分不相応な戦利品
休みのうちに、少しでも書いておきます。
「やった・・・」
オレは、ぺたりと座り込んだ。
左手の掌がジンジンと痛んでいた。魔法結晶を利用した副作用か。火傷しているのかも知れなかった。
治癒魔法を使いたかったが、そんな気力も残ってなかった。
興奮の冷めない表情で、シヴァが辺りに散らばった魔法結晶を拾い集めている。
「大漁だよ、ヴィシュ!」
いつの間にか、ヴィシュヌがヴィシュに変わってるな。
誰かに愛称で呼ばれるようになるとは、思わなかった。悪い気はしないけど。
「こいつらはヴィシュが倒したんだから、ちゃんと受け取ってよね」
ニコリと笑って、オレの腰の小物入れに真っ白な石を落とし込む。
「それと、はい」
自分の小物入れから小さなビンを取り出し、オレに手渡す。
「飲んで」
「ポーションてやつ?」
茶色い小ビンの中には、治癒魔法が溶け込んだ液体が入っているらしかった。
「初めて見たよ」
かなり高価な物のはずだ。貧乏なオレには、簡単に買う気になれない代物である。
「いいから飲んで。今回のもうけなら、ポーション1つぐらい惜しくないから」
「ありがと。いただくよ」
オレは、ありがたくポーションを飲んだ。
液体が、体内からオレの肉体を治癒していく。
おお、これはいいな。自分でも治癒魔法は使えるけど、ホントに自分がダメージを受けている時には、自分を癒す魔法をかける気力なんて湧いてこない。
飲んで数秒で、オレの身体は復活した。同時に、精神も。
ポーションに精神的な治癒効果はないが、肉体が治癒されれば精神も上向きになるものだ。
「お、復活したね。じゃ、こっちに来て」
「?」
オレは立ち上がると、シヴァに招く方に歩いて行った。
「ほら」
シヴァが地面の一点を指差す。
ちょうど、大型の魔物が消えた辺りだった。
そこに何かが落ちていた。
真っ白い円形の・・・盾か?
「盾?」
「そう。ヴィシュの盾だよ」
「え?もしかして、アレか?さっきのデカブツが落とした魔法結晶??」
「そうだよ。さあ、拾って」
オレは、シヴァの顔を見た。
シヴァは、お得意の満面の笑みでオレを見た。
「いや。でも、倒したのはシヴァだし」
「ぼくは、盾は使わないもの」
「だとしても、オレがもらうのは・・・」
「この大剣もそうだけど、あの盾ももしかしたら重さの魔法がかかってるかも知れないじゃない?
多分だけど、最初に拾った人がマスターに選ばれるんだと思うんだ。
そうしたら、他の人には使いこなせない」
「・・・・・」
「そんな盾、売るにも売れないだろ?
だったら、ヴィシュが拾って、マスターになるしかないってことだよ」
理路整然と説明された。
そして、何よりオレがその盾を欲しかった。
「・・・・・」
「さあ、遠慮しないで」
「あ、ああ・・・」
オレは、恐る恐る真っ白な盾に近づいた。
盾から発する強い魔法力がはっきりと感じられる。
直径50センチをこえる金属的な光沢を持った美しい盾だ。
「い、いただきます」
この場にふさわしいとは思えないセリフとともに、オレは盾を持ち上げた。
下手すると、さきほど壊れた木製の盾より軽いんじゃないかと思えた。
しかし、盾の落ちていた地面が丸く陥没してるということは。
「シヴァ、ちょっと、この盾持ってみて」
「ほいほい」
シヴァは、分かってるよって顔で、オレから盾を受け取った。
「うぉっ!」
盾を落としかけて、必死に腰で支えるシヴァ。
「お、重い重い!」
本気で重そうだ。
「ヴィシュぅ~っ!!」
オレは、ひょいと盾を受け取った。
これは、本物だ。重量制御の魔法がかかっている。
盾が重ければ重いほど、より大きな衝撃を受けても揺るがなくなる。しかし、重ければ重いほど、取り回しが難しくなる訳だ。そこで必要とされるのが、重量制御魔法。どんな重い盾でも、マスターだけは軽々と扱えることになる。
シヴァの大剣も同じことだ。
鍛えた冒険者でも簡単に持ち上げられない大剣を、シヴァだけは軽々と取り扱える。
一流と言われる冒険者たちも、やはり同じ重量制御のかかった武器や鎧を装備しているらしい。
そんな一品が、オレの手に入った・・・。
うわっ、やばい。
「ぼく、1回故郷に帰るよ」
シヴァがそう言い出したのは、その夜の野営中のことだった。
「急に、どうしたの?」
「なんかさ、この大剣を手に入れた途端に衝動的に飛び出して来ちゃったからさ、一度帰って親にきちんと説明しようと思って」
「なるほどね」
シヴァの父親は、町の領主のもとで、領地経営等の実務を助けているらしい。
お上品な言葉遣いだと思ったら、けっこういい育ちをしてたんだね。
「なんだか、ヴィシュに会うために、この大剣に導かれて来たような気がするよ」
「そんな大げさな。
でも、結果的にオレに盾をくれる為にやって来てくれたんだな」
「あはは、そうかもね。
このままヴィシュと旅したかったけど、家出状態はマズいし」
この世界では、15歳で成人となり、職業が登録される。
オレが15歳になると同時に家を出たのは、そのためだ。農民として登録される前に家を出て、冒険者として登録を行ったのだ。
その点、つい最近まで親と暮らしていたシヴァは、すでに親の仕事を手伝う等の職業登録を済ませていたのだろう。そして、一度してしまった登録を変更するのは、けっこう手間がかかるものらしい。
シヴァは、一度帰って親を説得し、職業の登録を冒険者に変更しようとしているのだ。
「大変そうだなぁ」
「冒険者に戻れたら、また一緒に組んでくれる?」
「シヴァなら、もっと一流どころと組んだ方が良さそうだけど」
「ヴィシュがいいんだよっ」
1人の方が性に合ってると思っていたハズなのに、今はシヴァとやっていくのもいいかと思い始めていた。
「じゃあ、またどこかで出会えたら、一緒にやろう」
「ホントに?約束だよっ!」
素直に喜ぶシヴァ。この無邪気さは、真似できないよ、ホントに。
その夜、オレたちは焚き火をはさんで朝まで語り明かした。
翌日は、眠かった。