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9話前編『革命』





てれれれれれ。

手に持っている機械からそんな古典的な音が響く。


……まぁつまり。

そんなこんなで高崎はデバイスで連絡をしていたのであった。


応答要請を仕方ないとはいえ無視し始めてから、もう3日が経っている。なんとその要請件数は実に100件以上。部隊のみんなの焦りが見て取れた。

………正直何かもう、連絡するのが怖くなってきた。



だがいつかは連絡しなかればならない。

なら少しでも早く無事を知らせるのが礼儀、というか必然なのだろう。……一体なんと言われるのやら。



相手側の承認が通った。電話がつながる。



「も、もしもーし……?」

『…………………………………………』



無言であった。

聞こえるのは、ただ少しばかり聞こえる雑音のみである。


「お、お久しぶりでございますね……?」

『…………………………』


無言。



…………うん。とりあえずあやまるかね。







────────────────────────────








『本当に、申し訳ございませんでした』


そんなまるでふざけているかのような台詞が、真面目なトーンで通信機器から響く。

………エレナはもう呆れた顔であった。


いや。実際のところ本気でこんな謝罪をしてくるのだから相変わらずというか、なんとも可笑しい奴である。


まぁ、そこもある意味長所も言えるのかもしれないけど。


それにそのおかげと言うべきか、先程までの心配してた気持ちとか、通信が来たときの驚きとかはどっかへ消えてしまった。


なので、エレナは諦めて普通に話し始める。


「………はぁ。まぁその声と、その情けない謝罪への転換っぷりはやっぱ間違いなく本人ね」


『……あっ、はい。そうですぅ』


いや、やっぱコイツふざけてるのか?

そんな風に思わなくもなくなってきたが、このままだと話に埒が明かない気がしてきたのでそこはもうツッコまないでおくことにした。


何故ならば、そろそろ本題に入らなくてはいけないからだ。



「……で? 今まで何してたの?」


『いやなぁ、まぁ爆破を止めるために色々してて……』

「うん」

『そんで最終的に身柄バレて、2日ほど拘束されてて……」

「うん」



まぁありそうな話である。おそらく嘘ではないだろう。


『……あー、そんで永都にある宮廷でな』

「うんうん」


エレナとしては、本当にそこにいたのか…と驚きを隠せないのだが、一旦ここは聞き役に徹することにした。


『何やかんやあって、さっきまで正朝の皇帝と話してた』

「…………」


『いやぁ、我ながらよく分からん話だなぁ』


「うん。色々突っ込みたい点はあるけど、とにかくまず1つ聞いとくわね? …………それ、本当なの?」



まぁそんな疑問も当然なのであった。


『嘘だと思うだろ? ……これが本当なんだな』


通話越しにでもドヤ顔を決めているであろうことが分かるくらいに、イラッとする言い方をしてくる高崎なのだった⭐︎



『んー、証拠ってんならその時の話の内容でも良いか? あの偉大なる帝国正朝の皇帝陛下もガキの頃はグレロの実は嫌いな食べ物だったー、とか』


「私はそれを証拠にできると思ったアンタの頭が今一番気になってきたんだけど……」


心底呆れた、というトーンの声で呟く。

秘話なんて言われた所で、こっちは正朝の皇帝のことなんてほぼ知らないに決まってるだろうに。




「まぁ正直信じきれないけども、そこは一旦置いておく。

──でもそれなら、あんたいったい何者なのよ? ……普通の人は皇帝になんか会えないでしょ」


『いっ……いやぁ。そ、そりゃまぁ……あははー』


単純な好奇心で尋ねたのだが、なんか急に彼は慌てだした。

軽い冗談のつもりだったんだけど……?



「なんでそこで取り乱すの? 隠してることでもあるの?」


『いや馬鹿おっしゃい! そそそそんな訳ないだろーっ!』


高崎が声を裏返しながら否定する。

──が、もうなんかテンパりのお手本って感じなのだった!



地味にイラつくし、すごく気になるので、どう問い詰めてやろうかとエレナが考えていると、服をつつく感触がした。


「エレナさんエレナさん」


「セルヴィナちゃん?どうしたの?」


それはセルヴィナであった。

どうもソワソワした様子で、何か言いたそうにしている。


「本当の高崎さんだったんですか? ──な、なら……」


彼女はもじもじしつつ、小さな声でそんなことを呟く。


そういえばセルヴィナは、3日前にユウヤと話すために、ここに来ていたのであった。 あの時は行方不明のせいで叶わなかったが。



エレナは、オッケー!と目でアイコンタクトをとると、再び通信相手との話を行う。



「……よーしユウヤ。今からスペシャルなゲストを──」


そんなやっすいテレビ番組みたいなノリでセルヴィナに話を繋ごうとしたその瞬間であった。



『ドッッッ、ガッアアァァァッッッ!!』


通話先の方から、耳が張り裂けるほどの爆音が響いてきた。

思わず画面越しのエレナ達が驚くほどである。


『おわッッッ!!!!??』


その爆音の裏で、高崎の悲鳴と、その周りに居たのであろう多くの人の悲鳴や大声が聞こえた。



………かと思えば、一気にその音は消え失せた。

つまり、通信が途切れてしまったのだ。



ここまでは、一瞬の出来事であった。

エレナとセルヴィナは取り残されたように、思わず呟く。


「「………ど、どういうこと、なの……ッ!?」」








────────────────────────────







通話が切れてから、高崎のいる場所は悲鳴に溢れていた。


──まず突然の爆音は、この街のシンボルでもある、丘の上の巨大な皇帝像が大爆発を起こしたことによるモノだ。

首都ということもあってかなり高い建物の立ち並ぶ先進的な街並みだが、それでも空へと立ち上る爆炎は確認できた。きっとその丘には、凄まじい炎と煙が広がっているのだろう。


