ボーイミーツガールも鬼畜
リリリッ・・・リリリッ・・・
季節は春。道路に落ちた黒ずんだ花びらが、桜がもう散ってしまったことをものがたる。桜の花はとても美しいが、地面に落ちてしまってはもうその面影はない。早起きの老人が家の前を掃き清めているが、地面にはりついて中々とれない。
リリリッ・・・リリリッ・・・
もう5月とはいえ、朝はまだ気温は低い。心地よい布団からでるのはさぞかし億劫であろう。この物語の主人公である西元灯も例外なく布団から出れずに、夢と現実の行き来に甘んじていた。
「あかり!!速く起きなさい!!もう7時半よ!!」
しかし幸せな、時間は長くは続かない。ドアの開く豪快な音どともに、灯の魂は現実にひきもどされる。
「矮小な人間め・・・全くうっとうしい・・・」
ベッドから上半身をお越しまだ寝坊た頭で、霞んだ目でドアを見ると、そこには中年のおばさんが腰に手をあてて立っていた。
「ひかえよ!人の子よ!!妾は、真祖の吸血鬼・レイアス=アルガードぞ!!その命、紅き花と散りたくなければ、そうそうに立ち去るがよい!」
ベッドの上の彼女はキリッとした声で、右手を横に伸ばしたポーズをとりながらいいはなつ。
「あんたまだ寝ぼけてるの?」
そういいながら中年の女性はベッドに近づき、少女の頭にゲンコツを落とす。
「ふにゃああ・・・いたいっ!!」
なぐられた頭を抑えつつうずくまる彼女に、女性は呆れたように話を続ける。
「もう7時半よ!急がないと遅刻するわよ。」
「ええーもう7時半!?最初に言ってよママー!」
飛び起きた少女は時計に飛び付いたと思うとあわてて、黒と白のフリルが着いたゴスロリ調のパジャマを脱ぎつつ、制服がしまってあるクローゼットに駆け寄る。
「最初に言ったじゃない。」
ママと呼ばれた女性はため息をつきヤレヤレのポーズ。
「もう!今日担任の先生出張で休みだから、朝の会体育のゴリラなのに!!ママのバカ!」
制服に着替え終わった灯は、お気に入りのコウモリのキャラクター"ちゅーちゅー三世"の鏡の前で、お気に入りのコウモリのマークのついたヘアゴムで、ブロンドの髪の毛をツインテールに結っていく。
「夜更かしするのがいけないんでしょ?朝ご飯リビングに置いてあるからちゃんと食べてきなさい。」
そう言い残すと、灯の母静は階段を降りていく。
「も~そんな時間ないっての!ヤバい~靴下裏だぁ~」
灯の住む街、宮前市は中途半端な都会の街だ。東京の中心まで行くには電車で一時間はかかる。宮前駅には新幹線も通っているが、パッとしない駅である。駅周辺にはショッピングモールがいくつもあるが、少し離れた商店街は老舗の和菓子屋と、チェーンの牛丼屋、怪しい宝石屋さん以外はほとんどシャッターである。そんな駅から三十分ほど歩いた住宅街の一つの家から、「行ってきまーす!」っと食パン片手に急いで出てくる灯の姿があった。
主人のいなくなった部屋には、ゴスロリ調のパジャマが脱ぎ捨てられていて、黒をベースに赤いバラの模様のついたクローゼットは開いたままだ。なかにはやはりゴシックロリータの服が3着ほど入っていて、ハーフの持ち主には似合いそうである。月の形を模した窓には星空のカーテンがついていて、その下の黒い机には、無○良品のノートとプリントが置いてあり、ノートには"シュワルツメモリー"と書かれていて、プリントには5月10日提出と書いてある。まあ、どちらも彼女のために見なかったことにしようではないか。フローリングされた床の真ん中にはワイン色のソファーがひいてあり、そこには透明なちゃぶ台、その上には黒に赤い十字架のシールのついたノートパソコンと袋の空いたチョコレート菓子が置かれている。
「ヤバいよ~ゴリラヤバいよー!」
トーストを加えて学校に続く道を走る灯が曲がり角を曲がった時、反対から来た人とぶつかってしまい、彼女はしりもちをつく。食べかけのトーストも地面に落ちてしまた。(後でスタッフがいただきました。)
「うぼぉっほっ!」
とても女子高生とは思えない声を出す彼女に、ぶつかった相手は手を差しのべる。
「ごめん!急いでたもんで!怪我はない?俺は加賀終夜、緑峰学園の二年生だ。」
顔は怖いその男は爽やかに挨拶しながら、手を出している。しかしその手は重なることはなかった。少女は無言のまま立ち上がると、その少年の股間をおもいっきり蹴りあげた。
「ウボォーーー!」
男子高校生とは思えない声を出しうづくまる彼の背中を、灯は靴で何度も思いっきり踏みつける!
「カス!ゴミ!生ゴミ!人間の分際でぶつかってんじゃねーですよ!セクハラされたってサツにつきだそうか?あぁん?ウジ虫がよぉ・・・はっ・・・今日ゴリラだった!やばいやばい。」
そう言い残し少女は少年に蹴る、踏むなどの暴行を加えたのち、そそくさと走って行ってしまった。
この少年と少女はもう出合うことはないのだが、この出来事が少年の性癖に大きく関わってしまったのは語るまでもありますまい。