9話『“中都奪還作戦”会議』
そして、6月14日。
──あれから約3週間が経った。
現在、正朝軍はかつてない大攻勢を実行していた。
中都奪還・再統一を目標とした、通称『ライトニング作戦』。
28日に始まったその作戦によって、大正帝国軍は1週間に渡る激しい攻防の末に前線を攻略。
前線にいた敵軍の多くは降伏し、その大勢は大規模な退却を余儀なくさせられることとなっていた。
現在、正朝軍は中都に向けて破竹の勢いで進軍している。
ただし、敵軍の指揮系統はかなり乱れていると考えられるとはいえ、その後もそれなりに苦戦を強いられる筈であった。
なのに何故か。その後は激しい戦闘にはなることは殆どなく、日々順調に侵攻は続いていた。
どうやら、敵の主力は“既に前線での防衛を諦めており”、既に最終防衛戦付近にまですら撤退を開始しているというのだ。
……流石に、それには“何か”、引っかかるトコロはある。
──しかし、それでも成功の秘訣はいくつもあった。
まず1つに、正朝は従来の戦争の常識に加えて、今まで実践に投入されていなかった超最新式の兵器を使ったことがある。
一般的な威力の銃弾なら軽く弾けるほど硬い装甲に、通常時でも80km/h、カタログスペックだとなんと150km/hにも迫るという異次元の速度、そしてあらゆる地形に対応する汎用性を誇る、最新型パワードスーツ『PA─62』。
内部に積まれた小型チップや光学機器を利用し、各組でノータイムに連携を行うことも出来る。その性能は雑兵程度なら数機で蹴散らし、高速戦車とも戦えるほどである。
その結果、前線で大戦果を収めたのだ。
さらにはその速度を生かした暴力的とも言える進軍によって敵軍の指揮系統を最大限に混乱させ、自軍の犠牲を最小限にすることさえも可能にした訳である。
因みに、これらのパワードスーツ。一機で常人の生涯年収は軽く超えるような代物なのだが、現在数千機規模が戦場に投入されている。並の国家ならそれだけで国の財政が傾くレベルだろう。流石は世界三大国の一角である。
──まぁ、そんな感じで最早バカげた規模の兵力を全方位に投入したのだ。現状の成果も当然というべきなのだろうか?
しかし、それだけではない。
空にはこれまでの形式に基づいた戦闘機は当然として、なんと無人航空機が君臨していた。
勿論ウラディル共和国と同じく、それはまだ実践で大戦果を上げるほどには洗礼されていない。
……が、中に人が乗っていないことを利用し、本来危険な任務である前線奥の探査機としての役目を果たしているのだ。
それにより、上空から確認できる敵の配置・装備・配置された兵器の数などといった重要な情報を絶えず本部や総司令部へ送信することが可能であり、さらにはAI技術を駆使した暗号解析技術によって、傍受した敵軍の情報の確認も出来る。
このような最新技術を導入した戦略が、所々旧時代の兵器も散見される大燿帝国軍にはかなり有効打となっているのだ。
そして、各地での民衆の運動の展開も大きい。
この大攻勢を機に、燿朝勢力下に置かれていた地域に残っていた大正帝国側の支持者達が各地で運動を起こしたのだ。
銃や刃物で武装した彼らもまた燿朝軍の大きな悩みとなり、そして各重要拠点に人員をそれほど駐留させる必要なく進むことが出来た原因となった。
──そんな訳で。
大正帝国軍は中雅大陸における各地の重要拠点、および鉄道などの交通網を抑えていく『点と線の支配』を進めている。その領土の奪還速度は前代未聞と言うべきほどに迅速で、このままいけば2〜3週間後には“最終防衛戦”。
つまり広河を防壁とした、敵の本拠地たる中都周辺の地域にまでたどり着こうとしていた。
「……………すげぇな」
その様子を部隊の1人として見ていた高崎が思わず呟いた。
──当然、戦いというのは単純な兵器の質だけで決まらない。攻撃を展開するにあたっては、成功を収めるための練りに練られた侵攻計画の作戦がある訳だ。
“少し、出来過ぎてはいるが”、この成果は間違いなくその結果による賜物だろう。
高崎は、あの日の翌日のこと。
つまり、その作戦会議を思い出していたのだった。
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「──さて、これより『ライトニング作戦』の確認を含めた最終会議を行う」
宮廷の会議室で、風早の声が響いた。
そこには、彼の仲間でもある七英雄達は勿論のこと、それ以外の官僚や、軍の有力者なども合わせて100人以上が居た。
(………いや、こんなん俺なんかが居ていいのか?)
