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2話 『永都攻防戦②』





大正帝国初代皇帝、風早相馬。


そして。彼の右腕にして軍統率者の雅銖衞を含めた、その他の正朝七英雄たち。



──結論から言えば、彼らの強さは噂通りのモノであった。


「「「ッッッ!!!?」」」

「「ごッ!!!?」」

「「「がっっっ!!?」」」



およそ1万近く。日々訓練に勤しみ、その中でも選りすぐりのエリート兵士達が、一振りで次々と吹き飛ばされていく。


勿論、彼らとて反撃はしようとしている。

手に持つ自動小銃や市街戦用の軽戦車、自身の鍛え上げた魔術を駆使し、彼らへと攻撃を続けていた。


──しかしそのどれも、英雄達は避け、防御してしまう。



その様子はまるで、無双ゲームの雑魚キャラ戦のようだった。




「………こりゃとんでもねーな」


高崎はせめてもの援護として、L59S『失神銃』を広場の端から撃とうとしていたのだが、もはやそれも全く要らなそうだ。


最早、次元が違う。

Lv99の勇者が最初の街でスライムと戦っているレベルだ。



ちなみに、吹き飛ばされ意識を刈り取られた兵士達は、女勢の拘束魔術によってどんどん拘束されている。

それも数十人単位を1度の行使でだ。

この数ですら、あくまで基本的に不殺を貫くらしい。


いくら魔術が、“才能による大きな個人差”を持つとは知っていても、最早これは脳が理解を拒むレベルの光景だった。




「オラッッッ!!!」


轟!!! と風早が剣を振るうと凄まじい爆音が響き、また残りの兵もやられていく。



『斬全剣』、それは全てを斬り裂く。

つまりは空気をも切り裂き、衝撃波のような攻撃まで発生させることが出来るのだ。


周りと取り囲む兵士は、その音速にも迫る衝撃波に手も足も出ていない。攻撃する機会など与えられず、あまりの絶望に放心している者も少なからず見えた。


正朝側の1000人の兵士達は、後ろで壁などに隠れながら攻撃体制を敷いてるものの、そのトリガーを引き、鉛玉をぶち込むことはない。

いや、そもそもそんな事する必要がないのか。



つまり、7対約1万。

それで「7人の方が優位に立っている」、ということになる。



高崎はそれを見ながら安心する反面、少し恐怖の感情さえも心の中には浮かんでいた。

だって比率でなら、1000倍以上の兵力差がある筈なんだぞ。



心のどこかでその異常な光景を受けいれることが出来ないまま、彼は見守っているのだった。









────────────────────────────









──しかし、相手方もただやられるために来た訳ではない。


そう簡単には終わらせてくれない、のだ。



あいも変わらず雑兵相手に剣を振るっていた風早に、1人の男が後ろから迫っていた。



「………ッッッ!!!」


ゴバガッッッッ!!!

風早が全力で横に跳び避けると、その元いた場所に半径2mはあろう大穴ができていた。まるで地震のように地面は揺れ、その周辺は地割れのようヒビが入っているのが確認出来る。



そして。


とてつもない砂煙が晴れたと思えば、

その中心に1人の男が、立っているのが分かった。


右手には2mは超える大きい剣。背中には、常人であれば持ち上げるのも不可能であろう巨大な盾。そして全身を鎧のようなモノで固めており、顔も一部しか見ることができない。


しかし、隙間から除くその皺も重なる瞳は一眼見た者を圧倒するように鋭く荘厳だ。




──その男は。


「お前は、元燿朝陸軍大将、桑炎(そうえん)か……?」


「久しぶりだな、クソガキ。元じゃあなく『現』大将だがな」



──桑炎。

その名をこの大帝国で知らない者は早々いないだろう。かつての燿朝の最期の陸軍大将にして、帝国の最期まで抵抗を続けた男。



何故有名なのか?


