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魔剣登場

なかなか、思うようにストーリーが展開しないものですね(´(・)`)クマッタ・・

 「彼」は、オレに背を向ける形で昼食を摂っていた。

 ちなみに、この世界では一日三食が習慣づいている。それは農家でも同じで、意外と豊かな生活が定着しているのだ。

 オレは、遠慮なく「彼」の大剣に視線を向けた。

 そうとうにデカい大剣だ。

 小柄な女性の身長ぐらいありそうだ。

 刀身に粗末な布を巻きつけただけで鞘にも入っていないその剣は、はっきりと魔力を放っていた。魔法感知のできるオレには、それが分かる。

 しかし目を引くのは、その柄や鍔が真っ白だということだ。

 柄には滑り止めなのか細い革紐が巻かれているが、その真っ白な輝きは隠し切れていない。

 オレがさっき売り払ってきた魔法結晶と同じような白い輝きだ。

 冗談抜きで魔法結晶か?

 実は、魔物から回収できる魔法結晶は、球形の石ばかりではない。

 何かを核として魔法力が凝集した時に、その中心でより濃く魔法力が固まって魔法結晶が生成されるとされているが、その核が剣みたいな武器や装備品である場合があるのだ。

 人の想いがこもった物が野に打ち捨てられると、それを核として魔法力が凝集し、魔物が生まれることがある。

 その魔物は通常よりはるかに強力で、生まれた時にはすでに小屋ぐらいの大きさがあるらしい。

 そんな魔物には、そこいらの冒険者では決して敵わない。

 何人もの腕っこきの冒険者たちが協力し合って、なんとか倒せるレベルだ。

 しかし、首尾よくそんな魔物を倒せた時、手に入る魔法結晶はとんでもない価値を持つことになる。

 例えば剣を核として魔法結晶が生成されると、魔法結晶製の剣が生まれるのだ。

 簡単に言うと、魔剣である。

 ほとんどの魔剣は、元の持ち主の想いを強化した能力を有するという。

 具体的に言うと「斬る」という想いにより、剣の切れ味が魔力的に強化されるのだ。

 魔剣を使えば、ベビーサイズの魔物なんか簡単に一刀両断できるってウワサだ。

 当然、とんでもない高値で取り引きされることになる訳だが・・・。

 今、オレの目の前にある大きさの魔剣ともなると、どれだけの価値になるんだか。

 ロクに魔剣なぞ見たことないオレでも、けたはずれの一品だと断言できる。

 大きさももちろんだが、混じり気のない真っ白な輝き具合が、その質の良さを表している。質の悪い魔法結晶は、その白さがくすんで見えるのだ。

 すげーっ!

