一ページ
「うぜぇ」
たった今告白してきた女を一瞥して俺は切り捨てた。
高校に入学してから2年と少し。まだ八重桜が、ツツジと一緒に咲くようなそんな季節。
まだ春特有の柔らかいものでも直射的な日差しが苦手な俺は、花を散らしきった桜の木漏れ日がポツポツと漏れるこの場所に寝転んでいた。
手紙で体育館裏に呼び出されて今に至るわけだが、わざわざ呼び出されなくとも俺はたいてい此処にいる。
それはあいつが多くここに現れるからであって、決して目の前のこの女のためではない。
女は明るい茶髪と濃い化粧。
香水の匂いに顔をしかめる。
目の高さに白い足が並ぶ。
「うざい…?うざいって何よ!?」
「そのままの意味だろ。俺がここにいることを知ってて手紙に書いた。そうすりゃ、俺が呼び出しに応じたと言えるものな」
女は俺のいきなりの暴言に一瞬固まっていたがすぐにくって掛かってきた。
畳み掛けるように言う俺の視線を受けて、怯んだ女は顔をそらした。
「そ、そんなわけないじゃない!!」
「あるだろ。俺はそういう計算高い奴は嫌いなんだよ。お前さ」
立ち上がって女に近付くと、俺は女の顎をつかみこちらを向かせた。
びっくりした女の目が精一杯開かれた。そして頬が朱に染まった。
「俺のことほんとに好きじゃないだろ?」
「好きだって…」
「はっ」
俺は女の言葉を鼻で笑って途中で遮った。
「ほんとに好きなら好かれる努力しろよ。んな取
れかけの付け睫で好かれると思ってんのか?」
女の目が潤んだのを確認すると俺は女を突き飛ばすように離した。
女がキャッと小さな悲鳴をあげよろめくと、短いスカートからギリギリなところが見えた。
俺はため息をつき、体育館の裏口の扉の前の段差に腰かけた。
女はなにか言いたそうな顔をこちらに向けていたがやがて走り去っていった。
最低、と言い残して。
俺はそれをつまらなそうに見送った。
まだ授業の休憩まで時間がある。
俺は一眠りすることにした。