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始まりの道

    第一章「始まりの道」


 

 今年の春はとても気持ちのいい春だった。

 明星グループ営業部副部長の葛西光彦は、営業部の部長に

 媚びることが日課だった。

 明星グループとは、吉友・二菱・明星、日本三大企業の

 一つだった。葛西は、岐阜出身で国立岐阜中央大学を

 卒業した後、地方の国立大出身者として明星グループに

 入社した。当然、地方大で田舎者出身の葛西はそう簡単に

 昇進はできなかった。葛西は当時、変人扱いされていた

 田村徹の部下となった。田村徹は現在の明星グループ

 代表取締役社長だ。葛西は上司の社長就任のおかげで

 自分も華の営業部の副部長に昇進した。

 そんな誰よりも素晴らしい能力もなく、ただ普通の

 サラリーマンの彼が社長室に呼ばれた。葛西は

 部長とともにエレベーターに乗り、最上階にある

 社長室のフロアに行った。社長室のロビーに行くと

 社長の秘書である飯田がパソコンで作業をしていた。

 ロビーはとても静かで飯田がパソコンを打っている

 音しかしない。

 部長が、飯田に「営業部副部長の葛西を連れて

 まいりました。」と小声で言った。

 すると飯田はパソコンのキーボードを打つのをやめ、

 ロビーに置いてある椅子に座るように指示した。

 葛西は心の中では何様だと思ったが飯田は、

 日本一の東都大学出身だ。やはり学歴には逆らえない。

 葛西は自分の気持ちを押し殺し、作り笑顔で

「ありがとうございます。」といつもの媚びり顔で

 言いながら座った。

 何分経っただろう。十分、二十分と時間が刻々と

 過ぎていく。もうそろそろ三十分が経つだろうと

 思ったころ、社長室の扉が開いた。

 外人の先客がいたらしく中から白人の五十年輩の

 男性が出てきた。飯田が社長室に入れと指示され

 部長に続き、葛西も続いた。

「失礼します!!」部長が今までに聞いたことの

 ないような声でしゃべった。

 葛西も「失礼します。」と続いた。

 田村徹は葛西の顔を見るや否や

「おぉ!葛西!久しぶりだな!!」と満面の笑顔で

 葛西を迎えた。葛西はてっきし自分のことは忘れている

 だろうと思っていたのでとても嬉しかった。

「お久しぶりです。田村さん。あっ田村社長!」

 葛西は部長の羨ましそうな顔に満足していた。

 そうだ!自分は社長の元直属の部下だったんだ。

 いつもでかい態度の部長に対するいいアピールだ!

 心の中でそう考えていた。

 田村は昔の思い出話を楽しそうに話していた。

 三十分は聞いただろうか。ロビーで社長を待っていた

 時よりも長かった。

 そして田村が話が尽きたころ少し間をあけ一言こう言った。

「そんなともに歩んできた葛西に頼みがある。」

 葛西はドキドキした。頼みとはなんだろうか?

 今は春だ。もしかして昇進か?いや、昇進だ!

 春は昇進の季節だ!なんだろう・・・部長か?

 それとも、役員か?まさか副社長なんて・・・

 頭の中では花が咲いていた。葛西の心の中の

 ニヤニヤは止まらなかった。

 田村は葛西にこう告げた。

「君にぜひとも社長になっていただきたい。」

 葛西はいい意味での期待を裏切られた。心の中では

 お祭り状態だった。(おれが社長!?うえぃしfふぁ

 wwww)

 心の中では表現しきれないぐらいうれしかった。

 でも待てよ?俺が社長になれば田村さんは退任することに

 なる・・・田村さんはそれでいいのか?自分の中で勝手に

 心配になってしまった・・・

 しかし田村は躊躇せずこう言った。

「ただ、明星グループの社長ではないんだ。俺は、今年も

 社長を続投することになったよ。」一瞬、葛西にいやな

 予感が走った。これはやばい・・・どっかのドラマで

 見たことがあるぞ・・・やばい、これ半〇直樹だ。

 やばいよこれ常務、土下座させなきゃいけないのか?

