二ページ
「高凪君やーい! 起きたまえよ~!」
どれぐらい眠っていたのだろうか。
重たいまぶたを開けると青空と木々の手前、目の前に急にキノコ頭が生えてきた。
可愛らしい声が発せられた薄い色の唇が、楽しそうに弧に曲がっている。
それを見て俺も微笑みそうになるがなんとか押し止める。
「何か用か…晴明」
人の枕元に立つとは縁起でも無い、と俺は身を起こすと同時にキノコ頭こと晴明を睨んだ。
しかし、俺に睨まれようと晴明は楽しそうな様子を全く崩しはしなかった。
彼女への目線を、くりっとした目から足元のナイキのバッシュへと移し立ち上がる。
俺の胸元に位置する彼女の頭は156cmだ。
思わず撫でそうになる手を握りしめ、俺は彼女を見下ろした。
空の青さとはまた違った青いジャージのズボンを穿いている晴明は、俺を見上げぶんぶんと大きく首を横に振った。
キノコの裾が頭に引っ張られては置いてかれていた。
上半身が制服で下半身がズボンなのは、何度見ても妙な格好だと思う。
しかしこれが着替えやすくて動きやすい格好なのだと、彼女は自慢気に話していた。
「ううん、用とかではないのだよ! ただね、これから練習するから、いきなりドリブルの音でびっくりして起きたら可哀想だな、と思って!」
晴明はにこにこと脇に抱えていたバスケットボールをこちらに見せた。
晴明めぐみは女子バスケットボール部の部員である。
部員は八人でマネージャーもコーチらしいコーチも居ない。
見たままの弱小部だ。
それでもめげるようすも見せず、晴明は毎日毎休憩時間を練習に当てていた。
「今更だろう。休憩時間になればお前が来るのは分かっていることだしな。晴明だっていつもは俺が寝てようと気にしないだろ」
そうだ、この阿呆はいつも俺が寝ていても放課後しか起こさない。
晴明に会うためにここに来ているようなものなのに、毎回起こしてくれてもいいだろ、とまで思ってしまう。
そんな胸中を露ほども表に出さず、俺はしれっと話す。
「つまりお前は理由があって起こした」
「さっすが学年トップの秀才、高凪修誠!」
「これしきの事で褒められるとむしろバカにされている気がするな」
「むむ、素直に照れてはどうかね?」
「誰が照れるか。で、用件は?もうすぐ休憩時間終わるぞ」
俺は携帯の画面を彼女に見せる。
ガラケーだが古いとか言うなよ、俺はメールと電話ができれば充分なんだよ。
「わわ!大変だ!じゃあ教室に行きながら話そうか!」
そう言うと晴明は体育館に引っ込んだ。
俺も晴明のあとに続く。
「手伝うよ。このゴールなおせばいいか?」
俺はゴールの下に落ちていた棒を拾いあげ、ゴールをカラカラグルグルとしまった。
ボールと鍵の片付けをしていたらしい晴明が駆けてきた。
「ありがとう!」
パッと明るくニッコリ笑った晴明の笑顔はとても可愛かった。
俺は無愛想におう、とだけ返した。
「体育館の鍵は開けていて良いらしいから、もう行こう!」
俺達は体育館を後にした。