 オレは、惚れ惚れと大剣を眺めていた。

 それは、他の冒険者にとっても同じだったらしい。

 いつの間にか、別のテーブルで食事を摂っていた2人の冒険者が、その大剣に・・・と言うか、大剣の持ち主に近づいていたのだ。

「よぉ」

 大斧を背負った中年の冒険者が、気さくに大剣の持ち主の少年に声をかけた。

 革製のジャケットに革製のズボンと、それなりに金のかかった装備をつけている。オレなんかよりは、ずっと稼ぎも多いんだろう。

 残念なことには、かなり臭いが。

 少年が食事の手を止めて、中年の冒険者を振り返った。

 青みがかった銀髪と、同色の愛嬌のある瞳が目に入った。

 やはり、オレと同じぐらいのトシらしい。

「なんですか?」

「これって、もしかして魔剣てヤツか?」

「そうかも知れません」

「そうかもって、なんだよ。もったいぶるこたぁないだろ」

 中年の冒険者が、ちょっとムッとした顔をする。

 連れの青年は、後ろに控えて黙っている。これまた、革のジャケットとズボンという出で立ちで、2メートルほどの槍を持っている。

「いや、ちゃんと鑑定してもらったこともないし・・・」

「じゃ、お前みたいな若造が、どうやってこんなもの手に入れたんだよ?」

 なんか、気の短そうなオッサンだな。

 日本では目の前のオッサン以上のトシまで生きたが、オレの精神はあくまで17歳のものだ。オッサンとしての記憶があるってだけで。

「町の近くのダンジョンで・・・」

「はぁ!?ダンジョンだとぉ?」

 ダンジョンていうのは、魔物が住み着いた洞窟のことだ。

 人里近くの洞窟は、安定した魔法力が溜まっており、魔物が発生するのに最適な環境と言われている。

 そして、洞窟に生まれた魔物たちは、どんどん洞窟を拡張していく性質を持つ。

 そうした洞窟はダンジョンと呼ばれ、ある程度以上の腕前の冒険者たちにとっては、重要な資金源になっている。

 それでも、途中で倒れる者たちも少なからずおり、その者たちの装備品を核として更に強力な魔物が誕生し、その魔物たちの落とす魔法結晶化した装備を狙って、また多くの冒険者が集まることになる。

 つまり、少年の大剣は、そういった出自の物って訳だ。

「そんなデカブツを倒したって言うのかよ、お前が?」

 オッサンの機嫌が、どんどん悪くなっていく。

 最初の一言だけなら、感じのいいオッサンだったのに。

「いや、そうじゃないけど・・・」

 少年の反応がはっきりしないのも、よけいにオッサンの気に触っているのだろう。でも、見ず知らずの人間に、そんなこと話さなきゃいけない謂われもないハズだ。

「あー、イライラするな。おめぇみたいな若造が、こんなもの持ってても、宝の持ち腐れだろぅ?」

 オッサンが無断で、少年の大剣に手をのばした。

「俺が使ってやるよ」

「あ・・・」

 オッサンが大剣を持ち上げようとし。

「!!」

 血相を変えた。

「な、なんだ、これ!?」

 オッサンが慌てたように手を離すと、大剣がバランスを失って、床に倒れた。

 びっくりするような地響きとともに。

 オレは、口に入れていたスープを吹き出しそうになった。

 板張りの床が割れなかったろうか?

 明らかに、普通の剣が倒れた時とは異なる地響きだった。

 どうやら、大剣は見た目からは想像できない重さを持っていて、オッサンが持ち上げきれずに手を離してしまったらしい。

 2人の冒険者と店主、他のテーブルの客、それにオレは呆然とした目を大剣に向けていた。

 少年は、慌てたように椅子から立つと、ヒョイと大剣を持ち上げた。

 え?ヒョイって??

「お・・、おま・・・!」

 オッサンがブルブル震えている。

 ビビってるんじゃないよな、怒ってるんだよな、あれは。

 恥をかかされたとか思ってるんだろうけど、完全に八つ当たりだ。

「何をしやがった!?」

 オッサンが少年につかみかかった。

 連れの青年が止めようとするが、オッサンは聞く耳を持たない。

「何をしやがったって言ってるんだ!」

 少年も、オッサンの勢いに呑まれている。

 やはり、魔剣を持つほどの腕前じゃないのか。

 オレは席を立つと、オッサンの肩に手をかけた。

「オッサン。みっともないですよ」

 ぼっち道まっしぐらのオレが、他人の喧嘩に首を突っ込むなんてビックリだ。

「なんだとぉ?」

 それでも、目の前の少年を気味悪く思っていたのだろう。

 オッサンは、助かったとばかりにオレに食いついてきた。

「まだ食事中なんですよ・・・っと!」

 オレは、オッサンのアゴ先に左フックを叩き込んだ。

 日本時代に習っていた空手の技だ。

 魔物相手の戦い方が発展しているこの世界には、人間相手に素手で戦う技術は存在しない。

 いや、もしかしたら存在するかも知れないけど、前世でも現世でも、そんなものがあると聞いたことがない。

 オッサンは、防御するそぶりもなくアゴに一撃を喰らい、綺麗に脳を揺らして気を失った。

 あー、やっちゃった・・・。

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