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ひこうき雲  作者: 三隅俊也
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くだらない

なんでもない。

ペットボトルのお茶はいつのまにか半分まで減っていた。

ため息をつくたびに一口ずつ飲んだから、ちょっとペースが早い。少しぬるくはなったけど、飲むたびにすーっと通り抜ける涼しさがわたしは好き。美しいとおもう。

家から物音が消えてる。きっとお母さんはもう出かけてしまったんだ。声ぐらいかければよかったと思うけど、声をかけて

「いってらっしゃい」

なんて言いでもしたら、お母さんは一瞬ドキっとしたような顔をして少し寂しい笑顔をつくってくれて、同じように

「いってきます」って言うだろう。

そんな時、わたしとお母さんはお互いなんだか恥ずかしいような悲しいような気持ちになってしまうだろうから、これでいいとおもう。特に仲が悪いわけでもないけど、要らないのだ、いってらっしゃいなんか。


飲み込んだお茶より少し濃い色をした葉っぱがたくさん見える。だからこの季節のベランダは好きだ。

わたしが寝ている時もわたしが泣いている時も、わたしが生まれても死んでもこの葉っぱはずっとこうやって揺れてるのかな、そうだとしたらなんだかおかしいな。きっとこうやってずっとずっと揺れていたら感情も不安も何にもないのかな。おかしいな。少し強い風が吹いて、葉っぱがざわざわっと揺れた。この季節のベランダは好きだ。


一瞬ギラっと太陽が眩しくなって、右目だけつぶりながら空を見た。飛行機が小さく海の方に飛んでいる。

あんまり遠いから音もしないでずずずーっと、誰も乗せてないみたいにぶっきらぼうに、ただ海の方へ飛んでいる。

一緒に飛んでいけたらなって思ったけど、わたしにはこのベランダがあるから、音をつけてあげようと思った。

ブーーーーーン。

飛行機の音ってきっとこんな音ではないけど、わたしの音で飛んでいく飛行機を見て、すこし嬉しくなった。

ブーーーーーン。

三回目のブーンを言おうとして、なんだか急に寂しくなってしまった。なんだか急に不安になってしまった。

鼻からたくさん息を吸って、少し大げさにため息をついた。ため息はいつだって大げさにつくことにしている。

本当に自然にため息なんてついてしまったら、もう戻れなくなるような気がするからだ。さっき言わなかったあの「いってらっしゃい」と少し似ている。ため息は悪いものじゃないけど、いつも恥ずかしくて悲しくさせるものだ。

ため息をついて、ぼんやり葉っぱを見ながらまた一口お茶を飲んだ。飲み始めた時は、その度に少しだけ自分が清潔になれた気がして清々しかったけれど、もうなんだか慣れてしまった。

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