貴女のお誘いに乗った結果
「今日、ご飯食べない?」
少し大人の葉山さん。
1月。バイト先で後片付けをしていると、彼女からそんなお誘いが。
「僕とですか?いいんですか?待ちます、了解です」
学生の身分で大人の女性から誘われるとは。
葉山さんは、4つほど歳上のお姉さんで、髪型はショートでストレート、真面目で大人しめな感じの人。
社員通用口の近くのシャッターで待つ。今日は風が強いな。コートを全部閉めて待ち始めた。
何を食べよう。
飲みに行くのかな。
どんな話があるんだろう。
まさか、学生は相手にしないだろうし。
30分経過。終礼長引いてるのかな。
あ、空から雪が舞い降りてきた。
そうすると、ひょこっと同じバイトの1年後輩の田島がきた。
「あれ、矢田さん、何してんすか」
「ちょっと葉山さんにご飯に誘われてさ」
「マジッすか。え、何それ。いいなあ」
「あ、いや、そんなんじゃないと思うけど」
「矢田ちゃんだけずるいなぁ。どこ行くんですか。一緒に待ってていいっすか?」
「まあ・・・いいと思うけど」
こいつはどういうつもりで一緒にいると?とはいえ、ダメだよとも言えず。葉山さんが、どういうつもりかもわからないし、それに暇つぶしには丁度いい。もし何かあっても、こいつなら雰囲気でわかるだろう。
1時間。ちょっと遅いな。
実は少し前から吹雪いてきた。そして田島との会話が、本当に助かる。いないと寂しすぎる。
「本当に今日なんすか」
「今日って言われたんだけどな」
「先行ったとか?」
「行き先聞いてないし、待っててって」
「寒い。寒いですよ、矢田さん」
「あと30分待ったら帰ろう」
結局待っても葉山さんは来なかった。
田島に詫びを入れて、その日は帰った。
次の日、バイトに行くと、葉山さんが飛んできた。
「ごめん、帰ってると思ってて先行っちゃった」
「あ、ああ、もう、いいっす」
待っててって言われて先帰るかよ、って思ったけど、もうどうでもよかった。こんな真面目そうな人がする約束がこんなに軽いなんて、ショックだった。
2月になり、バレンタインで、少し大きめのチョコを貰った。先日のお詫びだそうだ。何チョコなんだろうか、義理詫びチョコか。
「よかったっすね、大きなチョコ貰えて」
田島のよくわからないフォローが飛ぶ。イケメンのお前から言われると嫌味でしかないな。
家に帰って開けてみるとアーモンドチョコ。伝えてないから当たり前なんだけど、アーモンドは大嫌いな食べ物のひとつ。
ここまですれ違えば、もう縁がなかったなんてレベルですらない。
大嫌いなアーモンドチョコは大嫌いなままだった。
いかがでしょうか。
約束は守りましょう。