序章 『ある男の演説』
「戦争には正義は存在しない」という言葉がある。
これは、人の醜さが最も現れると言っても良い「戦争」をうまく例えているのが……、少し語弊があると言わせて頂きたい。
まず、戦争にだって正義はある場合もある。あくまで場合もあるってだけだがな。
──まぁ落ち着いてほしい。君たちの言いたいことは分かる。
私だって戦争をしたい訳じゃあない。
ここで重要なのは、正義が存在するのはあくまでその国家の目標・目的にだけだ。……つまり、戦争という行為そのものに正義は存在しない。
70年前の戦火。それは多くの者が知り、その時代を生きた人の語りを聞いたこともあるだろう。私もまた、祖父からその凄惨さを聞いたことがある。
──戦争というのはひどいモノだ。
軍人はゴミのように使い捨てられ、民間人も多くが巻き込まれる。それに加えて、国土は荒れ、国力は衰退し、経済も一部を除き悪化していく。
そんなモノを正義だと、言い張ることなんて出来る筈がない。
出来る奴がいてはならない。
それはもう間違いないと確信している。
だが、戦いたくない! ……と言えば逃れられる訳じゃない。
この世界は、未だに弱肉強食だ。
強い国が繁栄し、その周辺国は攻められ、滅び、あるいは属国としてひれ伏す。
そんなことがあり得ない時代には、未だなっていない。
攻める国があれば、攻められる国もまた存在する。
その国の兵士達は、国家を守るため、そして自身の愛する者を守るために戦う。
……そういう意味での「正義」だ。
──かつて、その「正義」を歪曲した連中が、敵国の国民への大虐殺を正当化したりなんかしていたが、それは違う。
「戦争とは外交における最終手段である」なんて言葉が示す通り、あくまで戦争は“国家政府が起こしたモノ”に過ぎない。
だから、戦争という過ちを行った国家だとしても、そこの民が戦争を始めた訳ではないんだ。
まぁ、つまり何が言いたいかと言うと。
我が国も、“そういった危険性”にあるのだ。
その相手は、ここで言うつもりはないがな。
無論、反戦するのは構わない。むしろ望ましい。
……が、ただそれだけを喚いたって仕方がない。
具体的にどう、戦争をせずに周辺国と上手くやっていくか。
これが出来て初めて実際の平和がもたらせる。
要するに、だ。
2000年に及ぶ我々の国も、今までの数多の者達の努力のおかげで、現在もなお存続することが出来ているんだ。
──勿論その努力とは、
国家を運営する王族や政治家の奔走。
あるいは戦場での軍人の活躍……という意味だけではない。
農業従事者がいるから、人々は食べていくことができる。
芸術家やクリエイターがいるから、人類は様々な娯楽を享受し日々を楽しむことが出来る。
労働者がいるから、大きな企業だって成り立つことができる。
このように、この地に生ける全ての民によって、この国の安寧は保たれてきた。
──そして。
そしてこの私も、その“新たな1人”として、生涯を掛け全力を尽くすことをここに誓おう。
そして、勘違いして貰わないでほしい。
私の目的は、別に『国』を守ることではない。
国を守ることで、そこに生きる『人々』を守ること。
これこそが、私の真の願いなのである。
何度も言うが、戦争は残酷だ。
庶民にとって良いことなんてほとんどない。
得をするのは一部の者と、勝利側の政府の人間だ。
もう一度分かりやすく言おう。
私は、その凄惨たる戦火を二度ともたらさぬように全力を尽くしたい。それこそが、私たちを守る最高の方法なのだから。
だから、皆の力を私に貸してほしい。
──私と共に、これからの未来を明るくしていこう。




