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1話 『永都攻防戦①』





「………すげぇ量だな」


高崎が建物の窓から外の騒ぎを見て、思わず呟いた。

外に見えたのは広場に集合する数多の兵。


軽く見積もっても1万以上はいるだろうか? 綺麗に整列し、1人も目立つことなく動かないその隊列は、その集団の異様さを際立てていた。


ちなみにここは、永都南方面郊外の大広場。

既に完全に、奴らの占領下に置かれている場所である。


平時などでは、軍事パレードなども行われる場所であった。



すると、前に立っていた男から何かしらの指示が出され、隊列がそれに対応して動き始める。おそらく、今は侵攻作戦の準備中なのだろう。しかし雰囲気から、それも時期に終わることが高崎には分かった。腐っても一応彼は軍人である。


そして、恐らくこれは永都遠征部隊の全てではない。

情報によれば、永都遠征部隊は数万の規模だという。

つまり、他の場所にもこういった師団があるに違いない。



「──まずいな。とんでもなくまずいぞ……」


そんな風に彼がぼやくのも無理はない。

何せ既に、永都には先行部隊が侵入中である。


今のところは耐えてはいるが、その量が追加されれば、敵の手にこの都が堕ちてもおかしくはない。


そして当然、先行部隊によって永都防衛部隊の配置なども割れているだろう。


つまり。このままではこの街も燿朝の支配下に堕ちてしまう。

──()()がない限り、それは間違いない。


そうなったら大変だ。

この首都が占領されれば、正朝の敗戦はかなり濃厚なモノになるだろう。




(……何か、何か方法はないのか……)


高崎の頰に汗が流れる。

時間はもうない。そして高崎1人でやれることなど、せいぜい単身で突っ込んで犬死にくらいだ。


数万の兵をどうにかする。

それは、ただの雑兵1人に到底成せることではない。



(……何か、この窮地を救う奇策はないのかっ!!?)




その時だった。

彼の頭に、1つの疑問が浮かんだ。





「そうだ、風早さんは、何をしているんだ……?」


──そう。

彼と同じ日本人にして、正朝皇帝である男。

あの《風早相馬》はいったい、何をしているのだ?