簡単な話だ。……むちゃくちゃに強いのだ。それは格別に。



大将ながら前線で大戦果を上げるのは最早当然のことで、1人で敵一個大隊の制圧や、巨大空母の撃沈さえも成し遂げてしまったという記録もある。


そしてかの風早も、彼を抑えきれなかったため燿皇帝に頼んで説得させた……という逸話が存在する程だ。


──まぁつまり。

かなり苦戦を強いられそうな敵である、ということだ。




しかし、いまの風早には奇策がある。


(…………だが、この斬全剣なら)



そう。彼の持つ斬全剣はその名の通り全てを斬り裂くのだ。

ならば、奴の剣と盾もまたその例外にはならないだろう。

あの剣に当てることさえできれば確実に無力化できる。


少しムードもへったくれもないような気もするが、これがこの魔剣の正しい使用法なのだから仕方ない。




「──さて、そろそろ始めようかッ!!」


その宣言ともに、桑炎は地面を蹴るように突撃してくる。

身体強化魔術で洗礼されたその速さは凄まじく、その2人の間の距離は一瞬で詰められていく。


その一瞬の間で、風早も動き出した。

彼もまた、強化魔術は存分に使っているのだ。


そして、その間がついに両者の剣が触れ合ようかという状態になった時、両者の剣が動き出す。


(…………ここだっ!!!)



ガキンッッ!!!!


()()()()()()()()()()()



「───くッッ!!?ど、どういうこと……だッ!!?」


予想外の出来事に風早が思わずそう漏らした。

しかし、一方の桑炎は当然とばかりにニヤリと笑う。


「おいおいどうした、まさかその剣の能力で俺を剣ごと切り裂くつもりだったのか?」


「…………ぐッッ!!?」


風早の剣を抑える、桑炎の表情は余裕のソレである。

彼は、その様子に言い知れぬ不気味さを感じた。



「簡単な話だ。魔剣同士が触れ合う時、“その効果は打ち消し合っちまう”。……知らなかったのか? ──まぁつまり、貴様のそのおもちゃも意味をなさないという訳だよッ!!!」


桑炎がそう言い放つ。

事実、その剣と剣は両者の力を反映するように大量の火花を散らしているが、決して削れることはない。


前提として、魔剣はこの世界に数えられる程しかない。

それ故に、魔剣と魔剣で正面から真っ向に戦うことなど、この世界でもほとんどない対面であろう。



そして、と桑炎が付け加えた。


「ただの力技勝負なら、私が負ける道理などない。

 貴様にはここで果ててもらうとしようか……ッ!!!」


「──ぐあッッッ!!!?」


その宣言の直後に、桑炎は剣を振り切った。

風早は当然の如く吹き飛ばされる。まさか、桑炎にとって今までの拮抗は手加減だったというのか。



「クソッ!!」

「流石に平和に、とはいかなそうですねっ……!!」

「22年前の再来じゃないのッ!!」

「……とんでもない力を感じます……っ」


その様子を一旦静観していた、正朝七英雄の面々も桑炎に向かって自身の技を繰り出す。


そして、桑炎を中心にして凄まじい爆発が起きた。



それぞれが常人離れした威力であり、並の……いや、手練れの者でもまず耐えらるなんてことはあり得ないだろう。




───しかし。




爆発の煙が晴れた先にいたのは、かすり傷1つもない桑炎の姿だった。余裕の表情のまま少しニヤつき、まるで「今何かしたか?」とでも言っているようである。


彼らはその結果を見て、その顔を青くする。


当然だ、あの一撃は奴を潰すために全力で放ったのだから。



──しかし。


そんな彼らの驚きに対して、桑炎は余裕の表情をカケラも崩すことなく、こう言い放った。



「なんだ? 揃いも揃って驚きの声なんか上げやがって。まさか、もう終わりなのか? ──ならば、次は私のターンだぞ?」



そう彼は高らかに宣言すると、……剣を一振りした。


そう、本当に“剣を一振りしただけ”である。


なのに、その瞬間にとてつもない衝撃波……いや強風か?

