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1話『これから』





──そんな訳で。


突如新世界に飛ばされて一抹の不安を抱えながらも心は未来への夢と希望に満ちた少年こと高崎佑也は、この世界で生きていくにあたって、まず仕事を手に入なくてはならないと考えた。

……それはまぁ当然の判断だろう、金がなきゃ辛い目を見るのが社会の理である。



だから彼はとりあえずそんな当面の第一目標に近づくためにも、寝ているベンチのあった公園から外に出て、この世界におけるハローワーク的なモノを見つけて行………こうとした。


……しかし、行けなかった。



何故なら。





「この地図、なんて書いてあんだコレ……?」


そう、この世界の言語が分からにゃい☆



「いやなんでだよ!! 神さまだっていうんなら、こういうのはなんか、こう……偉大なる神の御力、みたいなので何とかしてくれるモノだろぉぉ!!?」


天を仰いで、思わず彼が全力で突っ込む。

それは忙しそうに行き交う人でごった返す街の騒音にも負けず、反響するように周辺へ響き渡った。


しかしそれに反応する者はいない。

周りの通行人は皆、「急にどうしたコイツ……」みたいなドン引きした顔をしつつ横を通り過ぎるだけである。


まぁ今の状況も周辺の人々にとっては、急に自分の近くの男が謎の言語を叫び散らかしている──こんなところだ。普通に考えればそんなのとは関わりたくもないし、そういう感じの反応になるのが至極当然だった。



そして実際問題、こんな場所で叫んでもどうしようもない。

そんな訳で、彼はとりあえずさっき渡されたカバンを開けてみることにした。その中にきっと、この世界の言語を習得できる薬かなんかがあるはずだと期待して、だ。



しかし。


「…………何ですかねぇ、コレは」


出てきたのは、なんと『ゼロから学ぶアルディス語』と大きく日本語で書かれた本とCDのようなモノや、この世界の歴史や社会の仕組みについて書かれた本であった。


「まさか、これでゼロから言語を学べと……?」


そう高崎が絶望しながらページをパラパラとめくっていると、一枚の小さい紙が落ちた。手に取って見てみると、どうやらあのクソ神からのメッセージのようだ。






────────────────────────────





申し訳ないけれど、予算の関係で言語については各自この教材でどうにかしてもらうようになっています。

(・ω<)てへぺろ


最初は大変かもしれないけど、学んでみればそう難しい言語という訳でもないし、この国の社会保障制度はかなり充実してるからそう簡単には死なないはず!

頑張ってね☆

o(*´ゝ∀・)ノファイト‼︎



  神 より




────────────────────────────







高崎は今回は読み終えた瞬間に紙を破いた。


「ふざけんじゃねェぞあんのクソ神野郎がァァァァァァァァァァああああああああッッ!!!!!!」


なんだ、これはつまりアレか?

これから言語を覚えろというのか??……しかも家もない、金もバックの中にそう保たないであろう量しかない。

さらに俺はここがどこなのかすら知らないんだぞ。

……いや死ねる。これはヤバイ。


てか神様のクセに予算とかあるのかよ。

神の救いも金次第って事か、なんて嫌な世界なんだ。



そうアレコレ考えてる内に、高崎の中ではいつの間にか怒りの感情は消え、これからの生活への不安しか残らなくなっていた。文句を言っていても、現状は変わらないのだ。うっすらと顔が青くなっていく感じが自分でも分かる。


彼の脳内には、そう遠くない内に起きるかもしれない、どこかの路地裏で野垂れ死ぬ自分の姿が浮かんでいた。



──マズい、早くなんとかしないと。


素直にそう考えた彼は、今自分が置かれている状況を確認するためにも、カバンに入っていたこの世界に関する本をベンチに座って読み漁った。情報収集は基本である。









──3時間ほど経ち、高崎はあらかた本の内容は読み終えた。


どうやら要約すると、ここは“エニス・ケティグラ”。

日本語で言うなら『緑星』と呼ばれる惑星であるらしい。


大きく分けて『(アトラ)大陸』と『西(ディンサール)大陸』の2つの大陸が存在するこの世界は、地球と同じように自然が繁栄し、多様な生物が住み、そして人類が文明を築いている。



挿絵(By みてみん)