高崎は、周りの雰囲気に額に汗を流さざるを得なかった。
確かにこの作戦を行うように説得したのは高崎なのだが、あまりにも浮いている。ここに入ってきたときは、誰だオマエとばかりにすごい視線を向けられたし。
因みに、ここで話される言葉は全て中雅語なので、彼はデバイスを持って自動翻訳をお頼みするつもりである。
──ただし、そんな彼の心中など知らず会議は始まっていく。
「まず、作戦の概要を話す。この作戦は、我が国の中央部を不当に占拠している燿朝とやらを打ち倒し、我ら大正帝国によるこの地域の再統一を図るものである」
風早が腕を組みながら話し始めた。
やはり、単純明解な作戦目標である。
「──陛下。その狙い自体には賛成であるのですが、奴らをどうやって攻めるのでしょうか?勿論負けるつもりはありませんが、どうしても少なくない犠牲が出てしまうかと」
軍関係者の方面から、1人の男の声が上がった。
彼は陸軍中将、袁荘頤。
12年前の北方戦争では、コンクノーナまでの進軍を僅か4か月に収めた功労者であり、かなりの実力者である。今回の件においても、風早が会議や永都で戦っている間に地方で師団の指揮をとっていたという。
そんな功績者の意見に、風早は待ってましたとばかりに軽く笑みを浮かべた。
「当然。結論から言えば、それらへの対策は既にある。
この少年が考えてくれた叩き台の原案を基に、実際の軍事作戦として実用に値するモノになるまで練りに練ったモノだ。
俺が言うのもなんだが、かなり有効性は高い案だと思う」
「………ッッ!!!?」
突然のカミングアウトに、高崎が軽く吹きかけた。
(いや何言ってんだ!?うわめっちゃ見られてるッッ!!)
まさかの皇帝風早からの直々の紹介である。
無論、一斉に会議室中の視線が高崎に集まった。
「……少年? 誰なんだアイツ??」
「確か最近陛下と2人で会談をしたって聞いたわよ?」
「本当なのかソレ。だとしたらどういうことなんだよ?」
そんなこそこそ話が聞こえてくる。
根っからの小市民気質な高崎は、あまりの恥ずかしさに限界まで縮こまるしかなかったのであった☆
──そんなこんなで、作戦の詳細だ。
「まず最初に。我らの友邦たるブラーデン帝国へ終結後に完全な自治独立を認めることを条件に、北側から攻めてもらう。
それを我々は全面的に支援し、北側から一気に中都近くの広河まで攻め入るという算段だ」
風早が立ち上がり、後ろにあるボードを使いながら説明する。
普通そういうのは違う誰かがやるんじゃないのか……?
