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8話 『依頼』





そして、高崎たちは話をするためにも席に座った。


ここも当然ながら豪華絢爛な部屋で、カーペットやカーテンは明らかに高級そうな手の込んだ刺繍が縫われ、その他の内装は光るように綺麗な物で彩られている。

楕円に作られたテーブルは大きく、上にはいかにも高そうなお菓子などが積まれていた。

……これ食べていいんですかね?



早速目の前の高級菓子に釣られていると、宰相が口を開いた。


「まず最初に言っておく、『敵』は“()()()()()()”ではない」


「「そうなんですか!?」」



宰相の結論に対して、ルヴァンとテラが驚きの声を上げた。


……まぁ、あれは確かにあくまで仮説だったからな。

しかしソレが違うとすると、真の黒幕はいったい……?


高崎としてもそう疑問に感じていると、そんな彼らの様子を見てロデナは間髪入れずに言葉を続けた。



「しかし、我が国から戦争を吹っかけさせたいというのはいい考察だった。そこは合っていたよ」


……ん?ということは……?

ロデナの返答から結論を導き出そうと頭を働かせようとする高崎だったが、それが終わる前にロデナは再び口を開いた。

因みに、横にいる2人はもう前の言葉で察していたようで次の言葉を待たずに納得したような表情をしていた。さすがは天才たちである。


つまり、その答えとは…………。



「──しかし戦争を起こしたいのはウラディル側ではなく、()()()()の過激派だった。しかも、敵であるウラディルからの攻撃だと偽装してだな」


ため息を吐きながら、悩ましいことだ…と言わんばかりにロデナがそんな結論を吐き出した。

そして、そんな結論に対して、高崎としても合点がいったとばかりに軽く頷く。


──なるほど、確かにそうだ。

考えてみればおかしかった。ウラディルの過激派が戦争をしたいなら自国を焚きつければ良い。


それに他国へ危険生物を運ぶ、なんてそう出来ることではない。それなら、他国から『ある食料を持ってくる』ことの方がずっと簡単だ。


そして、()()()()敵から宣戦布告させるなんて回りくどいのだ。ならば、この国に犯人がいると考えた方が正しいかもしれない。敵がいるのは当然“外”だけではない、ということだ。


無意識の間に自国側の義を前提と信じていたルヴァンとしては、全くの盲点だっただろう。


………ウラディル共和国の皆さん、疑ってすみませんでした。



そんな感想を思い浮かべながら、試しにとばかりに高崎は、手元に置かれた例のお菓子を1個食べてみる。


(……あっ、メチャメチャ旨いわコレ)




「……因みに根拠はあるんですか?」


「残念だがある。最近大陸側への移動が不自然に多い官僚がいてな。怪しいと思い調べてさせてたんだが『当たり』だった。

ソイツは、大陸で魔獣を無断で遺伝子操作・及び育成を行なっていた施設と連絡を取っていやがった。繋がってたって訳だ、その組織とな。」


「マジですか……」


ルヴァンが唖然とする。まぁ、無理もなかった。


「それだけじゃない。さっきウラディルの奴じゃなかったとは言ったが、それはあくまで主犯がそうじゃないって意味だ。つまり、ウチの領内で対立が起きて欲しいと願うウラディルの過激派組織等からも、その組織にかなりの金が流れていた」



言うには、それで奴らは改造人間や軍用魔獣の開発を行ったと推測されるようである。

心の底から、さっきの謝罪を返して欲しい……。


そんなことを心から思ってしまう高崎なのだった。


(……てか、マジでこのお菓子うまいなぁ)



「んっコレも美味いなぁ」


「ねぇちょうだい。私まだそれ食べてないの」


隣からずっと話を静観していたエレナが催促してきた。

断る理由もないので、はいよ…と高崎は素直に渡す。

……ちなみに彼女に関しては座ったときから食べていた。

まぁ名門貴族の生まれに遠慮はないのだろう。



「そしてその施設の人間を監きn……に話を聞いたところ奴らの本部を教えてくれた。改造人間が作られている施設のことを吐く……教えてくれるのも時間の問題だろう。」


「それ拷問ですよね!!!!?」


テラが突っ込む中、高崎も心の中で思わず突っ込む。


黙秘権とか、疑わしきは被告人の利益にとか、そういう身体の自由はないというのか!!?

