に育ってるんだから』


風早が軽く笑みを笑みを浮かべて言った。

嘘偽りのなさそうな、そんな心からの答えだった。



その言葉に、建隆もまた、少し笑って答える。



『いやあんた、見た感じたいして僕と歳変わんないでしょ。そのジジ臭い台詞、似合ってないから辞めたほうがいいと思うよ。……普通にダサいし』


『やめてね普通に傷つくから。カッコつけたいときって誰にでもあるでしょ? てか急にフランクになったなお前、こっちが下手に出ればこれか。ったくこれだから王族ってヤツは……』


『───今のはケンカの合図ってことでいいのかな?』


『あ?おいヤんのかコラ。………よし分かった、今から喧嘩でこれからの真の皇帝ってヤツを決めようじゃねぇか。絶対にボコす、クソガキめ』



『おい何言ってんだお前!!!?

───あーもう止めろ止めろッ!!!! こんな時に年相応の振る舞いを見せる必要はねぇからッ!!!』


2人の仲介役として近くにいた、雅建隆の従兄弟であり、正朝側に付いた男、雅銖衞が突っ込む。





──まぁこうして。



紀元前から始まり、分裂期や他王朝時代などの間を経て、新たに600年もの間この地を支配していた雅一族による『大燿帝国』は、正式に消滅が宣言されることとなった。


その一報に歓喜沸く者、泣き出す者、困惑する者、その反応は多様ではあったが、確実に。


新たな時代へと進んでいることは、誰をもが感じたのだろう。






…………そして。









────────────────────────────









「──まさか、あの時は本当にお前と刃を交えることになるとは、思ってなかったよ」


「……こっちこそ。まさか本当に“ケンカ”で、帝国の運命を決めることが来るなんてな」



24年来の因縁を経て、2人の男が対峙する。

かつての大帝国と、今も続く大帝国を治める者たちの戦いが、今ここに始まろうとしていた。




建隆が言葉を告げ終えた途端に、地面を蹴って風早の方へと駆け出した。極限まで強化されたその脚力は凄まじく、その様子は最早跳躍をしているようにさえ見える。


その速度は見えざるほど早く、一瞬で胸元にまで差し迫った。



ガンッッッ!!!!!!!