とにかくその剣の振りで、莫大な風圧が生み出された。


それは途中でざっと形を変え、まるで巨大な竜巻のように変化しながら彼らの方へと向かっていく。



「「「「…………ッッ!!!?」」」」


彼らも必死で回避をしようとするが、その竜巻の速度と規模には敵わなかった。もはや悲鳴を上げることすら許されない暴力的な風圧によって巻き上げられ吹き飛ばされてしまう。


あまりの威力に、もはや広場を飛び越え遠くの建物にそのまま直撃している者もいた。

彼らも手練れなのだからきっと生きている……と信じたい。




「…………クソッッッ!!!」


大勢を建て直した風早が、また彼に剣を向ける。

──しかし、力勝負では敵わないことは分かっている。


だから。


(……なら、絡め手で勝負するしかねぇ)


そう。いくら力が強くとも、いくら魔剣が効果を打ち消すとしても、直接奴に剣をぶつければその意味はない。

下手をすればガチで体を切断してしまうことになってしまうが、背に腹は変えられないだろう。



「うおおおおおおおおおッッ!!!」


その咆哮と共に風早は突撃する。

ただの脳なし攻撃だと思わせるための作戦だ。


そして、奴まで3mほどまで距離が詰まる。

ここで彼の作戦が始まった。


「ッッ!!!」


その瞬間、風早の姿が()()()

……しかし、魔術などではない。


要するに、思い切りジャンプをしたのだ。

それがあまりにも速く、見えなかっただけの話である。



そして、彼は既に桑炎の背後にいた。


「もらったッッ!!!!」


その一瞬の隙を逃さず、彼は斬りかかる。

普通なら、これでチェックメイトである。



()()


「………おっと危ないな」


そうして桑炎は、その一撃をあっさり避けてしまう。

──ありえない。この技はあそこまでうまくいけば、普通に考えてもう避けられるはずがないのだ。



しかし、そこまではまだ予想の範疇だ。


次に、風早は左手を突き出す。

その手には既に光が込められていた。


それは勿論、魔術だ。



粒子砲弾(ドシヴェ・ムナディ)!!!』


その掛け声と共に、その左手からビームのようなモノが射出された。そのスピードは異次元レベルで速く、一瞬で空まで突き抜けていく。


その正体は、いわゆる「荷電粒子砲」。

簡単に言えば、電子などといった物質を限界まで加速させ、光速に迫る勢いで飛ばすことができる。当然その威力も凄まじく、巨大な艦だって焼き斬り真っ二つになる威力とも言われている。


当然、その加速に使うエネルギーはとてつもない量だ。こんな魔術を行使できるのは彼の異次元さ故といえよう。




──しかし。



「……………ッ」


その光速に匹敵するビームさえも、奴は軽く回避したのだ。

流石に少しばかり焦りが見えたようにも見えたが、これは一発で確実に決めるためのモノなのだから、それでは意味もない。

そう簡単に何発も撃てるレベルじゃないのだから。




「──何だってんだ……お前は」


確かに、前から彼は強かった。


──ただこれは異常過ぎるのだ。

数万の兵を翻弄する風早たちを圧倒する。この言葉を意味を考えれば、その常識を超えた現実が理解できる。


そう苦し紛れに風早が問いを投げかけると、

彼は、そのまま余裕そうな態度で話し出した。



「この力の理由は何だ、ってか?

 ───そうだな、せっかくだし教えてやろうか」


明らかに上から目線で、桑炎は言う。その顔に苛つきが止まらないが、実際今彼にやられっぱなしなのだから何も言えない。



「この魔剣、そう。『集祈』は、祈りの力を持ち主の魔力に変える。と言う機能がある」


そしてだ。彼はと付け加える。


「それはこの件の持ち主に対しての他人の忠誠心や服属心、または信じる心とかも当てはまるってわけだな。

………つまり、既にかなりの力を得ているということは既に、かなりの者が燿側につき始めているということかね?」



そう。彼の言う通り、その剣は人の思いの力を変換するという性質を秘めている。簡単に言えば、多くの人に慕われてれば慕われているほど、その剣を持ったときに力が湧いてくる。といったところか。