一応、この国は民主国家なんじゃなかったんですかね!!?




まぁでも、一々そんなことに触れていても面倒くさいだけなので、そういうのはテラに任せて、お菓子でも食べとこうかね。

──と、思う高崎なのだった!



「あーうめぇ、俺コレ一番好きだわ」


「ちょっとそればっか食べすぎじゃないの私も食べたい!!」


そんな訳で高崎が気の赴くままにお菓子を食べていると、隣からそんな文句をエレナが言ってきた。彼が言えた事ではないが、コイツもこいつで自由すぎるのではないだろうか。


「お前は全般的に食い過ぎだ、んな食ってると太るぞ?」


「はぁ!? ユウヤの方が食べてるじゃない!!」


「俺はしっかり毎日運動してるしぃ。お前はいつもダラダラしてるしお腹の肉危ういんじゃねーのー?」


「アンタねえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


「うるせぇお前ら黙れッッ!! 話を聞けよバカッッッ!!!!」


「「……あ、すみません」」



エレナとまるで子供みたいなことを言い合っていると、かなりガチな感じでルヴァンに怒られてしまった。高崎とエレナは気圧され素直に謝る。敬語で。


いや、確かにお菓子に気を取られてしまっていたのは事実。話を思い返す感じ、拷問してたってヤバイ一部分と、アルディス側に黒幕がいる……って感じの話ってことでいいのだろうか。



「……まぁそれでもあくまで拷問だ。確実な証拠にはならん。それに魔獣の件の施設もバレるのは想像の上だったのか知らんが、既に施設内は殆どもぬけの殻。重要な情報になりそうなモノは綺麗さっぱり消されてたってな」


だから、今はまだ軍を表向きには動かせん訳だ。と恨めしそうにロデナが呟いた。

どうやら公的な実力組織を表向きに動かすためには、この国でも流石に実体として残る確かな証拠みたいなものは必要らしい。さっきから裏でメチャクチャな事をやってる現実を聞いてしまった高崎としては、それが何だかギリギリの所で現代社会の理性を保っている事のような気がして、正直に言ってしまうと少し安心していた。


ただし、その後に続いた言葉は、彼を更なる困惑に陥れることになる。



「そこで任務の依頼という訳だ。──君たちには、敵陣の本拠地とされる場所に潜入してもらう」


「「「えぇ!!!?」」」


(何故かエレナを除く)全員が、大きめの声で思わず聞き返してしまう。


潜入!? しかも本拠地にぃ!!?

いや待てそれは普通に危険すぎないか!!?


……てか一応立憲主義による民主主義を名乗ってる近代国家が、拷問って断言しちゃっていた。流石は今もなお各地で全面戦争が起きちゃう世界である。



「なーに壊滅させてこいとは言わない。奴らがこの件に関する確実な犯人だと言える『証拠』を取ってこい。そうすれば問題なく正規軍が介入できる、頼んだぞ」


「いや簡単に言いますけどね!!? そういうのはプロに任せてあげて下さい!!」


テラが突っ込む。……まぁ当然の意見だった。

だって痛いほど分かる。潜入なんてその道のプロでも失敗してもおかしくはない。そう簡単にできるはずがないのだ。



「現在主力は正朝に出向いている。奴らがここ20年で急速な経済成長に成功した秘訣を知るためにな。だから無理なんだ」


「なら帰ってくるまで待っても!!」


「無理だな。これらの事件は全国的に報道されている。今は情報統制できてはいるが、いつ情報が漏れてこの問題にはウラディルが関与している! となるか分からん。当然政府としてはウラディルとの戦争などしたくはないが、いくら政府がやらないと言っても、国民の意見はそう簡単に無視できないんだよ。

だから一刻でも早く解決しなくてはいけない。分かるだろ?」


宰相が深刻そうな顔をしつつ、その理由とやらを説明する。確かに、そのような危険性はないとは言い切れないのが今の状況なのかもしれない。実際に、ネットを中心にしてそうった意見は噴出しており、いつソレが爆発してもおかしくはないのだ。



「言いたいことは分かるが俺たちは受けねぇ!!! 他を当たってくれッッ!!」


しかし、そんなお願いをルヴァンが一蹴するように言い返した。相手は宰相なのだが、もはや当然の様にタメ口になっていた、ルヴァンはこうなるともう止められない。



すると、宰相が突然間を空け、声を低くする。


「………銭湯の修理代1万2千メル」


は?何のことだ?


