表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

<2>

 朝のホームルームになって、担任の男性教師は明日の課外授業のことを軽く説明した後、いつものような弁論モードに入った。

 彼はいつも、ホームルームで偉そうなことを弁舌するんだ。

 タメになるような含蓄のある言葉を吐いて、それで生徒の心を掴もうっていう狙いがあるんだろうな。

 ウチの担任は、いつもキツネの面で顔を隠しているんだ。それで頭の上には木の葉を乗せている。

 何かあったら、すぐに呪文を唱えて、煙に包まれて消えてしまうんだ。



 そのキツネは、今日は読書の大切さに関して色々と喋った。

 内容は全く頭に入ってこなかったけど、どうせ大したことは言っていないだろう。

 それに、他の生徒も真剣に聞いている奴なんて、たぶん一人もいない。みんな適当に聞き流していて、キツネが自己満足に浸っているだけだ。


 自分に酔いしれながら語ったキツネの、今日の決め台詞は、

 「人生で大切なことは、全て書物の中に記されている」

 という言葉だった。

 それを言った直後、ちょっとニヤけた表情がこぼれたけど、自分としてはバッチリ決まったと感じたんだろうね。

 大根役者の三文芝居に付き合わされる、こっちの身にもなってほしいもんだよ。



 大体さ、人生で大切なことは書物の中に記されているとして、だから何なのかって思うんだよね。そうだとして、だから本を読むべきだという論法は、成立しないよ。

 そりゃあ人生に大切なことは本に記されているかもしれないけど、映画にも描かれているだろうし、毎日の暮らしの中で発見することもあるだろう。

 だから、読書をしなきゃ見つからないわけじゃないと思うんだ。

 別に僕は、読書が嫌いなわけじゃないよ。むしろ、同級生の中では読書家に入る部類だと思う。図書室にも足繁く通って、色んな本を読んでいるからね。

 でも、そんな僕だけど、キツネの主張には賛同しないね。


 僕は、人生で大切なことを得るために本を読んでいるわけじゃないし、読書によって人生で大切なことを教わったという印象も無い。

 むしろ、

 「そんな気持ちになるのは変じゃないか」

 とか、

 「その主張は納得いかないな」

 とか、そういう風に首をかしげることもあるしね。

 僕にとって読書っていうのは、ただの暇潰しに過ぎない。他にやることが無いから、本を読んでいるだけなんだ。

 書物なんて、他に暇潰しの道具があったら、別に無くたって困らない。その程度の物だ。

 それを、さも価値の高い物のように言われても、相手にしていられないね。


 それにさ、キツネは悦に入っているみたいだけど、あいつの言う言葉は、全て借り物なんだよね。

 今回の言葉は、どこかで聞いたことがあるなあと思ったんだけど、確かテレビ番組でタレントが同じことを言っていたよ。

 キツネは今回だけじゃなく、ある時は映画から、ある時は書物から、あらゆる所から名言を引っ張り出して、それを引用しているんだ。

 別に引用するのは、悪いことじゃないよ。だけどキツネは、

 「この言葉は、ある人が言った名言で」

 とか、そういうことを説明しないんだよね。まるで自分の言葉であるかのように、それを使うんだ。


 ただ、どうやらキツネは、名言を言おうとして書物を調べたり、そういうことをしているわけじゃないみたいだ。

 たまたま自分が読んだ本や、自分が見た番組の言葉に引き付けられて、それを拝借しているってことらしい。

 ようするに、ものすごく影響されやすいんだ。信念ってものが無くて、すぐに流されてしまうんだ。

 良く言えば柔軟性があるってことになるのかもしれないけど、それは良く言いすぎだろうね。



 他人の意見に影響されやすいから、キツネは1ヶ月前と全く逆の意見を、平気で口にすることもある。

 昨日のホームルームで

 「過去を振り返るより、未来だけを見て歩いていけ」

 みたいなことを語っていたけど、確か数週間前には

 「時には立ち止まって、人生を振り返ることも必要だ」

 って語っていたからね。

 ホントに適当なんだよ。だから真剣に聞いていたら、生き方がグチャグチャになってしまうのさ。


 大体さ、あいつは借り物の言葉で偉そうに説教しているけど、中身が全く伴っていないんだからね。

 口先だけで魅了しようなんて、生徒を甘く見すぎているよ。行動の伴わない教師なんて、誰が付いて行こうと思うもんか。

 キツネはクニがイジメを受けていることなんて、とっくに知っているはずなんだ。だけど、知らないフリをしている。だからイジメは続いているんだ。

 そんな奴の言うことなんて、真面目に聞いていられないよ。

 きっとキツネは、面倒なことに巻き込まれたくないんだろう。だからイジメから目を背けているんだろう。

 でも、それを非難するつもりはないんだ。学校の先生なんて、そんなものだからね。

 最初から期待していないから、落胆もしない。

 どうせキツネに出来ることなんて、化けることと、消えることぐらいだもんね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