高崎はそこそこ近かったためか、その…..思わず伏せてしまうほどの爆音を浴びたのだ。周辺にいた人々の中には、転倒して怪我をしている者も見えた。



また、高崎からはそれだけしか確認できなかったのだが、恐らく被害はそこだけではないようだ。遠くの方へと目を向ければ別のモノであろう黒煙が昇っているのが見えた。

確信はできないが、これはこの永都で同時多発的に起きているのかもしれない。




「……な、何だってんだ……」


高崎がそんな風に呟くが、最早その声は誰にも聞こえない。


『うわあああああああああああああ!!!!?』

『押すなッッ!! 子供が押しつぶされるぞ!?』

『うわああああん!!!』

『どうすればいいのよっ!?』


周りの悲鳴・怒鳴る声・泣き出す子ども達の声などがあまりに響いていたのだ。


道は逃げ惑う人々で埋め尽くされ、自分で歩くことさえ出来そうにない。押されて転ぶ者も出ており、間違えて踏みそうになってしまうほどであった。



「……クソッ!! とにかく、どっか広い所に……ッ!!」


そんな風に思っていた高崎だが、街の地図は持っていないし、そもそも持ってたとして、そこに向かって歩くほどの余裕はなかった。 周りには軽いパニック状態に陥った者が溢れ、移動もままならないのだ。


彼にできることは、逃げ惑う人々の凄まじい流れに逆らわずに、なんとか進んでいくことだけであった。





──よって。緊急時の避難場所でもあるらしい街の公園に辿りついたのは、15分ほど経ってからのことだ。


比較的広いその公園も現在は溢れるばかりの人々で埋め尽くされ、一息つく余裕すらほぼなかった。彼らは皆突然の動乱に驚き、動揺して、不安を感じて泣いたり騒いでる者が多かった。


………まぁ、当然の話ではあるが。




「くそっ…! なんなんだ……さっきから急に!!」


高崎は、改めてこの今までの流れを思い返す。


突然の大爆発による大混乱。

一言で表せばそれで済むが、話はそれで終わりそうにない。


何故爆発が起きたのか。

あの火力は偶発的な事故とは思えなかった。


そして爆発の起きた場所だ。

──皇帝像。

永都中心部に程近くに位置する丘の上に作られたそれは近年出来たものではあるが、それ故に美しさと大きさに長けており、街のシンボルと言って良い存在である。


また、勿論それは正王朝の始祖である風早の像だ。


しかし、現在はもうその原型を見ることは出来ない。

つまりそれほどに破壊され、かつ燃え盛っているのだろう。



そして、だ。


皇帝の像が破壊されるということの意味。

それはどういう事であるのか。



そんなの、簡単だ。



「………まさか、テロってことかよッッッ!!!?」




そんな高崎の予想が的中するかのように、突然公園近くのビルの大型モニターが1人の男を映し出した。


実はそれはここだけではなく、全ての正帝国内のテレビがそうなったのだが、今の高崎にはそれを知る方法はなかった。



人々の目は当然そこに集められる。

そしてどの者も、そこに映された者に目を剥く。



つまり、その男は。

高崎は知らなかった………と言うべきなのか。


本来は…いや()()()歴史が進んでいればよく知っていたのかもしれない人物であった。




けれども。

そんな高崎でも、ある人物であることは感じることが出来た。


その遥か昔から、ある一族が受け継いでいた伝統的な正装。

歳を重ねた事あれども、むしろより威厳を与える鋭い瞳

その頭に被る、本来1人しか居てはならない存在の象徴。

そして周りに映る、正国の中でも精鋭と見える軍人達。



それが示すもの。


それ、は───────。






「──燿王朝の、末裔…………?」










────────────────────────────









その画面に映る男が話し出した。当然の如く聞き取れはしない。高崎はアルディス語しかまともには扱えないのだ。


だから彼はデバイスを取り出し、自動翻訳のアプリを開く。周りがはちゃめちゃにうるさいが、モニターから流れ出るその声を指定すれば、その音のみを自動で聞き取って翻訳をしてくれるという便利な機能がある。



その機能によれば、奴はこう言い放っていたのだ。



──それは、ある意味予想通りとも言えたが。





“ 我々は、悪政を続ける現在の大正帝国を変える。

皆の者、今こそ団結せよ!

我らが祖国を、今一度偉大な国へと戻そうではないか‼︎ ”











【ぷち用語紹介】

・皇帝像

正朝の首都、永都に建てられた巨大な像。

国を代表する程の著名な建築家が設計したモノで、勿論のことながら、初代皇帝である風早をモデルしている。

高さは50mを軽く超え、街のシンボルとしても有名である。

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