「軍の実験室破壊10万メル」


…………あ。


「軍施設の爆破と移転先の購入代42万メル、その他品の故障に8万メル。これは何だったけか?」


もう高崎は土下座していた。

……そう、これはうちの部隊の出した被害総額なのだった。


実は今の使っている施設に関しても、半年前に色々あって爆発した結果、移転することになった場所である。 

にしても計60万メル以上、つまり換算すると6000万円くらいである。やべーな俺ら。



「当然命がかかる大仕事だ。こんな被害なら全部なかったことにもしてやる。それに政府の役人共もこの件には必死らしい。装備や機器のサポートは最高品質のモノで準備されている」


そんなことを宣う宰相の指の先には、様々な軍用の装備品を含めた備品が積まれていた。どれを見ても時代の最先端を行く機器や、古くからアルディスに伝わる軍の魔術防御服が並べられている。



「報酬だって弾むぞ。帰ってきたらまず特別給与で1人5万メルはやる。基本給も今の1.5倍くらいにはしてやろう」


「……お、おうふ……」


なんというか、政府はめっちゃやる気らしい。

約500万……高崎は正直揺られてしまいそうだった。

それになんかここまで丁寧にお膳立てさせられると身分の低いこっちは断りづらいものがある。流石は、若き有能宰相といったところか。


いや、断りたい気持ちはあるけど。……金欲しいなぁ。

こっちにきてから贅沢なんて一度もしていない。



(……いや、待て落ち着け。失敗したら待ってるのは死だぞ? 俺は自分の命をベットにして賭け事なんかしたくは……)


「──まぁもし断るなら、被害額は全部負担してもらうことになるんだがね。それもできないなら……分かってるよね??」


「怖っ!!?」


そんな恐ろしいことを語りかけてきたロデナ宰相の顔は笑っている様に見えるが…、その目は笑っていなかった。


……もはや、選択権は与えられないようである。

確かに特任部隊の過失とはいえ、一応軍の活動中の過失に対して弁償する義務があるのか、とか言える雰囲気じゃなかった。

断ったらクビ程度済めばいい方かもしれない。下手したら消されかねない雰囲気だ。高崎と同じように、平民であるルヴァンとテラも何も言い返せない雰囲気だ。


……やはり民主的とか言っても、アルディスとは王国である。平民は、王やその下にある政府の権力には逆らえないようだ。うん、素晴らしい国だなぁ()。




「………な、なぁお前はどう思う、エレナ……ッ!?」


そんな一端の平民どもの最後の希望は、貴族の娘であるエレナ……だったのが、見てみると別に嫌そうな顔はしていなかった。むしろ見た感じやる気がありそうである。


あのー、これ。命懸けのお仕事ですよ? 分かってます??



「まぁそういうことだ。敵の本拠地施設は大陸の田舎町『ダラーデン』にある。作戦の実行は3日後だ。それまでに軍上層部と作戦の内容について練っておけ。頼んだぞ。健闘を祈る。」



そう綺麗に締められて話は終わってしまった。




……いや。大丈夫、なのだろうか……?











【ぷち用語紹介】

・ロデナ宰相

アルディス政府現宰相、37歳。

33歳にして宰相にまで上り詰めた、まさに天才。

リーダーシップと実行力は素晴らしく、さらに話術と交渉力にも秀で、今までも多くの国民、官僚、王に貴族までをも味方につけてきた。しかし、何故かロリ系の女装癖がある。

変態なこと以外は完璧な指導者、とメディアに称されたことも。


・テラ=ナデュトーレ

特任部隊所属の18歳の少年。

部隊の副リーダー、ルヴァンは双子の兄であり、小さい頃から共に行動してきた。魔術の腕に長け、その実力は既にアルディス史上最強の使い手との声もあるほどである。

兄とは違い温厚。しかし魔術のことになると熱くなる所も。



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