皇帝たる者が直々にやる姿はなかなかにシュールである。
──しかしなるほど。
国家間の対立とか深いことは考えずに、ただ可能性の話として防備の薄い北側から攻めるべきなのではないか……とは言ったが、完全な独立を条件にして完全に仲間につけようとは。
確かにそうすれば、彼らの全面的な協力を、つまりブラーデン側との共闘さえも実現するという訳だ。
「そして、同盟国を救うことを口実に我々が全方位から突撃する。アルディス連邦王国にも協力してもらう形でな。
条約を破棄することになるが、そもそも世界には一部を除いて国家として承認されていない存在だ。程度を超えたひどい“理由”がなければ非難などそう受けないだろう」
風早がボートに書き込みながら話を続ける。
「そうなれば、敵方は三方向からの大規模な同時攻撃を強いられることとなる。こうなれば、流石の防御も崩れ始め、指揮統制も行き届かなくなるだろうな」
その書き込みが終わったのか、彼は振り返るとそう言い切る。
「それによく考えてみろ。この内戦は勃発してから、たかだか“2週間程度”しか経ってないんだ。奴らは大陸中央部の大半を支配したとのたまってるが、そんなこと出来る筈がない。
つまり今は結局、大量の兵力と奇襲を使った前線特化型の勢力確保の状態に過ぎない訳だ」
「──ようするに、彼らは北側からの奇襲になんてまだ全然警戒を出来る状態じゃないし、勢力圏の中も大半はすかすかのハリボテ状態だから、前線さえなんとかすればあとは瓦解するだろう……ってことね」
杏が冷静な表情のまま、納得したように頷き呟く。
「あぁ。そこまで上手くいけば後は話は早い。
──次は、奴らと“同じ手を使ってやればいい”。……指揮系統の崩壊した隙を突いて一気に敵の本拠地まで乗り込む。アイツらにやられた戦略をまんまやり返せばいいって寸法だ」
そう、風早がニヤつきながら結論を下すのだった。
「──んで、じゃあ実際に前線の攻略する具体的な戦略的な考えはあるのか? いくらそれだけの規模の奇襲とはいえ、奴らが前線に十分な兵力を揃えてるのは事実なんだぜ?」
彼の隣でサポートをしていた銖衞が、釘をさすように言った。
風早がその言葉に、思わず苦笑しながら答える。
「あぁ悪い、そのことについて言及し忘れたな。……その懸念点を解消するにあたって、もう1つの作戦を実行する」
ホワイトボード右にある世界地図に、彼のペン先が向いた。
「まず、ここの境界線付近にいる兵士達の一部が一時的に、塹壕や家屋に完全に隠れ、敵が確認できないようにする。
そして、南雅方面でまだ行われている戦いにおいて、アルディス軍に我が正朝の軍服を纏い戦ってもらう」
各地点を彼は黒丸で囲っていく。
つまり、どういうことかは分かるよな?
───と、最後に風早が付け加えた。
なるほど、つまり。
「燿朝の奴らに、正朝は南雅方面に多くの兵力を割いていると思わせればいいってこと? そうなれば、奴らの境界線に対する警戒心は少なからず減るから」
七英雄の1人たる杏が答えた。
やっぱそうだよな、それしか考えられない。
それを証明するように、風早は指を鳴らした。
「ま、そういうことだ。現在戦場における西端のカドナ半島でもアルディス軍と衝突が起きてるし、東では同盟国のウラディル軍が苦戦を強いられている。
──この情報を聞けば、少なからず燿側もそっちへと兵力を割こう……と判断する可能性は十分にある。そしてそこを全力で叩けば、より破りやすく出来る」
風早がお得意のキメ顔をきめた。
「それで、もし想定以上の抵抗があった場合はどうすれば?」
袁が質問を投げかける。
まぁ至極真っ当な懸念による意見だろう。
「当然諦める訳にはいかない。守りの堅い所については爆撃機や大砲、魔術を用いた遠距離砲撃で徐々に削っていき、比較的薄い場所に戦力を割いていく。
──そして、恐らく1番突破が容易に出来るのは……」
風早が世界地図にバツマークを描いていく。
最後に残ったのは……。
「──やっぱり北方面なのか」
雅銖衞が声を漏らすように呟いた。
「──あぁ、やはり東西は既にそこそこの防衛陣地が築かれているだろうからな。ここは北から一気に攻めて、包囲するようにして敵を混乱させてから他方面で攻めるのがやはり1番手っ取り早いだろう」
