ヴィカの頼み
核について色々書きましたが、また科学的におかしな描写があったらイヤだなぁ。
「助ける?オレが?」
思わず、聞き返す。
オレに助けを求めるぐらいなら、家族に助けを求めた方が良かろうに。なにせ、カルラほどの術者が、劣等感から飛び出してしまったぐらいの一族なのだから。
「ヴィカ、お父様やクラフタ兄様たちには、相談しなかったの?」
「普通の魔法使いには、どうにも出来ない問題ですので・・・」
イヤな予感がする。
科学を知ってるヴィカが持ち込んできた、魔法使いには対処できない問題とは何だ?
「まさか、科学を悪い方向に持ち込んでしまったんじゃ・・・?」
オレの言葉に、ヴィカが申し訳なさそうに、うな垂れた。
「何をやったの?」
核というワードが、オレの脳裏に明滅する。あれほど、イメージが浸透していて、なおかつ効果の大きな物もない。魔法として取り込むには、一番の素材だろう。オレだって、危険度を抑えられるなら、核融合ビームとか核融合ブレードとかいった魔法を開発したかった。
でも、出来なかった。オレの意識の中に、核=危険という図式が刷り込まれてしまっていたからだ。
それに、核エネルギーをそんなに便利に制御する方法も知らないし。
「分身が暴走しましたの」
「え?」
カルラが驚いた声を出す。
「そんな馬鹿な話は無いでしょう?分身は、貴女自身とつながってるのよ?貴女が望まないことをするハズがないでしょう?」
「それは、そうなのですが・・・」
ヴィカの歯切れが悪い。
「オレの知ってる師匠の最後の研究は、召喚体に料理をさせようってものだった。
まさか、料理と暴走は関係ないよね?」
「今回は、料理は関係ないのです」
「じゃあ?」
「全て、お話しますわ」
灰色の魔女メーヒラの目的は、もともと召喚体に自立行動を取らせることだったらしい。
そして、生まれ変わった先が、召喚魔法を得意とするサヤダニ家だったのが、また彼女の研究に拍車をかけることになった。
カルラが、幼少のころに一族の者の手で、アストラル体からラサーヤナとスレーンドラジットという2体の分身を切り離されたように、ヴィカもカーリーという分身を持っている。
そこから分身を改良していくことになるのだが、カルラがこの世界の常識内で改良していったのに対し、ヴィカは科学の力を使って改良していったのだ。
つまり、ロボットに近づけたらしい。
何かよく分からない超合金でその身を包み、ビーム・ライフルを持たせ、あろうことか核融合モーターを積んだんだと言う。
日本ではオタクっぽい女の子として20歳前まで生きたというが、なまじSF的なイメージだけ身につけて、ろくな科学知識を持ってなかったせいで、逆にビームや核融合を魔法で実現してしまえたようだ。
オレだって専門的な科学知識を持ってる訳じゃないけど、核融合炉がまだ実現していないことは知ってるし、ましてやそれをモーターと呼べるほど小型化できるハズがないという常識を持っている。
ヴィカには、そういった邪魔になる常識がなかったのだ。
おかげで、分身の装甲も、ただ「超合金」という謎な物質だ。おそらく、それはビームも弾くような反則的な防御力を持っているんだろう。そして、通常知られてるような魔法なら、ほぼ完璧に防げるらしい。
ただ、そこまでなら良かった。
ヴィカが制御できてるうちなら。
「私は、カーリーに自分の心を持ってもらいたかったのですわ」
「何をした?」
「カーリーに非服従の心を植え込みました」
「何だ、それ?」
「私の分身であるカーリーから、私への忠誠心を取り除くことは出来ません。でしたら、それを打ち消せるものを植え込めばと思ったのです」
「それが、非服従の心?」
「はい。
そして、カーリーは暴走することになりました。私の制御から完全に逸脱し、逃亡してしまったのですわ」
「自由な心を持ったカーリーが、友だちになってくれると思ったのか?」
「・・・・・・・」
さらにうな垂れるヴィカ。
「だったら、そんな強力な武装を与える前に試して欲しかったよ・・・」
「申し訳ありません。今からなら、私もそう思います」
「それで、カーリーは、どこへ?」
「大まかですが、ヤーミの森と言われる所に」
因縁のある場所が出てきた。
「ヤーミの森って一口に言っても、かなりの広さだぞ?」
「そこは、近づけば正確な場所は特定できますから」
「で、オレに助けを求めてきたと言うのは、科学を応用した魔法でないとカーリーを倒せないってことか?」
「そうです。超合金の装甲は、この世界のあらゆる物理攻撃と魔法攻撃にも耐えることが出来ます。それを破壊できるのは、科学の力だけです」
「簡単に言うけど、そんな物騒な手段、思いつかないぞ」
「核は、いかがですか?」
「そんな物騒な物、この世界に持ち込む気はないよ。破壊力が大きすぎる。
そもそも、よく核融合モーターなんて作ろうと思ったな」
オレの口調が詰問的になってしまうのも、当然のことだろう。日本人として生きたことがあるなら、核を容易く扱える神経が理解できない。
「確かに、核は危険ですわ。でも、それは核分裂であって、核融合はキレイなエネルギーなハズです」
「確かに核融合なら放射能は出ないよ。普通なら、核分裂のエネルギーを利用して核融合を起こすんだけど、ヴィカならそんな事もしてないだろう」
「もちろんです。カーリーが使ってるのは、純粋に核融合だけのキレイなエネルギーですのよ」
「でも、核融合を制御できなかったとき、どれだけの爆発が起きると思うんだ?」
「それは、制御できなかったらでしょう?」
「カーリーを倒せってオレに言ってるんだろ?それは、核融合モーターが壊れることを意味してるんじゃないか?」
「そ、それは・・・」
「核で倒せって言うなら、二重に核爆発が起きることになる。それが、どれだけの規模の爆発になるかは分からないけど、少なくとも、その魔法を使った人間は生き残れないだろうなぁ」
「・・・・・・・・・」
ヴィカの顔が青ざめる。
ホントに、核に対して、アニメやマンガのイメージしか持ってなかったのだろう。
「ヴィシュヌ様・・・」
カルラが哀願するように、オレの手を引いた。
妹を助けて欲しいのは、分かる。分かるが、難易度が高過ぎる。はっきり言って、成功する道が見えない。
「考える時間が欲しい。今のままだと、無駄死にするだけだ」
「え?」
うつむいていたヴィカが、意外そうに顔を上げる。
「今のところ、カーリーが人間に敵対行動を取ってる訳じゃないんだろ?
だったら、何か方法を考えさせてくれ」
「じゃあ・・・?」
「まだ分からないよ。でも、オレにしか出来ないって言うなら、努力ぐらいしてみるよ」
こんな時こそ、インターネットが使えたらなぁと、しみじみ思うよ。
ホントに。