現在永都は反乱軍によって攻撃を受けている。

奴らの目的は首都の陥落……も当然あるにはあるだろうが、おそらく一番の目的は彼の抹殺だ。


戦争において敵将の首を獲ることは、相手の士気を下げるのはもちろん、自軍の士気の高揚にも大きく関わる。


つまり、それが目的で奴らはここに来たはずだ。



しかし逆を言えば、失敗すれば敵の士気は大幅に下がる。


──そして風早は、“強い”。


高崎が知っているのは、彼の今まで築きあげてきた数々の伝説と、指導をしてもらったときのお手本の魔術の行使くらいだ。


しかし、それでも分かった。

“彼はとんでもなく強い”。もらったモノとはいえ、人々を圧倒する凄まじいチカラを行使し、そして頭も切れる。


彼の戦いぶりを見たことはないので言い過ぎかもしれないが、()()()()()()『一騎当千』を名乗れるレベルでもおかしくはなかった。



そんな彼が、防衛軍を導いていけば、兵士の士気も、そして戦力自体もまるで違うものになるだろう。




しかし、現実はそうではない。


かつて、『千年に一度の軍事の逸材』とも評された天才は、未だにこの戦場に顔を見せていない。


しばしば銃声が鳴り響く市街戦に、彼の姿はない。

彼の住む宮廷も、その防護機能に任せるばかりであった。


この世界最大規模の大反乱に、彼は抵抗する姿勢を全く見せていないのだ。…………これは、おかしい。



普通なら正朝の危機に対して、兵士達と共にこの滅びの危機に陥った大帝国の運命を変えるために、命を賭けた戦いに向かっていく場面なのではないか。


──そもそもの話だ。

高崎の知らないことではあるが、七英雄たる自身の幹部と、そして彼を慕う兵士を従え、自国の発展・繁栄のために戦いに飛び込む。それが正朝ができた頃の彼の姿であった。

だからこそ、彼についてくる者は多かったのだ。



おそらく。きっと何か策があるのだろう。

そう考えることにしたが、どうしても納得がいかなかった。


そうして頭を悩ませていると、彼はふと思い出す。


「…………そういえば、俺連絡先持ってたな」



そうであった。あの宮廷であった際に、何かあったときにと連絡先を渡されたのだった。


高崎は、迷惑かな?と思いつつも、その手はデバイスに向かっていた。それはこの大反乱をどうするつもりなのか聞き、そして今のヤバイ状況を伝えるためにだ。




そして、高崎は番号を写しながら、1つのことを考えていた。


“なぜ自分は、永都のために奔走しようとしているのか?”


自国であるアルディスが正朝側に付いたから、……と言ってしまえば終わりな気もするが、それだけでは理由にならない。


多くの人が傷つくのを見たから、というのも強く心に感じてはいるし、到底許せるべきモノではなかった。

しかし、それは自身の命が果てる危険を犯してでも、やり通そうと思える理由にはならないのではないか。


世界には、自己犠牲で多くの者を救った英雄(ヒーロー)もいるのだろうが、彼はそんな者達のようにはなれるとは思わなかった。




(…………命を賭けて……か)



──死ぬのは、怖い。


そんなの当然だ。

狂った戦闘狂でもない限り、それは全人類共通の恐怖だろう。


今。なんとかしてこの街を脱出すれば、おそらくなんとか生き延びられる可能性は十分にある。

他の戦略的価値のない辺境の街にまで、わざわざ軍を持ってきて一人一人を相手にするほど奴らはヒマじゃないだろう。



さて。


……………“どうする”?



そんな、悪魔のささやきとも言える誘惑が彼の頭をよぎった。

電話番号の入力も終わり、後はボタンを押すだけだ。



押せば、きっと終わり。

もう一般人としての戦争への対応はできなくなる。


命の危険性も高いかもしれない。所詮高崎はただのアルディスの一兵、それも魔術の扱いは下手クソな、だ。


──さぁ、どうすればいい……?




その手が止まり、震えていた。

押すのか、押さないのか。



そして、彼は暫しの逡巡の末、1つの決断を下す。







──その時であった。



爆発でもしたかのように、ガラスの向こうで“何か”が起きた。


「なッッッ!!?」


驚きの声と共に、高崎は咄嗟にガラスを離れ壁に張り付く。

するとその瞬間、彼の目の前にあったガラス一面が突然爆発でもしたかのように無惨に割れた。


しかし、それだけでない。

なんと壁付近がすぐさま倒壊を始めたのだ。高崎はそれを理解した頃には、既に下に向かって落下を始めてようとしていた。


「ッッッ!!!!?」


当たり一体に、ソニックブームでも起きたかのような凄まじい爆裂音が鳴り響いていたことにも、その時にようやく気がつく。


彼は声にならない悲鳴を上げながら、少しでも瓦礫に巻き込まれないように、全力で前方へ跳んだ。

そして、その直後にはさっと落下体勢を敷く。

その高さは、およそ3階分にあたる。

決して高くはないが、打ち所が悪ければ普通に死ねる高さだ。



どすっ!!