しかし。


……この世界は、俺の見慣れた世界と異なるモノが多い。


まず、この世界は地球と比べて遥かに科学力が発展している。地球における最新のパソコンは、この世界の軽く50年以上は前の性能ほどに当たるレベルで、さらに空に見える月は勿論のこと、太陽を挟んで緑星の反対側に位置する“反緑星”への植民を筆頭に、各国は既に宇宙開発で競い合っているのだ。


また、既に核融合発電が実用化されつつあり、かつては危険視されたエネルギーに関する心配も最早必要ないという。

そして医療に関しては、腐るほどの金さえあれば不死さえも実現可能……だと言われている程の技術があるらしい。

まぁ軍事に関しては、魔術という最強の力があった為か、他ほど進んだ技術はないようだが。


……しかし、なんとも夢がある話なのだろうか!!


最先端技術とかそういうモノが好きでよく本まで読んでた彼にとって、ここがいわゆる近未来的な世界である、という事に関しては中々喜ばしいことだった。




また。そんなこの世界では、魔術なるモノも科学によってその正体が明らかになっている。


この世界の魔術とは、人間の体内で酸素や炭素・窒素などの見慣れた物質に加えて。『魔素』というこの世界特有の“元素”と合成され、作られる『エルダート』という物質によって起こされている。(これを一般的に“魔力”という)


そして、そのエルダートは体外へ放出され条件を満たすと、瞬時に分解されそのとき莫大なエネルギーが生じる。

それが世界本来の物理法則を乱し、魔術として現世に現れる……らしい。



“らしい”というのも、本当はもっと細かい事象が重なって起きているらしいのだが……、はっきり言って、細かい項目はじっくり読んでも全く理解できなかったのだ。

そりゃ高校の化学すら苦手だったのに、遥かに発展した世界の化学なんか理解できるはずもない。


それに、一応まだ魔術の全てが科学的に説明可能になった訳ではない。魔術の行使に不可欠な『魔素』に関しては、今だ不明確な点が多々あるようだ。


その為現在もなお、世界中の天才達が頭を悩ませながら研究を行なっているらしいのだが、魔素というあまりにも異質な物質の分析をし続けた結果、神の存在を信じ宗教にのめり込む者が跡をたたない……とかいう噂もある程だという。



因みに現在は、魔力の人為的な量産が行われている。

科学的知見に基づいたこの方法によって、これまでとは比べ物にならない程の大規模な魔力行使が可能となった。理論上では体格の調節や難病の治療といった人体への干渉や、不老だって可能になると言われている。

……まぁ、しかしそれはあくまで理論上。そんな量の魔力を一度に行使する方法は見つかっていないようだ。


しかし、それでもこの人口魔力は、電車や飛行機などと言った乗り物をはじめとした様々なモノの動力としても使われているらしい。この世界の新たなエネルギー革命である。



そして、この世界の人種は一つに止まらない。

身長が2〜3m以上が当たり前の巨人族。

地球でいうエルフのような外見をしたサラマ族

魔術の腕に特化した魔族など、多くの民族が渦巻いている。


だがこれらの種族は、ここらの地域では少なからず差別の対象とされてしまっているようだ。

現代においては各自が独自の主権国家を形成しているため、他所で目にかけることはあまりないという。




──そして。


現在高崎がその足を置くこの場所は、

『アルディス連邦王国』と呼ばれる、立憲君主政の国家だ。


この国は東はアトラ大陸、西はディンサール大陸に挟まれた島国である。長い歴史を持つ国らしく、その王朝は紀元220年頃。即ち、なんと2300年以上前から存在するらしい。


また、アトラ大陸のカドナ半島も領土としており、他にも、惑星を北から南に縦断する多くの植民地を所有している。

その為か、西のマナスダ合衆国や東の大正帝国と並んで、『世界3大国』としての地位を占めている。


本島の気候は北端は亜寒帯、中央山脈を挟んで南は温帯。半島の領土や世界中に広がる海外領土を含めてればほぼ全ての気候が国内に存在しているという。

因みに、今高崎がいるのは本島南部の都市『ヴァナラダ』。

アルディス王国で3番目に発展している都市である。



挿絵(By みてみん)



