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いつの間にいたのか。閉まっていた扉が開かれ、そこに男が立っていた。
外から帰ってきたのだろうか。男の手に持った紙袋や羽織った黒いジャケットがうっすらと濡れている。黒い 髪、鼻に引っ掛けたようにかけている黒い丸サングラスからもぼたぼたと雫が垂れ落ちている。
年齢は二十代後半か、三十代に入った頃だろう。
肩ぐらいの長さの黒い髪は男のうなじの辺りで適当に一本で結わえられている。元々癖毛なのか、雨に濡れているせいなのか、変に小さくくねくねとしたウェーブがかかっている。
体の線に沿った足首辺りまである黒い長ジャケット。靴も黒い。ズボンの裾も黒い。まさに、真っ黒な男だ。
コーデリアはごくりと唾を飲み込み窓際に思わず後退りした。
男は無表情でじっとこちらを見つめてくる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
場を緊張と静寂が包んだ。
と、いきなり男は何の前触れも無く視線を外し、構わずに部屋の中に入ってきた。
コーデリアは咄嗟に身を守るように硬くする。男の行動を一挙一動見逃さないようにじっと見つめつづけた。
男は部屋にあったテーブルへと歩いていった。
身長は見上げなければならない程に背が高い。おそらく180cmはあるだろう。かといって細くも無ければ太すぎない。程よく筋肉がついているような感じだ。
それでも、側にくれば小柄なコーデリアからしてみれば十分巨大な男だった。
その大きな体がテーブルに近づいて持っていた紙袋をドンと置いた。
余り大きくないその音にコーデリアの体はビクリと震える。と、気がつけば男は再びこちらに目を向けていた。
男の黒い瞳と視線が合った。
「……」
「……」。
再び、妙な静けさが場を包んだ。
コーデリアはごくりと唾を飲み込んだ。そうしていても、ただただ男の無表情な目がじっと見つめてくるのを逸らさずに見つめ続けた。
あまりにも無表情な瞳。まさに、漆黒の闇そのものである。
何を考えているのかさっぱりわからず動く事ができない。
だが、今回もまた男から行動が起こった。
「痛むか」
突然、耳に雨の音とは違う低い声が聞えてきた。
一瞬、コーデリアは何を言われたのか判らず反応が遅れた。
しばらくしてから、やっと聞えたのが男の声だと気がつき動揺した。
と、男の声を頭で反芻していて、ふと言葉の意味に引っかかり首を傾げた。
(痛むか? って、痛いか? って事よね)
コーデリアは数度目を瞬かせて、自分の体へ恐る恐る目を向けはっと見開いた。
「……な、何これ?」
この時。初めて自分の体の状態に気がついた。