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10話 『最終作戦① —中都侵入開始—』





「──陛下。先程、東方軍第16師団が中都を囲む包囲網を突破し、奇跡の帰還を果たしました。

これで戦死・逃亡または捕虜にならずに領内に撤退を完了した遠征軍は約56万人になり、攻勢前の前線兵力の約75%が中都に帰還したこととなります」


狭い会議室のドアを開けるや否や、報告書を片手に1人の男が報告を行う。


その視線の先にいるのは勿論、新大燿帝国の皇帝。

雅建隆が・けんりゅうである。


彼は、その報告に満足そうに笑った。



「──ふむ……上出来だな。それだけ残っていれば十分だ。

元々ここに駐留していた軍の兵力と合わせれば、中都圏まで撤退したとはいえ、この広い外周も隈なく防衛出来るだろう。

あのまま奴らの大攻勢に対して真っ向から防衛で足掻いていれば、致命的な目に合うに違いなかっただろうからな」



ここには、大きな川沿いに囲まれた壮大な城壁。

街の中心部を囲むように連なる山脈。

そして、それらを空爆の脅威から守る対空レーザー砲。

さらには、領域内の2500万人以上への供給を賄える豊富な資源と、川のお陰にもよる大陸中央部の乾燥地帯にしては肥沃な大地が存在する。


───そう。ここは、世界の大帝国、正朝の全力の攻勢を耐えるにはうってつけの場所なのだ。




(……だが、まさかこのタイミングで侵攻を再開するとはな。こちらの状況が“まだまだ整っていない”ことは想定できることとはいえ、全面的に立ち会えば被害は凄まじいことになる。

そして奴も国家のトップとして国と国民を護る使命を持つ者。この短期間にこうして巨大な勢力を築き、あれだけの被害が出れば、ウラディルを始めとした周辺国の仮想敵国との関係上、普通は手を出しづらくなる)


建隆は男と話しながら、そんなことを考えていた。

そう、ここまではほぼ完璧に彼の筋書きのとおりだったのだ。



(なのに、突如私の敷いたそのレールから離れたのは何故か。

つまり、“何かがあった”。奴に、考えを真逆に改める程の“なにか”が起きた……ということだろう)



無言のまま、建隆はふっ……と笑うように息を吐いた。

確かに、彼の第一の狙いは頓挫したのだろう。


──だが、まさか。


それだけで諦めるしかない……という程度の()()()()()()()



 


「………しかし陛下。本当に良かったのですか?

突然の正朝からの奇襲とはいえ、数ならばほぼ同等の戦力。もちろん東部戦線は、奴らのあの最新パワーアーマー部隊にじりじりも押されてることにはなったでしょうが、それらの配備が少ない他戦線はある程度防衛出来たでしょうに」


男は、報告書の兵員を指し示しながら答える。

確かに攻勢時の全前線における動員数は、敵が80万に対し、こちらは76万。動員数にはほぼ互角だ。



「そうかもな。……だが、()()()()()をした所で意味がない」


しかし、建隆はそう断言する。


「もし防衛に成功したとしても、それで残るモノは何だ?

──“荒れ果てた大地と、両軍の死体の山”だ。そんな結果は奴らも、そして私も決して望んではいない」


「だから、勝利を譲ったのですか?」


「いや、それは違うな。私が言いたいのは総力戦による泥沼化は避けるということだ。仲間を集めるためにも目標は東大陸の制覇などと言ったが、私は今はそんなことに興味はない」


そして、彼は指を頭にあてがってこう答えた。



「つまり、“奇策による短期決戦、もしくは有利な講和”。これを目指している」




そう答えると、彼は男から資料を受け取り一目眺めた。


そして「だからこそ、奴が全面戦争を恐れ膠着を受け入れるのがまず1番の狙いだったのだが」と呟くと、再び前を向いた。



「──そもそもの話だ、奴らが全力で来ているということは即ち、その勢いさえ挫けば打つ手も無くなるということ。だからこそ、その調子に乗った鼻をへし折る準備が必要になる。

