幕間① 『新帝国の幕開け』
かつて、この地にあった王朝は腐っていた。
地方の民は重税と兵役に苦しめられ、中心である中都周辺には、地方から逃げてきた者が広大なスラム街を形成していた。
それによって都市機能も衰退し、経済も衰退する一方だ。
首都から遠い地域では、最早自立傾向を極める地域が出始めており、その異常さを際立てていた。
……しかし、肝心の国は中々動かない。
見た目こそ世界帝国のその中身は、腐敗し、汚職と賄賂にまみれ、帝国の領土も徐々に減少をし続け、かつての栄光は見る影を失いつつあったのだ。
最早世界3大国の1つ、というメンツは崩壊している。
この状況を、ある者は『荘厳なハリボテ』と評したという。
──そんな国の辺境の地に飛ばされた俺は。
この状況を、素直に何とかしたいと思った。
当時はまだ16歳のクソガキだったが、そう感じた。
このまで直接大人も子供達も飢え、苦しんでいる姿を見てしまったし、俺自身も苦しい生活を送っていたからだ。
……幸い、俺には与えられた力と才能があった。
正直こんなもの、何のために使うんだ…と最初は思っていたが、ようやく使いこなすときが来たんだ、と。
が、しかし。
別にその“力”は全知全能ではない。それはこの世界の住人ではない俺にも魔術が扱えるようになる変化であり、かつ得たものはある程度の才能である。
だから、実行にはかなりな準備と訓練が必要だった。
まず本を読み漁り、たくさんの人に話を聞き、ネットを駆使してこの国について学んだ。
世界を変えるんだったら、まず世界を知らなくてはならない。
また、魔術の訓練の必要だった。
この世界の魔術は、才能も当然必要だが、努力もまた必要。魔力操作の扱い方1つで、大きく効率に影響を与えるからだ。
そして、その知識と魔術を利用しつつ人々を説得して、少しずつ少しずつ、一般民衆は勿論のこと、地方の権力者や実力者を味方につけた。みんなが望む、正しく新しい政府を作ろうと。
対立したりすることもあれの、最後はみんな付いてきてくれた。
例えば地方都市の1つである東安市の当時の市長で、既に中央政府を見限り離別を図っていた杏だってそうだ。
そして、彼らの権力をも利用しつつ、今度は一般民衆を味方につける活動を表で裏で行なっていった。
付いてくる者は数十・数百と次第に増えていき、気がつけば数千万・数億レベルにまでに至った。気がつけば一般市民はおろか、有力な軍人や大企業までもが支持してくれたのだ。
──みんな、誰もが何かを変えたいと思ってはいたんだろう。
その溜まりに溜まった気持ちが、これをきっかけに爆発した……ということに過ぎないのかもしれない。
そこまでいけば、トントン拍子で進んでいった。
人々は各地で現政府との軽い衝突まで起こすようになった。
それだけでなく、新政府を作ろうという運動まで始まった。
イケると確信した俺たちは、国の東側を拠点として、軍や魔術が得意な者を中心にして占領することを決定。
かつての間違いなく世界最強の一角だった帝国軍もまた、内部から完全に腐っており、それを止めることなど出来なかった。
そして話し合いにより、今後の方針を確立。
たがが19歳だった俺を新皇帝として擁立し、それを周りもサポートする形で、『大正帝国』を名乗ることで一致した。
正義を貫く、とかいう意味で『正』……という安直な名前だが、それこそがこの戦いの象徴なのだ、と。
そして燿軍大将、桑炎による抵抗も虚しく、最終的に燿朝の歴史は、燿皇帝による禅定で幕を閉じることになったのである。
600年に続く東大陸の大帝国は、滅びた。
そして、新しい国家『正』が誕生した。
俺は、この国を基本民主制のような形にしようと思ったが、この地に続く伝統と周りの意見、そして半ば俺達を英雄視・神格化していた民衆によって、引き続き帝政が続くことになった。
……正直悪い気はしなかった。
数年ほど前まで一般人だった俺がここまでになったのだから。
──“今となっては、これがダメだったんだが”。
そして新たに首都になる、永遠の都になるように名付けられた『永都』にて、これまで中雅の歴代皇帝たちが受け継いできた冠によって戴冠が行われた。
これからは自分が国を動かさなくてはならない。
そんな覚悟と共に、新しい人生が始まった。
──その時、俺は思ったんだ。
これからも、大変で、でもやりがいのある人生が続いていくのだろうと。
………しかし。
俺は、すぐさま気がつくことになったのだ。
この一連の戦いが、ほぼ損失を出すことなく。
簡単に済んでいたから、忘れていたことに。
──つまり。
“世界はそれほど甘くはない”。……と、いうことを。