さらに、ここアルディス連邦王国は世界有数の先進国で、科学技術に関しては世界トップとの呼び声も高い。

アトラ大陸の隣国で、かつての旧植民地でもあった大国『ウラディル共和国』とは犬猿の仲で、領土問題なども重なり古くから戦争の歴史が続いている。


……が30年ほど前の戦争で双方が壊滅的な損害を受け、今は一応和平状態が続いており、平和が保たれているようである。





──いや。

なんか情報量が多くて訳わからなくなってきてるのだが……。


まぁ要するに、『この世界は科学技術が発展していて、魔術がある。そしてそれらを使った大規模な凄まじい戦争が行われているという負の面もある』……ということだ。






──そうして、本の内容をあらかた確認した高崎は、本を閉じて、これからの生活をどうするか考えて始めていた。


そういや“自称神”の野郎も言っていたが、この国は社会保障制度が充実してるらしく、生活保護的なアレもあるらしい。

正直出来ることならお世話になりたくはないのだが、当面はそれも視野に入れつつ暮らしながら、少しずつ言語を覚えてなんとか仕事を見つけるしかない。



(……まさか自分が社会のセーフティネットにお世話になる…なんて思いもしなかったなぁ)


高崎は自慢ではないが別に頭が悪いわけではない。むしろそれなりに良いと言っても良い。高校も地元では進学校と呼ばれる学校だったし、その中でも本気で取り組んだテストでは10位圏内に入る程度のレベルではあった。

文武共に、それほど努力を苦と思わないタイプだ。


正直、一生それなりに安定した生活を送れると思っていた。


それがこんなゆかりのない異国、いや異世界の地で国の援助を受けて生きていくことになるなど、誰が想像しただろうか。


ありがとう社会のセーフティネット。ありがとう社会権。

基本的人権の存在のなんたる素晴らしきことか。心の中でこの世界で人権を築き上げた偉人たちに感謝するばかりである。




(……さて、問題は何の職業に就くかってことだな)


まぁまずこんな右も左も分からない世界で、言葉も喋れん頭も(この世界では)悪いといえる17歳のガキが仕事に就くとしたら、もう肉体労働くらいしかないだろう。



そう考えた高崎は、そのための行動に早速出ようとする。

まず減った腹を満たすため、近くにあったコンビニらしき所で食べ物を買ってくる。そして日常生活や労働に必要な言葉を覚えるためにもバックに入っていた語学の本を開いたのだった。



コンビニには見たこともない食べ物もあったが、意外にも見かけたことあるようなモノも多くあった。


今食べているのは、恐らくパン的なモノである。見た目的にもソレに近い。……やはり安いモノはどこでも安いのか。これもまた、食べてみると味もそう変わったものではない。

やはりどの世界でも、人は似た発想に至るものなのだろうか?





──そうして、ある程度その本の中身を読んで言葉を覚えた(気になった)高崎は、とりあえず街を歩き回ってみた。

正直これからについてはほとんど絶望しかないのが実際のところだったが、少しだけワクワク感もある。



(……まずは状況の確認。もとい振り返りだな!)




↓現状

覚えた言葉 14個 (あとは本を見て)

財布の中身 約1, 000メル (1メル約100円)

衣・パジャマ

食・買えばある

住・なし⭐︎





「……んん、……あぁ。うん……」




これから、この世界でどうやっていけばいいんだろうか……?











【ぷち用語紹介】

・アルディス連邦王国 (あるでぃすれんぽうおうこく)

高崎が飛ばされた先の国。

いわゆる立憲君主制を引く王国であり、2000年以上前から続く世界で一番長い王朝を持つ国家である。また、その名の通り連邦制でもあり、アルディス島北部・南部・大陸の2つの地域。そしてその他領土の合計5つの地域を束ねている。

……現在はこれらのどちらも形式上だけではあるが。


・エルダート

この世界に存在する独自の物質。

人の体内で生成され、その分解とともに莫大なエネルギーが生まれ、それが『魔術』という形で現れるという。

しかし、その生成主たる者の“ 思い ”によって起こる“ 反応 ”が全く変わることに関しては、未だに完全な解明はなされていない。現在では、脳がそのエネルギー変換に関与している。という説が最有力とされているが……。


……ちなみに、この世界の者は誰でも作れるとは言うが、その才能による差はかなり大きい。





挿絵(By みてみん)

▲『緑星』エニス・ケティグラ全体図





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