そう言いながら、風早はペンで侵攻の様子を矢印でどんどん書き込んでいった。
「──情報部からの最新データでは、燿朝軍の使っている兵器には時代遅れなモノも見られる事が報告されていた。
……だから、“例の兵器”を導入することも俺は考えている。いきなり、と思うかもしれないが、だからこそ奴らには混乱を与えられるだろうしな」
彼は地図の横に、PAプロジェクト、と短く書いた。
──高崎にはその言葉が意味するモノは理解出来なかったが、周りの反応を見た感じ凄まじい兵器なのだろう。
「そしてやはり、今回は空挺部隊を使うことも必要だ。彼らを使えば、敵軍を挟み撃ちにすることも出来るからな。後ろからの攻撃ならば要塞も塹壕も意味を成さなくなるだろう」
そして彼は、地図に前線後方の地点に、いくつも点々を書き、そこから逆方向に前線へと伸びる矢印も書いた。
これもまた、反対の声はない。
「しかし陛下、その後の中都に立ちはだかる“広河の壁”はどうしましょうか?我々のような航空戦力なら越すことは出来ますが、陸となるとかなりの苦戦を強いられそうですが」
空軍指揮官が手を挙げ、そんな質問を投げかけた。
──広河、それは中都を囲むように流れる川だ。
その名の通り、狭いところでも数百mの広い横幅を持ち、生身で渡るには相当の実力者でなければ危険だろう。
「確かに突破には苦戦するでしょうね、川だけなら兎も角、その対岸にも城壁と敵の防御が待ち受けていますから」
陸軍中将の袁も同意する。
軍を率いてきた経験の豊富な彼らがそう言うのだから、それは紛れも無い事実なのだろう。
しかし、風早はそれに対しこう即答したのだ。
「それも勿論理解している。だから、“そこは突破しない”。
最優先で軍の主力をそこまで無理にでも進め川の前まで辿り着いたら、まずその周辺の安全を確保し、残りの部隊で占領した地域の残党兵を処理しつつ完全に包囲するんだ」
風早のその言葉に、会議室に軽いどよめきが起こる。
それもそうだ、この作戦は中都までの奪還が目的なのに、目の前にして諦めてどうするんだ。
「──お前たちの言いたいことは分かる。
確かに俺も出来ることなら、止まることなく行きたいさ」
風早が少し宥めるような声で話す。
そして、次にはまた真面目な顔に一瞬で戻った。
「だが、同時に俺は出来るなら最小限の犠牲でやっていきたいとも思っている。……そして俺は、この場合においては一時的な停止がそれを実現してくれると確信してるんだ」
「──具体的に言うと?」
杏がそう平坦な声で問いかける。
風早の言い分に納得がいっていないような声色だ。
「決まってる。燿朝に対する、プレッシャーの増加と士気の低下だ。囲まれて、外から物資も入ってこない状態なら、奴らの国力が削れるのは間違いない」
「……しかし陛下、恐れ入りますが、兵糧攻めなどは恐らく効果はないと思われます」
すると袁が、礼儀は正しくしながら、かつしっかりと彼を見つめてそう告げた。
「中都といっても、広河に囲まれた範囲はあまりに広大です。資源も豊富ですし、最早1つの独立国家のようなモノです。
……それに仮に食糧が足りなくなったとしても、その被害を受けるのは“一般民衆の側”に違いありません」
高崎はそれらの会話の内容をデバイスの翻訳で見ながら、密かに感嘆していた。
袁中将は恐らく風早より少し年下くらいの年齢だろう。
そんな彼は年上であるどころか、一国を率いる皇帝である者にちゃんと自身の意見を伝えているのだ。
彼もすごいのだろうが、恐らくそう言えるような国作りをしたのは、今告げられた側の男なのだろう。
すると、彼は決して不機嫌になることもなく語り出した。
「うむ、流石は袁だな。現在の状況を完璧に把握してて、かつちゃんとその考えを主張出来ている。
…………だが、それでも言わせてほしいんだ」
風早が一旦自身の席の前に戻って机に手をつきながら答えた。
「俺の生まれた国では、『急がば回れ』って言葉がある。
──危険のあるリスクを冒してまで近道をするくらいなら、安全な遠回りした方が結果として上手くいくって意味なんだが……、これは今回の件にも言えるんだと俺は思う」
彼は拳を握った。
「“人はただ放ったらかされる方が危機感を感じる。”
