王道トリップ
めちゃコメディーものです。ラブのかけらもございません。
コバクロの粉雪。
SPEERのWhite Love
冬にはいくつもの歌や音楽があるけれど、私が冬に口ずさんでいるのはひょっこしひょうたん島。
ひょっこしひょうたんじ~ま。
ひょっこしひょうたんじ~ま。
むなしい。彼氏いない歴17年。冬に手を繋ぐ恋人同士くそくらえ。幸せは皆に訪れるのよと言う奴もまたしかり。
ポトッと雪が鼻に落ち、雫が手に持っていた小説「マジカル少女ラヴリーは突然に」の上に垂れ落ちる。やばい、この小説図書館で借りたばかりなのに。
(弁償させられるかな)
とぼとぼと家路を帰る。もちろん1人。ついでに友達っぽいのも(17年)いないっけ。上辺だけの友達なら2~3人いるが、一緒にいて楽しくないし、疲れるだけ。リアルに充実している奴らが羨ましい今日この頃。
恋人はいないが好きな人くらいいる。でも誰にも言ってない。というか、言える人がいない。
「恋だの愛だの、浮ついてるやつほどろくな人生を歩んじゃいないんだ。この学校では恋愛禁止だからな」
って頭のハゲた教頭先生が言ってたっけ。そういう自分は生徒に手出して結婚したくせに。
「マジカル少女ラヴリーは突然に」という小説はとても王道的な話で、プレストーネという世界で、魔法使いラヴリーが現れて庶民的な女の子のシャリーを貴族の令嬢に変え、さらにはイケメン達にモテさせてくれる。という、手も当てられないほどの王道ものだ。それでも面白いのはラヴリーちゃんというのが実はでべその出たあまり可愛くないウサギだというコメディーさもあるからだ。表紙に載っているラヴリーちゃんを見せられないのが残念だが。手にはマジックステッキを持っていて、どうやらビームが出るようだ。私も、私も異世界へ・・・
「行ってみたーい!!」
「えへへ、それなら行かせてあげましょーか」
変な甘い声がしたと思ったら町の周りの人達は動かなくなった。コンコンと突いても、ドンドンと叩いても、ピクリとも動かない。
「あの~」
皆が止まって見えるなんて。
(よっぽど疲れてるんだろうな。でなきゃ夢オチか)
「無視しないで~」
スカートの裾をくいくい引っ張る2本足で立っているウサギがそこには居た。
「ウフフ~」
ウサギはやけにご機嫌だ。それにしてもこのウサギ、ラヴリーちゃんにそっくしなのは気のせいなのだろうか。ウサギがステッキ(のようなもの)をくるりと回すと、周りの景色がガラリと変わった。まるで中世ヨーロッパ時代のような建物が並んでいる。
「ちょっとウサ公!何したのよ」
「あ、ゴメンちゃい」
急にしょんぼりするウサギに、怒っている私の方が悪者のようになっていた。
「でも光さんが選ばれた子だったから。ここへ連れて来いって。あ、選ばれたって言うのは~。さっき本に水が落ちたでしょ?その成分の割合がちょうど水:3ゴミ:4何気に含まれていた人間の汗:3だったの。凄いでしょ」
そんなんで選ばれて連れて来られたんか。ということはここは小説の世界の舞台となるプレストーネなのだろうか。オラわくわくすっぞ。だが走り出すと妙に体がダル重い。
「いけませ~ん。ちきゅうの人にとってここは酸素濃度が低すぎます。慣れるまではこれを付けて下さい」
ちゃっちゃかちゃーん!とウサギが取り出したのは
「酸素ボンベ」
「知ってるわ!嫌よこんなダサいのつけるの。もっとシンプルなのにしてよ」
「しかたないな~」
イライラするわ、このウサギ。
ちゃっちゃかちゃーん!パート2。
「酸素・・・が含まれた王冠」
そういうのがあるなら早よ出せっつーの。でもどうやったら酸素を吸えるんだろ、この王冠。とりあえず被ってみよう。
「きゃー、お似合いですよ」
「あ、ありがとう?」
あ、でもこの王冠って物語りの中の主人公シャリーが最後に超イケメンの男と結婚する時に冠っていたあの王冠なのだろうか。確か額は日本円にしておよそ50億。売れば高いかな。そう考えていると、次にはカメのような、背中に甲羅をしょった、これまた2本足で歩行する生き物が歩いてきた。
「ウサ公、あれは誰?」
「あれはカメ仙に・・・」
「わーーーっ、ダメ。それ以上はいろいろとダメ!!。とりあえずカメ吉にしよう。うん」
著作権の問題で無理やりカメ吉になったカメはのさりくさりと歩いてくると、ウサギを投げ飛ばしてみせた。
「ウサ公ーーー」
ウサギは遠くの山へ飛ばされ、キラリと星になってしまった。あのウサギにはいろいろ聞きたいことがあったのに。何てことしてくれるんだこのカメ。
「こちらへどうぞ、光さん。この世界についていろいろご案内してさしあげます」
(まともだ)
ウサギのラヴリーが可哀相で仕方ないです。誰か愛の手を差し伸べて下さい。