彼は足からではなく、“腰や手を使いながら”捻るように着地する。いわゆる、5点着地というやつだ。

……さらに幸運なことに、倒壊による瓦礫は高崎には直撃するようなことはなかった。



「………意外と忘れてないもんだな、これ」


体の砂埃を払い、着地の時に手や体に出来た擦り傷を抑えながら、高崎はそう振り返る。


アルディス軍では、5点着地が訓練科目にあったのだ。当時はできるまで地獄のようにやらされていたのだが、結構普通に決めてしまった自身に驚く。


初めて、軍の訓練に心から感謝する高崎なのだった。




いや、そんなことより、周りの状況だ。


「ちくしょう。な、何が起きたってんだ……ッ!?」


なんとか安全(?)に着地した高崎は、周りを見渡す。


一面は先ほどの突風で荒れるに荒れ、建物のガラスはほぼ全てが割られ、場所によっては街路樹が根元から引っこ抜かれているモノさえある。


そして、完璧な隊列を組んでいた広場の軍人どもは、その一発のとんでもない脅威を前にして、並びはぐちゃぐちゃ。

立ち上がっている者もそう多くはなかった。



「……………大丈夫か?アレ」



敵ではあるが、死んでいないことを一応祈る高崎であった。




──そして、その先。


とてつもない突風が発生した方に1人。

男が立ちつくしていたことに彼は気づいた。彼はその栄光さを示す煌びやかな服を見に纏いながら1本の剣を持っている。


それは、よく知っている者ならば、この土地に古くから伝わる伝説の“魔剣”、『斬全刀』であると気づくだろう。


全てを斬り裂く、そんな夢のような刀を、天才がその叡智で()()()()実現させた。

それがこの剣である。


そして、この現代。それを持つものは──。



さらに高崎は、彼の周りに幾人ほどの付き人を視認した。

彼らもまた、正朝の者ならば当然知っている者達であった。

この栄光なる大帝国を築き上げた貢献者。

彼らを一言で表すならばこの言葉が相応しいくらいには。




つまり。


そこに現れた者達とは────。






「なんだよ、俺なんかが心配する必要もなかったか」



大正帝国第1代皇帝、『風早相馬』。


そして、彼に付き従う『正朝七英雄』であった。




そして、彼はそこに集っていた雑兵約1万に対して、ニヤリと笑いながらこう言い放つのだった。



『……さて、革命ごっこはもう終わりだ。

 ここからは、我々大正帝国軍の反撃の時間だぞ?』



その宣言と共に、彼と七英雄の面々。加えて後ろに控えていた1000人ほどの一般兵が、一斉に突撃を開始する。




──悲劇のままでは終わらせない。


その誓いを胸に、東大陸最強の反撃が始まったのだった。







 



────────────────────────────









そしてその頃、正朝とウラディル国境線。


その両国の境に、これもまた数万ほどの軍人が控えていた。



『さて、これより中都侵攻作戦を開始する!!』


その言葉とともに、大きなラッパの音が鳴り響いた。

作戦開始の合図であった。



その合図と共に、国境線に待機していた数多の兵員輸送車両、戦車、雑兵達が、目の前の超えてはならない線を超えていく。

同じくその上空でも。じきに無人戦闘機や、UAVといった兵器がここを超えることになるだろう。



ウラディル共和国はついに、正朝内へと侵攻を開始した。



当然、国家最大級レベルの機密事項である。




──しかし、それを近くでよく()()()()()()()がいることに、彼らはまだ気がついていなかった。











【ぷち用語紹介】

・魔剣

この世界にいくつも伝わる伝説の剣。

現在魔術は物にも宿ることが確認されており、これらは、かつての持ち主が有していたとてつもない魔力を受け取って作られたという説も。その性能は、どれも普通の剣とは一線を画したレベルであり、一部の学者の研究のタネとなっていることは言うまでもない。その魔力は当然、剣以外にも宿ることも多い。


・斬全刀

中雅地方に伝わる、伝説の魔剣。

魔術と鍛冶、両方で世界トップクラスの才能を合わせ持っていたとされる、ある皇帝が作ったと言われている。その名の通り、全てを斬り裂く。例外は一部を除きない。唯一ある弱点は、その性能ゆえに人を選ぶことだろうか?


・中雅地方

現在の正朝のある場所を指す地域名。

古くからこう呼ばれている……とは言われているが、1500年以上前の文献に書かれた形跡は未だ見つかっていないといった点から、その真実は闇の中である。少なくとも、元々は現在の中都付近を指していた言葉であることは明らかになっている。


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