「──まぁ貴様は独裁者。その上勝てる戦争を急にやめ、ふざけた鎖国政策をとり続けるといった馬鹿なマネをする大馬鹿野郎だから、それも仕方ないだろうがな」



──実は、それらの動きにも()()()()()()()()があったりするのだが、それで国民に不満を試させてしまったという事実は変わらない。


………だから、彼は何も言えなかった。




そんな姿を、桑炎は肯定と受け取ったのだろう。

彼はさらに余裕の態度を強めていく。



そして、だ。


「流石桑炎様だ……」

「俺たちも出来る限りのことをしないと……!」


その様子を見ていた残りの燿軍の一般兵も正気を取り戻しつつあった。先ほど七英雄によって圧倒的な力量の差を見せつけられ、戦意をほぼ失っていた姿はもうなくなっていた。



ちなみに、彼らが命令されていたのは当然永都の制圧。

既に計画の説明は終わっている。

つまり、もうそれは実行に移せるという訳だ。


すなわち。

彼らはこの場を桑炎に任せ、永都制圧に出向こうとしていた。



「──はっ、させるかよ……っ!」


さっき吹き飛ばされた風早がその雑兵どもの前に立ち塞がる。

その両者の差は歴然。雑兵たちの足も当然止まる。


しかし。


「おいおい。そのセリフは俺のモンだろーがよッ!!」


その上をいく桑炎が、また斬りかかってくる。

今度は彼は無理に立ち向かわずに横っ飛びで回避をした。

……後ろにいた兵士たちはどうなったのかはいうまでもない。



「……ほー? ギリギリのとこでこの攻撃を回避するか。流石は皇帝陛下といったところか?」


そんな風に言いながらも、桑炎は次々と斬りかかってくる。

風早はそれを回避することが精一杯だ。


その声色は余裕そのものであるのだが。


「あああああッッッ!!!?」

「ッッッ!!!!?」

「ごッ!!!?」


こうしている間にも、燿側の兵や正側の兵が吹き飛ばされている。

あまりのレベルの違いに彼らはやられるしかないのか。



風早はそんな様子を見て、激昂する。


「てめぇ、さっきから自分の仲間吹き飛ばしてんの分かってんのか!? 自らの軍に死人でも出してぇのかよ!!」



しかし、その言葉に奴は全くときて動じることはない。


「何だ? 急にそんなことを。コイツらは所詮武器がないと闘うことすらできない数だけの存在だろうが。多少消えたところで何の影響もないだろう、全く構わん」



そうだ、コイツはそういう奴だった。

死者数というものを、ただの統計上の数字としてしか見れない。自身の目的を達するためなら、周りの被害など何も気に留めないような。


ゴミが……、と小さく風早が呟く。



彼は無駄な犠牲。いや、出来ることなら敵の死までをも減らしたがり、()()()()()()()()()()()()


……昔はそこまでもなかったらしいのだが、彼は、“ある時”からそうなった。





──だから、彼はこう言うのだ。


「銖衞!! お前に燿軍一般兵の相手……もとい救助をするように指示を頼んだっ!!」


先程吹き飛ばされた者のうち、雅銖衞は額に血が流れているものの、あまり被害を受けておらず、既に戦線復帰をしていた。

そしてその言葉を聞いた彼は、武器を手に握りながら風早の横に並ぶ。



「そりゃいいが……この状況でわざわざ敵に手を貸すってのか? ……それでアイツはどうするつもりなんだよ?」


「………単純なことさ」



そして剣を握りしめて、風早は言い放った。




「──あいつとは俺がケリをつける。

 あの上から目線のクソ野郎を今から突き落としてやるぜ」











【ぷち用語紹介】

・桑炎

かつての大帝国、燿の国の最期の陸軍大将。

その才は常人離れしており、燿皇帝からも恐れられたという。

自身もその力だけに信頼を置き、他の者を頼りにすることはほぼない。30歳手前にして陸軍大将に就任するなどといったところからもその規格外さが知れる。

しかし、正朝の成立共に歴史の表舞台からは姿を消していたが……?


・集祈

中雅に伝わる魔剣の1つ。

現在は燿朝軍大将、桑炎が所有している。

人々からの忠誠心や服属心、期待心などといった祈りを莫大な魔力に変える、というかなりの強さを持つ。この魔剣と天才軍師が合わさったとき、それに敵う者はいるのだろうか……?


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