 でもうちの常務、死にかけだぞ?死にかけにそんなことは

 できない・・・葛西は完全に半〇直樹のBGMが流れていた。

「葛西!お前には我が明星グループの一大改革の一つに、

 参加してもらう!お前には・・・」一瞬、田村が言葉に

 詰まった。葛西は覚悟した。

「お前には・・・明星マリナーズ代表取締役社長に

 なってもらう!」

 葛西は終わったと覚悟していたが出向ではないことに

 少し安心した。ただ、明星マリナーズは葛西は

 どんな組織なのかわからなかった。

 理解できていない葛西を見て田村は

「明星マリナーズは明星グループが保有するラグビーチームだ。

 お前ならやっていける。お前には考察力が優れている。

 この俺が認めた男だ。大丈夫だ。大丈夫。」

 葛西は明星グループから離れるよりやっていけるかが心配だった。

 ずっと営業部一筋で経営などわからない。それにスポーツといえば

 中・高続けていた陸上競技ぐらいだ。それにリーダーなんて陸上部の副部長を  やってぐらいだ。この俺になにができる・・・

 まあいいさ。マニュアル通りにしていけば。葛西は納得できていない

 自分を強制的に納得させようとしていた。

「あぁ。あと忘れていた。もし社長を就任して任期満了までに

 効果がなかったらクビにすると役員会で決まった。これは俺も

 反対したんだが、だめだった・・・すまん。」

 おぉぉぉぉぉぉいぃぃ!!クビって勝手に社長にさせといてそれはないだろ!

「いえ、田村社長の大改革にお力添えできるならばなんでもやらさせていただきます。」

 葛西は田村を少し恨みながらもいつもの媚びりを見せた。

「後のことは、飯田に任せている。では頼んだ。」

 部長と葛西は頭を深々と下げ社長室から出ていった。少し悔やんでいる葛西が

 社長室からでると、飯田が分厚い書類を持ってきた。

 葛西に手渡すと力の抜けていたので葛西は前から倒れてしまった。

「なんだよ・・・これ・・・こんなに書類を渡されても困りますよ・・・」

 飯田は一言、

「準備は今日中に行ってもらう。できなきゃ会社やめろ。」

 と言って去って行った。

 部長には一緒に手伝ってやると言われたが葛西はエレベーターの

 中では落ち込んだ人の影のように暗かった。しかし、今日中に

 荷物をまとめなければいけない。落ち込んでいる暇はなかった。

 部長や部下とともに荷物の準備をした。荷物の準備はちょうど、

 昼時に始まったが、二時間もせずに終わった。夕方の四時には迎えがくるそうなので

 同僚や部下が簡易的な送別会をしてくれた。同僚で法務部長の片岡や明星銀行本部の

 営業第二部部長の松野が来てくれた。

「お前も社長か。立派になったな!」片岡が作り笑いで葛西に言った。

「今日はどうぞ好きにバカにしてくれ!」葛西はもう、どうでもよかった。

 皆がくすくすと笑った。葛西は簡易的な送別会だったが楽しかった。

 明日からはみんなの顔が見れない。そう思うと少し目頭が熱くなった。

 松野が、葛西の肩をたたき、

「明日からはお前は社員を導くリーダーだ。立派にやるというのはそう

 簡単じゃない。リーダーが悪い奴ほどその会社つぶれていく。

 俺はそういう会社をいくつかも見てきた。中途半端にやるんじゃないぞ。」

 葛西は、心が締め付けられた。松野は仕事上そういう会社を見てきたんだ。

 俺がこんな弱気になってどうする。やるしかない。今はやるしかない。

 葛西は心に誓った。

 午後四時になった。みんなが荷物を持って下に降りていく。それを見ながら

 葛西もむなしい心でエレベーターに乗り込む。もしかしたらこれが最後の、

 明星グループのエレベーターかもしれない。一階に近づくにつれて心臓になにか

 刺さっていくように痛くなってくる。ついたころには汗が尋常じゃなくでていた。

「どうした、そんなに汗がでて?」片岡が首をかしげて聞いてきた。

 しかし葛西はほんとのことは言えず、エレベーターの中が暑かっただけだと

 受け流すように答えた。入り口前には黒塗りのセンチュリーと後ろに小さな、

 ワンボックスが止まっていた。中から女性が一人出てきた。

「葛西社長、初めまして。私が社長秘書の辻井エミです。後ろのワンボックスに荷物を

 お詰めください。」

 荷物を詰めた後、とうとう別れの時がきた。一人ずつに固い握手をしてセンチュリーに

 乗り込んだ。心の中はもやもやしていたが動き出すとその気持ちはなくなった。

 三十分、四十分ぐらい過ぎたと思う。まだ、だれも話さない。

 すると車のスピードがゆるまってきた。マリナーズ本社に着いたのだ。

 マリナーズ本社の入り口の前で止まった。ドアが開いたので

 ゆっくりと降りた。今日からここが俺の戦場だ。なにが起こるんだろう。  

 期待と不安しか葛西にはなかった。葛西はネクタイを再度、締め直した。

 これからなにが起こるのか、それは誰もわからない。ただこれだけは言える。

 楽な道のりではないことを。      


 第二章に続く。


 


 










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