ホールドアップ
『こっちの道は行くなって言ったよね。 なんでそれ無視してずんずん先に行っちゃうのさ』
二人仲良くホールドアップ。
二丁の銃で脅されたまま中に入れさせられて、そのまま壁沿いに立たされる。
「あれってアレだよな。 VRドロイドだよな?」
こっそり耳打ちしてくる岩居さん。
うん、あれVRドロイドだ。
酷所作業用に使われたりもするけど、そういうのはあくまでも安全な危険地帯での運用のみだ。
いわゆる深海でのケーブル補修作業や、放射能汚染のある地域での調査作業とか。
こんな宇宙空間の作業をするためにVRドロイドを使うやつなんてまずいない。
VRドローンで多少の作業、ケーブル点検作業や生活ブロックから離れずにほかのブロックで作業するためだけに使うような奴もいたりするけど、緊急時の判断が求められる現場とかでVRドロイド使うことはほとんど無いし。
ってことはこれ、エルか誰かが自分だけのために持ち込んだってことか?
『ちょっとくらいふらふら動き回るくらいのことはしょうがないとか思ってたけどさ、さすがにここ来るのはダメだよ。 無しだよなしホントに』
銃がこっち向いたままだけど、なんかデカい銃口だな。
缶ジュースでも入りそうな感じだ。
ってかさっきからずっと静かだったのは、これ使うために準備とかしてたのか?
どんだけ頭に血が上ってんだよってな感じだよ。
しかしあんだけデカい銃口だと何が出るんだ。
催涙弾?
暴徒鎮圧用のゴム弾?
まさかグレネードってことは無いよなこのコロニーっつうか通路の中で。
まぁ待て落ち着け。
ここはそのなんだ、元素の覚え歌を一通り言ってみよう。
すいへいりーべぼくのふね、なぐまぐあるしぴすくるあー。
・・・水素ヘリウムリチウムベリリウムまではすぐ出るんだけど、ほくのふねのくだりの元素って何だったかな?
まぁ思い出したところでVRドロイドの銃口がそれたりとかして、今の状況が変わるわけでもないけど。
んーでもずっとにらみ合いしてるわけにもいかないしな・・・。
エルはVRドロイドを操作しているせいなんだろうけど、こっちのほうに直接何か言ってこない。
さっきからブツブツ言ってるけどVRドロイドのスピーカーか何かを通して言ってる。
おかげで耳元が騒がしくなくていいけど。
でも実際どうするかな。
岩居さんの方はどうし・・・何かさっきと立ってる位置が変わってるような?
「おーいぃエルさんや。 こんなところでぶっ放す気か? 一応言っとくけどやめておいた方がいいと思うぞ」
『うるせぇようるせぇよ! 人の事コケにするんじゃねぇよ! 本気だってこと見せてやる!』
アームが伸びて岩居さんに狙いをつける。
「今だ反対に走れ!」
VRドロイドの左側に回り込むように突進するように走る岩居さんとは逆に、VRドロイドから遠ざかるように通路の反対側に走る。
いや待てバカさっきの扉から下に降りりゃよかったんじゃないかと思いつつ走り続けてたら、後ろから二回ドンドンという音が聞こえた。
爆発音じゃなかったからグレネードじゃ無かったんっだろうけど、確かめないままとにかく前に走る。
どこに行くかなんてわかんないけどとにかく走って走った。
何回か十字路みたいなところを過ぎた気もするけど、とにかくどこかの扉みたいなところに着いたので足を止めて呼吸を整える。
・・・ぁはぁ、なんでエルはここに入られるのを嫌がったんだろう。