次善の策
宇宙空間での作業やその他多くの事柄に、無駄遣いは厳禁だ。
限りある資源を有効活用して、最大限の効果を上げてこそ、優れた宇宙作業員になれるのだ、とは今ここにいない作業班長である大河原のおっちゃんの言いようだ。
うなずけるお言葉ではあるんだけど、毎度毎度の作業開始ごとに、大声で全員のメットに強制回線で言うもんだから正直うんざりだったけど、今それを思い出したのは、あまりにも使えるものが少ない環境に放り込まれたからかね?
まず重機はデブリのぶつかった衝撃で、背面を中心にぶっ壊れてる。
スラスターは右が完全に死んでて、左のノズルはゆがんでる。
上下のスラスターは生きているかもしれないけど、ガスの残量がゼロなんでどのみち使えない。
四本あるアームは上の一対は大丈夫そうだ。
ただ、下の一対はコンテナを持たせてたせいもあるけど、デブリのせいでどっちもアウト。
これのおかげで助かったともいえるので、感謝しかないのだけども。
ただ、いまの状態でもう一度電源を入れるのは怖い。
どこかがショートしているかもしれないし、バッテリーが爆発する可能性だってある。
その他のパーツについては、ワイヤーとそのウインチの機構は生きているかな。
重機から電源を取っているけど、もともとがメンテナンスの都合から簡単に取り外しできるようになってるし、宇宙服にある電源から再使用が可能だ。
他に取り外せそうなのは、空になったガスのタンクと、バッテリーくらいか?
コンテナとその中身はさっき見た通り、デブリがぶつかったせいでぐしゃぐしゃになってる。
こまごましたものとか水の入ってたボトルも、うまく投げればその反動で方向転換できそうだ。
・・・。
大体の方針が決まったな。
もう一度、重機の回転を安定させよう。
電源を切ったままで、上の方のアームを左右にめいっぱい伸ばす。
重てぇ。
足で挟み込んで伸ばすのもかっこ悪いけど、やれることは何でもやっておかないと。
伸ばしきったアームの先で、スプレーを構える。
音は聞こえないけど、シューっとスプレーの中身が噴射されてまた回転がゆるくなった。
でもなんていうか、まだ勢いが足りない。
そりゃま、ヘアスプレーと推進剤に使うタンクとじゃ、その内容量に差があって当たり前だわな。
それの差を埋めるために伸ばしたアームの先につかまって、スプレーを噴射したわけなんだけど。
ただ、それなりの効果はあった。
回転の緩んだ重機の軌道がなんとなくわかる。
ヘルメットの中のマーカーが、さっきよりもゆるくなってるからな。
アームを伝って元の位置に戻る。
バッテリーと空のタンクと壊れたコンテナを、宇宙服にワイヤーでくくっておく。
壊れたコンテナも取り外したいけど、ゆがんだアームが食い込んでるんで断念。
中にあったボトルを持てるだけ持って、もう一度伸ばしたアームの端っこに移動だ。
・・・ぐ。
・・・・・・んぉ。
遠心重力で体が外側に持ってかれそう。
空なのにタンクが重い。
まだ駄目だ、重機の回転を利用して遠心カタパルトにするには、端っこの速度が速いところに行かないと。
もうちょい・・・。
端っこから・・・遠心力を利用して、・・・向こうに・・・。
今!
マーカー!
よっしゃ!
いい角度で射出された!
あ・・・。
重機をゼロ基点にするの忘れてた・・・。