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4話前編 『占領下の中都』





5月7日、少しずつ日が明ける。

雅一族による反乱が始まってから、2日が経とうとしていた。


正朝の正式な首都たる永都こそ一時的に防衛に成功したものの、旧燿朝の首都であり雅一族の拠点である中都は完全に堕とされてしまっている。


初めこそ抵抗運動が行われていたが、抵抗勢力への弾圧でそれも既にほぼ無くなっていた。正朝側の在留兵も多くが捕虜となり、民衆も引きこもり、街には音が消失しようとしている。



──そして。


そんな中、東地区ではある異変が起きていた。

燿側の兵士が2人、姿を消したのだ。

もちろん捜索が行われたが、発見されることはなかった。


当然この地区にも常留兵がいるし、抵抗に対する警告もある。

……それに、そもそもそのような様子すら何もなかったのだ。



しかしだからといって放っておく訳にもいかない。

これは事件なのだから。



──という訳で、兵士が見回りを行なっている訳だ。



その中の1人が、裏道を歩いていた。


燿朝軍服で肩に自動小銃を引っ掛け、腰には一丁のピストルを挿していた。そしてそれだけでなく、彼は多くの武器や道具を重そうにしている。



「………ったく、何で俺が」


そう彼が呟く。もちろんその言葉に答える者はいない。

1人きりなのだから。


上官に無理矢理指名され来てみたは良いもの、非常にめんどくさいという事に気がついたらしい。


「どうせなら装備は置いてくれば良かったな……」



まぁ適当に見回って帰りますかねー、なんて思っていると、ふと足元に何か落ちていることに気がついた。


「おっ、1000文札か!?何でこんなところに?」


まさかの足元に落ちていたお札に驚きながらも、彼は腰を屈めながらささっと手にとろうとする。

……意地汚い気もするが、当たり前と言えば当たり前だろう。


──だが、場所が悪かった。



彼がそのお札に手をつけたその瞬間、上から何者かが、突然彼をめがけて上から飛び交かってきたのだ。


「何だぁ……がッッ!!?」


時すでに遅し。それに気がついたときにはもうその謎の人物は、彼の頭に鋭い蹴りを入れていた。

思い切り頭を揺らされた彼は、為すすべもなくそのままぶっ倒れた。人は不意打ちには弱いのだ。




その様子を見た男は、一息つく。

彼は、少し赤みがかった茶髪に、180半ばはあろう身長、そして何よりも、ある国の軍服を着ていた。



「……よし、これで任務完了。テラ、出てきてオッケーだ」



──まぁ、つまりルヴァンであった。


彼はそう言いながら、その男を背負い歩き出した。



「いやぁ、面白いくらいにうまくいきましたねぇ」


そして道の脇からテラも出て来る。


しかし、そのテラの着ている服は今までのそれと異なっていた。緑色を中心とした色に、機動性が重視されたズボン、そして帽子には赤色のマークが施されている。


すなわち。


「……なんつーか、燿軍服が自然にフィットしてんなお前?」

「いやぁ、そんなことないでしょ兄さん」


それは、現在この街を支配下に置く国の物であり、ルヴァンの抱えられ伸びている男が着ているソレであった。


ルヴァンが、罠を仕掛けてまで男を倒したのもそれが目的だ。

この服がどうしても必要なのだ。



「てか意外と重いなコイツ。……はあー、なんで俺こんなことしてんだよマジで」


「めんどくささで少し性格変わってないですかね兄さん。……そんなこと言っても、この街を出ようにも出れないんだからしょうがないでしょ?」


そうテラが呆れたように答える。彼らはなんやかんやで現在燿軍によって指名手配を受けている身だ。外に迂闊に出ようと検問を通ろうとしようものなら、簡単に捕まるだろう。



「……まぁとにかく早く帰ろうぜテラ」


そうルヴァンが告げ、また歩き出す。

テラもそれに反応して、小走りでついて行くのであった。





──そして数分ほど歩き、彼らは建物に入っていった。


その中は薄暗く、生活感はない。

……というかそれは当然で、そこはつぶれたオフィスなのだ。


現在、この街には戒厳令が引かれ、外出は禁じられている。

すなわち、この周辺を歩く人も見回りの軍人ぐらいしかいないのだ。だからこそルヴァン達も今はある意味安心して、ここに居座れるのだった。



さて、まず彼らが何のためにこんなことをしているかを語らねばならないだろうか?


