パニック
落ち着け。
落ち着くんだ。
こういう突発事態に遭遇したときは、好きなアーティストのこととか全く関係ないことを考えて思考を切り替えるんだ。
うん、そう。
たとえば自分の好きなアーティストはGLAPeの事とか。
新譜が出てるかとか「落ちる落ちる落ちる落ちる!」
サードアルバムは「重力!じゅうりょくが!」
確かセカンドアルバムが出たのは「ぁぁぁぁああああ!!!」
「うるせぇよ静かにしろよ!」
自由落下じゃないけれど、コンテナがコロナから射出・・・いや放置か?
とにかく分離させられた。
そのせいだと思うけれど、ついさっきまであった重力が無くなっていく感覚がある。
「そっちこそなんだよ大声出して! わかってんのか? 宇宙に放り出されたんだぞ!」
おっさんがわめく。
「そんなにすぐ変な事にはならないですよ。 宇宙用のコンテナなら、気密はしっかりしてるし」
身体が浮き上がるな。
よ。
天井に手を当てて元の位置に押し戻す。
この状況で怖いのはデブリとパニックだ。
デブリについてははっきり言って運だよりになる。
とにもかくにもぶつからないように祈るしかない。
問題はパニックの方だ。
下手に暴れられたりしたらコンテナがぅを!
「止まんない!」
「落ち着けよ、どっかに捕まれ!」
「捕まれってどこに!?」
「暴れるな! こっちまで巻き添えにするな!」
なんてーか、周りがパニックになってるのを見ると逆に冷静になれるっていうか。
いや、コロナにいた人間だったら多少は宇宙の、姿勢制御のやり方とか体験してるんじゃないのか?
ハッチポッチの二人は端の方に寄って天井と床の両方に手をついて踏ん張っている。
はた目には変な格好だけど、フックや道具の無い状態で身体が投げ出されないようにするにはアレでいいのか。
おっさんが一番取り乱してる感じだな。
ふわふわ浮いたイスにつかまろうとしてるけどうまくいってない。
足で蹴ったイスの一つが壁に当たる。
跳ね返る。
変な回転が加わって漂って・・・。
おっさんの足にイスが当たる。
あー、弁慶の泣き所に入った。
体を丸めようとしてまた別のイスに当たった。
あああ、今度は若いのの一人に当たった。
もう一人の方は・・・いい動きしてるな。
作業員じゃなさそうだけど、アストロノーツっぽい動きだ。
何かそういうことしてたのかな。