近くにいれば鼓膜が爆発してしまいそうなくらいの爆音をかき立てて、火花が散った。それでも、その伝説の剣は折れることなく、2人の力を受け続けている。



しかし確実に、その勢いは少しずつ片方によっていた。


──それは………。




「……お、お前……、そんな力がどこに、ある……ッ!?」


「──だから言っただろ、絶対にお前には……私は勝つッッッ!!!!!!」


いつもの口調からはすっかり崩れたその雄叫びと共に、雅建隆が歯を食い縛って大きく剣を振るった。

その振りは豪快たるものであり、恐らくそこらの一般的な剣使いが見れば、あまりの差に剣を握るのを辞めてしまうかもしれない。


そこまでは、容易に想像できるようなモノだった。



「────がッッッ!!!!???」


その勢いに力負けした、風早ははるか空に投げ出される。


……が当然、風早もただ者ではない。

空中ですぐさま体勢を立て直し、敵の位置を見つめ直す。



しかし。


「………………いない……?」



先程まで戦場となっていた臨時政府棟の広場には、建隆の姿が確認出来なかった。

上から見えるモノは、気絶した燿朝側の兵士と、戦闘で破壊された瓦礫だけである。



「───まさかッッ!!!」


風早が、第六感のような、そんな戦闘の予感で後ろを振り向くと、そこには、既に剣を振るっている“奴”がいた。


──もう、素直に避けているようでは間に合わない。



そこで彼は空中にいながら自由自在に体を捻り、建隆の剣を捌くように受け流す。直撃させずに、軽く擦るようにやることで、その威力をうまく受け流す訳だ。


突然の奇襲ながらも、なんとかそれをやり過ごし、ようやく地に足をついた。これで一旦間が開けられるか。




──しかし。


「…………ッッッ!!!!?」


それでも、風を裂くような凄まじいスピードで、雅建隆が攻撃を仕掛け続けてきた。


風早はそれに対して、なんとか衝撃を受け流すように、ギリギリの所で自身の剣で捌いていく。


そこで、彼は奴の持つ“その剣”に疑問を抱いた。



「お前、“その刀”は何だ? ……見たことねぇぞッ!!」


「そりゃそうだ、アンタに見せたことはなかったからな」


何を今更、とばかりに建隆が鼻で笑った。その顔は、汗を流して防戦する風早とは対照的に、余裕さえありそうであった。



「──『“永雅”』だ。はるか昔から存在する、我ら雅一族の永遠の繁栄を願って作られた、最強の魔剣だよッッ!!!」


再び、建隆がその剣を大きく振るう。

すると今度は、とてつもない突風が引き起こされ、まるで竜巻のように風が巻かれていった。


周囲に遍く、人がの大きさは優に超える程の瓦礫さえも、空高く舞い上がっていく。



「──お、おおぉぉォォォ!!!?」


風早は、それもギリギリの所で横っ飛びをして回避する。

あと一歩遅ければ、あの突風に巻き込まれていただろう。



「……これはな、それ名の通り、歴代の皇帝達が受け継いできたモノなんだよ」


建隆が得意げに、その剣の秘密について話す。その顔はまるで勝利を確信しているかのように、口角が上がっていた。


「すなわち、凄まじい魔力の影響を受けている。

 これほどの練度の魔剣はどこを探してもないだろうな」


ひとたび剣を振るえば、それだけで竜巻のごとく疾風が発生し、地面がえぐれ上がり、空気が爆発音を散らす。その威力は、彼の言葉に恥じぬ様子を、……いやそれ以上の惨状を風早の目に写させていた。



「そして……その効果は、一族の象徴たる宮廷の玉座のある地にて、その正統な血を継ぐ者への最大限の魔術的強化、及びその繁栄への羨望を力に変えること。

桑炎から奪ったのか知らんが、お前の今手にしている『集祈』如きでは、この中都の永雅の前においては少しも輝きはしまいッッッ!!!」


「──がッ!?……ぐッッッ!!!!!」


今度は捌き切れずに、剣と剣がまともにぶつかり合う。

それだけで、風早には未だかつて感じたことのない圧が、身体中を駆け巡った。



なんとか攻撃に耐えているだけでこれだ。

……正攻法でぶっ倒すには、どうすればいいのか。



汗と、硬く握り締めすぎて血の滲む風早の手を片目に、建隆は攻撃を続けながら話す。


「“あの時”、父さんはこれを使えば、もしかしたら1発逆転を狙える可能性さえあった。それ位この剣には“可能性”がある」



決して、剣の猛攻は止まることなく、建隆は言う。


「でも、しなかったんだ。……それは何故か。

──それが、父さんなりの“ケジメ”だったんだ」



「…………ケジメ、だと?」


風早が軽く息を切らしながら、問う。



「父さんは本当に、最期まで“皇帝”だった。だから、反乱に対しての人々の反応を見て、父さんは悟ったんだ、私の時代は終わった……って!!」


昔を思い出しながら、彼は叫ぶように言葉を吐き出していく。


「だから戦わなかったんだ、だから命まで絶ったんだ。

───人々がアンタを選んだからッ!!! 本当に悪政を敷いたのは父さんじゃなくて、爺ちゃんとかその上の世代だったのに!! 父さんはそれを打開しようと頑張っていたのに!!!」



攻撃のペースが早まる。

……風早には、もうギリギリの防戦すら怪しくなってきた。


手以外の場所も、奴の剣が掠ることで血が滲み始めている。

こちらの攻撃は掠りもしない。



「でも、もう風早に任せるって。それが今となっては真に民が望んでいることなのだから……って。それが、父さんが決めたことだから今まで従ってた。でも、もうダメだ。……やっぱりお前には任せてられない」


そして、奴は真剣な目でこちらを睨みつけてきた。

その姿は、かつての最後の燿朝皇帝、雅建津を彷彿とさせる、威圧のある佇まいであった。



「この国の主権は返してもらうぞ。

 ──私は、父さんの目指していた“世界”を作る。」



空を見上げてるようにして、建隆はそう言った。

その目はどこを眺めているのだろうか。


「それが嫌なら、私を倒してみろ。……20年前とは逆の立場になったな。ここで抗って死ぬか、それとも諦めるか、選べ」




「…………そんなの、決まってんだろ」


軽く血が滲んだ手で、剣を再び硬く握り締めながら。

風早はその一言だけで、自身の決意を示す。


──即ち、“決して諦めない”。




その一言で、建隆もニヤリと笑う。



「やっぱアンタはそっちを選ぶよな。“だからこそ”、面白い。

 ──さぁ、どうやって俺を倒す? …………風早ッ!!」



風早はそれに答えることなく、無言でその剣を捌いていく。

その無言は、一体どういう意味を持つのか。





──その答えに関わらず、


闘いは止まることなく続いていくのだった。











【ぷち用語紹介】

・永雅

その起源ははるか昔。

当時最高の繁栄を極めていた雅一族の皇帝が、一族の永遠の繁栄を目指して作らせた伝説の魔剣。

歴代の皇帝達が所有し続け、その剣に宿る魔力は最早計り知れない。その実力は凄まじく、まさしく永遠の繁栄を手に入れるには最高の逸品である。

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