わざわざこんな場所で、軍人を相手にしてるのかを。



まぁ、簡単だ。


───この街を解放する、それが“彼らの目的”だ。





ルヴァンは中に入ると、早速その男の服を脱がし始めた。

あっという間にパンツ一丁にしてしまう。

そして、保管してあったボロい服を着せて手際よく運ぶ。

……その姿は、何とも言えない様子であった。



「あんたにゃ恨みはないが、こうしなきゃなんねぇんだ」


そう自身に言い聞かせるようにして、魔力封印札を貼り付けて、男をある部屋にぶち込んだ。


ここはテラが外からしか開けられないように改造しており、人1人がが脱出できそうな窓もない。

すなわち、いわゆる牢屋的な使い方ができるのだ。


そして、既にそこには2人が転がっていた。

ちゃんと手足は自由にしてある。彼らは()()()敵ではないし、捕虜の扱いには気をつけなければならない。



「………ほい、これだけあれば十分だろ?」


そして、ついでにとテラに渡された彼らのメシを置いて、ドアを閉めようとする。



──すると、元から中にいたうちの1人が声をかけてきた。



『……おい、結局お前らは何者なんだ? その顔と着てた服を見るに、アルディス人っぽさそうだが、何のためにこんなことをしているってんだ?』



まぁ、彼らからすれば得体の知れない異国人に閉じ込められているのだから、感じる不安は凄まじいのは間違いない。



決して差別主義者でも人権軽視野郎でもないルヴァンは、燿語で簡潔にこう答えるのだった。




『……別に俺らはそう大層なモンじゃねぇよ。不本意だがこの街を何とかして思って動いてる、ただの雑兵ってトコだな』









────────────────────────────

───────────────────

─────────────









「うぃーす、3着目手に入れましたー」


そう言いながら例の服を着たルヴァンが、ある個室の扉を開けると、中には1人の小さな男がいた。


──それは数日前、彼らがたまたま会った者であった。



風早唐馬。

大正帝国元首、風早相馬の息子であった。



「おつかれ、あと敬語なんていいっていってるじゃん」


「……いやアレだ。つい使っちまうんだよ。なんつーかほら、そういう雰囲気があるというかな……?」


ルヴァンが言葉を返すと、唐馬はあるモノを弄っていた。

それは機械だ。彼は、昨日あたりからそれを一生懸命いじっている。その画面にはこの国の言葉……中雅語の文字がびっしりと写っていた。



「……何やってんだ?」


そう聞くと、彼は困ったように答える。そんな彼が手に持ってるのは、確かここに来る前な壊したという通信機か。


「ちょっとこのオンボロ機械で、父さんと連絡が取れないかなーってやってみてるんだけど、なかなか難しいね。まぁ国家元首を守るためのシステムなんだから当然なんだけど」


「……父さん。あぁ、風早帝か」


ルヴァンがニュースの記憶を思い出す。

20歳ほどの若さにして周りの者たちを導き、あの大正帝国を建国。その後もかつての領土をどんどん奪還していった、この国では英雄といっても差し支えない男だ。


しかし、現在では雅一族によって革命を起こされ、その反乱分子も少しずつとはいえ増えていることもまた事実。

まぁ、近年の断行的な政策が原因だろう。



果たして何故こんな事になったのだろうか?

ルヴァンが考えている……と、ふとある事に気がついた。


思わず、唐馬に声をかける。



「お前の父さんに連絡するのは、問題解決に必要なのか?」

「そりゃね、じゃなきゃ今はしないよ」


現在もなお、通常の方法では連絡がつかないのだ。

それでいてわざわざ裏技を使って連絡をしようとしているのだから、何か大切なことがしたいのは当然の事だろう。


そうだよな、とルヴァンが納得して呟く。




────ん?



「そういや、お前高崎って奴と会ったって言ってたよな?」 

「……あぁ、あの人? たしかに、横断鉄道で会ったよ?」


突然のルヴァンの質問に唐馬は首を傾げる。


「そんでソイツは永都に連れてかれた、とか何とか」

「そーだよ、なんでか知らないけど父さん自身がどうしても彼と会いたいって言い出してね」



その言葉と共に、ルヴァンがばっと指をさす。


そして。


「それだッッ!!!」


と突然、ルヴァンが叫んだ。唐馬がびくっと震え、他の場所にいたテラもわざわざ来るほどであった。


「急にどうしたのさ兄さん、なんか名案でも思いついたの?」




テラが、めんどくさそうに目を細めながらそう問う。

すると、ルヴァンはすぐに答える。


「あぁそうだ。……なんだそんな事だったのかよ、もっと早く、その目的について話してくれりゃ良かったのに!!」


その言い草に、唐馬の方も目が白けるが、ルヴァンはそんな事知ったこっちゃない。


彼の言葉は続く。



「つまりだ。この皇太子さんのいう事が正しければ、今あのタカサキはその父さんの場所、もしくはその近くにいる可能性は高い筈だ。 ──ならタカサキに連絡がつけば、自然にその皇帝さんとも連絡がつく事にはならないか?」



あっ、と唐馬が小さく声をあげた。


別に風早に連絡したいからといって“直接”する必要はない。

間接的にできればそれでいいのだ。


……あまりにも簡単な話だが、盲点だった。



「そんで、俺はアイツと連絡する手段を持っている」


ルヴァンがデバイスを取り出す。

彼の生存報告はエレナから伝えられていたし、色々と忙しかったのでまだ連絡はしていなかったが、今こそする時がきた。


コイツならば、独自の電波で通信が可能なのだから。



「まぁ、本当にアイツが今でも“あの”皇帝様なんかと一緒にいるかなんて分からんがな? ……でも、もしこの推測が当たってたら唐馬、お前に後は任せるぞ」



そう宣言して、ルヴァンが高崎にデバイスで通話をかける。




──そして。



そのコール音が止まるまでには、そう時間はかからなかった。











【ぷち用語紹介】

・風早唐馬 (かざはやとうま)

大正帝国第1代当主、『風早相馬』の息子。15歳。

偉大なる皇帝の最初の息子であり、魔術も腕も十二分。頭もかなり良く、既に6カ国もの言葉をマスターしている。

しかし、それでも彼は父と比べて自身の魔術の才能に少しコンプレックスを抱いているらしい。

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