──そして、その“準備”のための手筈も完了している。

自身の権威の為に民を傷つける全面戦闘などを再開させた、あの考えなしの自己中バカ野郎に現実を見せつけるための、な」



そう告げると一旦、彼は真剣な眼差しを一回和らげた。


「まぁしかし、やはりそれでも撤退は撤退だ。皆の士気が下がらないよう、これから我々の反撃の時は必ず来るのだと、今から演説でも行おうじゃあないか」




──そして。

それは彼の確信なのだろう。彼は手を奮って宣言する。



「……奴らは必ずここに侵攻してくるぞ。それは正面突破か、空挺か、スパイか、魔術の力か。……いや、あるいは()()()()()()()()()()“抜け道”か。兎に角、ここまで無我無心に中都に突っ走ってくるということは、確実に我々に“トドメを刺す狙いと算段”があるからに違いない」



その真剣な眼差しに、男も何も言えなくなってしまう。

健隆の本気の予測に、彼もまた何かを感じたのか。



「──さぁ。どんな手を使ってやって来るかは分からないが、お前にこの私が倒せるかな、風早」




そして、彼は高らかにこう締めくくった。





──3000年の雅一族繁栄による“成果”を見せてやるよ、と。










────────────────────────────








「──こんな大規模なトンネルがよくバレずに使えましたね」



高崎が思わず感嘆の声をあげる。


それは横幅20m、高さも10mはある巨大トンネルであった。

そこには、大正帝国による最終作戦を決行するための兵員がキッチリと並んで歩いていた。


勿論、そこにはこの作戦の“キーマン”である風早もいる。


「まぁ情報隠蔽はこの地域のお家柄だからな。それに、これだけ地下深い位置にあれば、地上からの超音波探査みたいな技術程度じゃ誤差の範囲内で終わりだよ」


彼が、得意げに解説をしてくれる。

……しかし、少し引っかかった点がある。



「………え、これそんな地下深くなんですか?

入ったときはほとんど降りてなかった気がするんですけど」


「あぁ、それはこの地形のせいだな。中都は大陸の中心地なだけあって、周りを囲むように川と山がある地域だ。だから入りは深くなくても、中都の下に着くときには地下500mとかになっちまうって訳だ」


──なるほど。それなら気づかれないのも当然だろう。




「……それにしても、アンタよく来たわね。別に義務もないし、そもそもアンタろくに魔術も使えないんでしょ?」


そうしていると、後ろを歩いていた女、杏に怪訝な顔をされながら問われた。彼女はどうやらアルディス語を話せるらしい。

まるで、何しにきたと言わんばかりである。


まぁというか、これは相当な実力者でも命をかけることになるであろう闘い。そう思うのも当然だろう。


──しかし、高崎だって生半可な思いで来た訳ではない。



「──何というか放っておけなかったんですよ。

……杏さんだから話しても大丈夫そうなんで言いますけど。俺、風早さんと“同じ世界”から来たんです」


「………あぁ、道理で風早が気にいった訳ねぇ」


その言葉に対して、彼女は一瞬驚いたようにも見えたがすぐに納得したように頷く。



「それで、最初はすごい能力とか貰ってて何でこの人は……、とか少し嫉妬心すら感じてたんすけど、前に……その、過去のことを聞いて……」


言葉を選びながらも、少しずつと口を開いていく。


「それで、気がついたんです。風早さんでも、やっぱりこっちに来てから、苦労と苦難の連続だったんだな、って」


彼は、自分の今までの2年間を思い出しながら言葉を紡ぐ。


──今まで苦労だらけだった。

言語は通じず、衣食住すらままならない毎日。軍という居場所を見つけてからも、言語の壁と多忙な後始末と危機の毎日。

特に最近なんかは、短期間で2度も死にかけた。


なんで俺だけが、こんな目に会うんだ。

そう思ったこともある。


──けど、違った。


風早という、同じ1人の日本人の人生の話を聞いて。



「──最初は正朝を建国したって聞いても、能力のおかげなのかなって思ってたんですよ。……でも、全然それだけじゃなかった。そんなの考えてみれば簡単なんですが、この時代力だけある人じゃ国なんてモノは纏められる筈がない訳で」