……つまり、奴らの物資不足とかが問題じゃないんだ。常に包囲されていて、“いつ来るか分からない”。この状態に置かれていることが、何よりの心の消耗をもたらすんだ」
そして彼は再びボードの前に歩いていく。
「それに、俺はその間に何もしないなんて言ってない。……そう。まず、包囲の間にウラディル共和国に攻めるんだ」
風早が、共和国にある☆印、すなわち首都にバツをつけた。
「燿朝から中央部さえ奪えれば、ウラディルの首都ヨークヘレナまでは僅かな距離だ。国境沿いは起伏のある山岳地帯ではあるが、やり方によってはすぐに陥落させることだって出来る」
「──成る程な。そこを落とすことで、先にウラディルを屈服させるのか。そうすれば、燿朝支配地域の連中もこう思う。
“俺たちもこのままじゃそうなるんじゃないか?”って」
今まで黙って聞いていた殷生が、頷きながら同意を示す。
彼もまた、自身の豊富な経験と知識を持つ英傑だ。
そんな彼の言葉に、風早は笑みを浮かべる。
「そうだ、そしてそうなっちまえばこっちのモノだ。
多少なりとも燿朝を見限る者が出るだろう、そうでなくても忠誠心や士気が落ちるのは火を見るより明らかだ」
風早は、それ以外にも次々と矢印を引いていった。
つまり、アルディス軍にはカドナ半島にあるウラディル共和国の海岸基地を制圧してもらうことで、彼らの海岸領土を奪って海路貿易の遮断を狙ってもらう。
さらには、東では彼らと協力してウラディルの支配地域を打通することで、正朝侵攻軍を包囲する。
そんなところか。
「……まぁ、そんな訳で俺は一旦広河まで強襲した後、包囲に徹するのが最善策だと考えてる。……勿論、可能なら“攻略”をすぐに行うことも視野には入れるが、まぁそこは実際にやって行ってみねば“分からない”からな」
その後地図に書いたその矢印の意味について改めて軽く話をした後、彼はそう結論づけた。
「だからとりあえずこんな大雑把な話ではなく、ここで細部までしっかりと練った作戦内容を形成していって、それでも反対だったら教えてくれ。お前がダメってなら、俺は従う。俺の中ではそれくらい信用に値する存在なんだ」
風早が、優しく微笑みながらそう言い告げた。
「……分かりました、陛下」
袁中将もまた、そんな彼の立場を超えた誠意ある言葉を深く噛み締めるようにして答えた。
周りの者も、無条件で風早側に付く訳ではなく。
彼の果敢な意見を讃えるような声や視線がそこにはあった。
「まあここまで色々と言ったが、実は“早期的に解決する方法”もいくつか考えついてる。かなり危険な“懸け”ではあるが、それも後々話していくから、是非その中での最善策を……。
いや、自分の最高の案を遠慮なくどんどん出して欲しい」
多少ざわめきながらも、全ての者が首を縦に振る。
それ見た風早は、一旦咳払いをして言った。
「──じゃあ会議、続けてくぞ!!
今度は具体的な攻撃時における連携方法についてだ。どの程度に兵力を振り分け、どのような兵器を駆使し、どうやって敵の前線を突くか、皆も考えてくれ!!」
そうして、中都奪還作戦が練られていった。
それらは忖度なく、意見の押し込めもなく、それぞれが最善を成せる為の案を次々と出していっていた。
大佐や司令官ではなく、かなり地位の低い者もハッキリと意見を出し、周りはそれをしっかりと聞いていたのだ。
──そして。
その会議の末に、“ある秘策”が行われることになったのだ。
「…………それまで、あともう少しってとこか」
高崎がそんなことを思い出しながら、しみじみと呟く。
大正帝国建国以来、最大の“懸け”がここに今。
始まろうとしていたのだった。
【ぷち用語紹介】
・PA─62
大正帝国が開発した、最新式のパワードスーツ。
幾層もに重ねられた混合金属によって作られたボディは、並みの銃弾なら弾き飛ばし、理論値では対物ライフルをも耐える。
その速度と、連携能力も従来と比べ桁違いであり、境界線を超える際には完全な行軍で、敵に考える時間を与えない。
・袁荘頤 (えん・そうい)
大正帝国、陸軍中将。
その指揮能力と決断力が評価され、年齢を考えるとかなり若くして中将を務めている。
12年前の北方戦争では重要な作戦の指揮を多く務め、圧倒的な正朝の実力を示すことに多大な貢献をした。




