プロローグ
そこは、まさに天国だった。
今まで生きてきた世界が悪夢であったのか、それともここが己が望んだ夢の中なのか。
青い空がそこにあった。
美しい姿を保った建物がそこにあった。
道にはゴミ一つ、死体一つ落ちていない。
草花が風に揺れて、その中を虫や鳥達が飛んでいる。
そのどこまでも綺麗で美しいこの場所に、自分の汚れきった息を吐き出すことすら罪のように感じた。
俺は、白くて大きな建物に連れて行かれた。
ここのどこよりも清らかで厳かな空気が立ち込めた場所だった。
どこまでも広くて高い真っ白な天井。
上を見上げれば、キラキラと光る色とりどりの硝子の屋根が光っていた。
どこからか、綺麗な歌声が聞こえてくる。細く甲高い、でも耳障りでない清らかなその音を聞くたびに、俺の中で何かが少しづつ消えていく気がした。
奥のほうを見れば、そこには大きな真っ白な台があった。その上に、さらに何か白い箱が乗っている。
色は違ったけど、俺は直ぐにそれが棺だと分かった。
でも、俺が今まで見てきた棺とは違って汚い物に見えなかった。むしろ、とても美しいもののように感じた。
と、その棺を見上げるようにあの人は立っていた。
あの人は大きくて、眩しくて、あれが神様なんだと一瞬俺は思った。
近づいた俺に気がついたのか、振り返ったあの人の顔は今まで向けらたことの無いような目で俺を見つめてきた。
その視線に俺は捕らえられた。
ぼんやりと見上げていた俺に、あの人は優しく微笑んで俺の頭に手を伸ばした。
『もう、大丈夫ですよ』
そう言って俺の頭を撫でた。
心地よいその初めての感触に、味わった事無い思いが胸いっぱいに広がった。
その瞬間、俺は誓った。
ああ、あの人のためなら何だってやろう。