そして、彼の脳裏にはあの、雅銖衞さんから話を聞いた日の記憶が浮かんでいた。



「それで、風早さんの心の中の想いとか、心の底からの決意とかを聞いて、純粋に思ったんです。“俺も、この人の決意の手助けになれたらな”……なんて」


「───アンタ……」


「そ、それに! 自分で提案しておいて、後は任せっきりってのも何か後味悪そうですし。あと中都には今俺も友人がいるんでそいつらも助けに行かなくちゃなー、なんて」



あまりの歯の浮くようなセリフに、高崎自身が苦笑いをしながら付け加えてると、釣られたように杏が笑った。


「……なんていうか、“似てるわね”」



その言葉がどういう意味なのか。



それはなんとなく聞かない方が良いのだろうと、思った。









────────────────────────────








「──これが地上に出るエレベータか。

 デカイんだけど、……何というか、ボロいなぁ」


まるで某核戦争後のオープンワールドゲームを思い出させるようなサビ具合に、高崎が頰をかく。


「まぁ、この通路は元々高速鉄道を建設するために掘られた試作実験場だからな、16年以上はほったらかしになってた訳だ」


「なるほど、……上はどうなってるんですか?」


「確か、その受け手だった建設企業の部署だった筈だな。今はもう企業ごと撤退しちまったから、別の奴らが分割して使っているオフィスビルにでもなってたかな」


「──それ大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ、このエレベーターで出るのは職場のど真ん中なんかではないからな。大体秘密裏に行われてた実験なんだから、そんな堂々と地上に入口がある訳ないだろ?」



風早がそう言った直後、上からエレベーターが降りてきた。


──作戦の概要を踏まえるなら、そこには……。




「──よっ、久しぶりだなタカサキ」

「お互い無事で本当に良かったですね!」

「───で、作戦準備はもう出来てるの?父さん」


ルヴァン・テラ、そして風早の実の子である唐馬達だ。

彼らには中都における敵兵のおおまかな配置の把握と、トンネルの中都側入口制圧もとい確保の任務が、高崎のデバイス経由で風早から直々に与えられていた。



「唐馬、無事で良かった……ッ!!」

「……………父さん、ふつうに暑苦しいんだけど」


久しぶりの邂逅に少し目に涙すら浮かべつつ風早が思わず抱きしめると、ジト目で唐馬がそんなことを呟いた。


「……なんていうか、大人びてますね」

「いやただの思春期だろ。丁度アイツそんくらいの年齢だし」


テラとルヴァンは、それを微笑ましそうに眺めていた。

どうやら彼らもこの時間の流れの間に、唐馬と随分仲良くなっていたようだ。




──まぁ、そんなこんなで。


全ての兵員と兵器がエレベータを通じて上に運ばれた。


後はドアを開けて外に飛び出し、作戦を実行するだけである。



『……緊張してきたな』


『アンタそんなタイプだったっけ? 今までもっとヤバい修羅場潜ってきてたじゃん』


『……あはは、何だか作戦の前とは思えない雰囲気だねぇ』


なんか隣でそわそわしてる雅銖衞に杏が軽く突っ込む。

そして、それを笑いながら玲が眺めていた。



今まで、“そしてこれからも”、きっと。

続いていくであろう光景であった。




そして。



そのリーダーたる風早が、作戦開始の合図を。


遂に、かけるのだった。




「───さ、行きますか」









────────────────────────────








「──燿軍総撤退作戦は無事に完了、一時防衛に徹し反撃の時を待つ。……ねぇ」


新聞を広げながら、1人の燿町市民が声を漏らす。



「本当にこんなんで、勝てるのかねぇ」


「──でも本当に、今のところレーザー対空砲で空の敵を全く寄せつけてないし、私たちが今戦争を感じるのは街を徘徊してる軍人さんだけじゃない。それに、さっきの演説で反撃の計画は既に完成してる、って言われてたし!今勝利できるかはともかく、ここに踏み入られることはないんじゃないの?」


隣にいる女がそう答えた。



「そうならいいんだけどな……」


「それに、私達には雅様がいらっしゃるじゃない。あのお方なら、必ず卑劣な正朝の鎖国ゾンビ達を殲滅して下さるわよ!」


「……俺が言うのもなんだけどさ、お前随分どっぷり雅一族の崇拝に傾倒してるんだな……」


今この街に残っているのは、恐らくこういった反乱の長たる雅建隆支持派と、逃げ遅れたりした市民の2つに分けられる。

──そして、彼らはその前者だ。




「──ま、でも確かに、“あのチカラ”を持ってる陛下なら何とかしてくれるかも……」


──そこで、彼の言葉は一旦途切れた。


何故ならその言葉をかき消すほどの爆音で、緊急警報が町中に鳴り響いたからだ。



「な、何だ!!??」


突然の出来事に動揺していると、その警報と共にある声がアナウンスされた。



“緊急事態! 中都中央部の臨時政府棟近くに、突然正朝軍か出没しました!!

既に、大規模な銃撃戦及び戦闘が行われており、敵軍はパワーアーマー部隊や魔術部隊。……そしてその中にには、幹部である正朝七英雄の姿も見えるとのことです!!!

一般市民の皆さんは、可及的速やかに自宅、もしくは近くの建物や地下防護施設に身を隠して下さ───。



そこで、その警報は途切れた。


混乱による電波の混雑か、ただの焦り故のミスなのか、それとも……。──いや、それは考えたくもない。



「…………な、何がどうなってるんだ……」


既に街は大混乱だった。警報の内容を聞いた者には訳もわからず暴れたり、叫ぶ者や絶望の顔を見せ泣く者も少し見られた。

……近くにいる年長者の人は、ただ神に祈っていた。



──そして。


隣で震えている大切な人を抱きとめながら、彼もまた、呆然とするしかなかった。









────────────────────────────









「うおおおおおおおおおおおお!!!!! 死にたくなかったらどきやがれええええッッ!!!!」


30口径ライフル『A2532R』を構えながら、一般市民達のいる“ある会社”の建物を走り抜ける。


その異様な光景に、そこにいた職員達は抵抗することなく、手を挙げて降参の姿勢を続々とっていった。



「おい、ルヴァン!! お前民間人だけには誤射するんじゃねぇぞ!? ここにいる大部分の人達は武装もしてない平穏な一般人なんだからな!!!」


「わーってるよ、ンなことはッ!! そんなことより唐馬!! 民間人をお手柔らかに拘束しておいてくれ!! 申し訳ないが、流石にほったらかししておく訳にもいかねぇからよ!」


ルヴァンがそう後ろに叫んだ。

どうやら今日のルヴァンさんはノリノリなようである。


久しぶりにドンパチ武器を扱う機会が来て楽しんでるのか?



「やってますよさっきから! でも……あぁ、もうっ! ここは職員が多すぎじゃありませんか!!? もっとAIとか使って、人件費を削減しておいた方が良いのでは!?」


正朝軍の魔術部隊を引き連れながら、唐馬がそう吐き捨てた。

そうは言うが、このAIが人を超えてしまったこの御時世。

失業対策のために、会社は規模に応じて一定数の社員を必ず雇わなくてはならない、なんて国の規定があるのだから仕方があるまい。


──まぁ、国家元首の長男たるもの、そんなことは承知の上での文句なのだろうが。




「早くこの建物を制圧するぞ!追加の敵が来る前に締め切って、安全地帯(セーフゾーン)にしなきゃ、何よりも俺の心が休まんねぇよ!」


ルヴァンがそう言いながら、“最重要の部屋”に乗り込むためにも、次の階段を駆け上がろうとした瞬間。

──その踊り場に、銃口が見えた。


ルヴァンがそれに気がつき、思い切り横飛びすると、その直後に、そこに大量の鉛玉の嵐が吹き荒れた。



「やっぱ敵兵いるじゃねぇかッッ!!!

…………それに、ありゃどう見ても正規軍だな!!」


めんどくせぇと言わんばかりにルヴァンが叫ぶ中、高崎がデバイスの反射を使って遮蔽物から階段の様子を見る。


階段踊り場付近から覗く銃口、はっきりとは確認できないが、恐らくあれは『五十八式自動小銃』。確か大正帝国側の武器なため、大方中都駐留軍から鹵獲した武器だろう。



「でも見てみろ、目視できる限り敵はたったの3人。恐らくたまたま居座ってただけのしがない巡回兵だろ。 お前なら簡単に殲滅出来るよな?」


「簡単に言ってくれるなぁ、ほんとにお前は。

 ──まぁ確かに、そうなんだけど、……よっ!!!」


腰に下げていた手榴弾を階段の踊り場に投げつける。

それに慌てて飛び出した敵兵を彼は確実に撃ち抜いていく。



狭い室内での戦闘で、ルヴァンに敵う奴はそうはいるまい。




──こうして、“中都テレビ局”での戦闘は続くのであった。









────────────────────────────










そして、一方。


中都臨時政府棟前の、広場では戦闘が終結していた。



政府棟防衛隊3800人対、風早達七英雄の精鋭。


その戦闘は“5分”と持たなかった。


あらゆる強化魔術によって最高の状態を保たれた精鋭達の前では、最早一般敵兵の放つ弾丸、爆発物、魔術攻撃に至るまで、その全てが無駄と化していたのだ。


──そして。

正朝皇帝風早は、全ての敵兵が継戦不可能状態になったのを確認すると、挑発するように告げる。



「さぁ、出て来いよ。……建隆、大燿帝国皇帝だか何だか知らねえが、直接話し合いに来てやったぞ!!!

───どうせカメラかなんかで見てるんだろ?」



「…………いきなり押しかけてきて、何の用だ?」



すると政府棟から、正真正銘本物の。雅建隆が出てきた。


後ろでは、彼の部下であろう者が必死に止めているが、彼は聞く耳を持っていない。


腰には剣を差し、どうやらいつでも戦える状態なようだ。


──“いや、()()()そっちの方が話が早く済む。”




「久しぶりだな、建隆。ちょっと直接首脳会談しに来たぜ」


挑戦を叩きつけるように指を向け、風早が笑みを浮かべる。

その様子をみた雅建隆は、“昔のこと”を思い浮かべ、少しだけ、口元を緩めた。



「──そうか。……だが、まず1つ聞かせてくれ。

 お前、何処からここに入り込んで来やがった?」


「そんなことか? 単純な方法だよ。……地下だ。それも、お前ら程度の調査なんかじゃバレねぇヤツでな」


その言葉に、建隆は納得したように頷いた。


「……やはりそうか。道理で前触れもなく現れた訳だ。

──そしてもう一度聞くぞ、……“何しに来たんだ”? まさか、その人数でこの都市の制圧が出来るとでも思っているのか?」



彼はそう厳しい目で告げると共に、腰の剣に手をかけた。


──そんな臨戦態勢の彼に、風早は笑いながら語りかける。



「俺はな、殺し合いなんてモンはあんま好きじゃねぇんでな。特に、自分の周りの奴らが死んでくなんて耐えられねぇ。

だから、こんな争いもうさっさと終わらせようって、そうお前に直接言いに来たって訳だ」


「何が言いたい?」



「簡単な話さ。………ほらよっ!」


風早は、左手に付けていた手袋を投げつけた。

彼は、それを一瞬で切りつける。



「──その様子じゃ、今のは奇襲って訳でもなさそうだな」


「はっ、悪りぃな驚かせちまって。俺の生まれた世界ではな、確か手袋を投げつけるってのは、相手に決闘を申し込む合図って意味があるらしくてな?」


「…………ほう」


彼はその言葉を聞いて、不敵に笑った。

どうやら俺の意図は完全に読み取ってくれたらしい。


話が少なく済んでやりやすい。



「──だからよ、この戦争。……いや、“この土地の命運”は、俺らのサシ勝負で決めようじゃねぇか。

お前が勝ったら、俺は潔く死んでやる。全てをお前の自由にしろ。ただ……、俺が勝ったら俺の自由にさせてもらうぞ」




「──はっ面白い!! いきなり何をしにきたかと思えば。

 そうかそうか、お前は“そういう”奴だったよなッ!!」



建隆が“昔”を思い出すかのように高笑いする。


その笑いに、風早もまた不敵に笑みを浮かべた。



「いいだろう、その勝負乗ってやる。──だが、私が負ける筈もない。初めから分かりきった勝負に挑むのか?」


「23年前に何も出来なかった甘ったれがよく言うよ。格の違いってヤツを見せてやる。決着はすぐにつけてやるよ」




両者は軽口を叩きながらも、手をそれぞれの武器にあてがう。


その口元は僅かに緩んでおり、この世界の命運さえも左右する一勝負へと、彼らは楽しみを持って入っていったのだ。



しかし一方で、その手には汗が流れるのも見えた。



───そして。


その手がゆっとりと、しかし確実に動かされていく。





まもなく。



世界を騒がせた大反乱の決着が、付こうとしていた。











【ぷち用語紹介】

・A2532R

アルディス軍が採用している標準アサルトライフル。

威力精度連射反動、全てがバランスが取れた一品であり、初心者が扱うには一番良いという指摘も。

しかし普通すぎて正直目立たないのが難点。


・五十八式自動小銃

大正帝国が採用している標準アサルトライフル。

大帝国らしく威力重視の一品で、コンクリートの壁をも抜けちゃうとか。勿論精度に関しても悪いわけではなく、自動照準サポート機能を加える追加装置が付いている。


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