昔語り
暑いですね。軽く熱中症気味になっちゃいました(;´瓜`)
地上に戻ったオレたちは、確保したままの宿屋に直行し、カルラを寝かせつけた。
そして、シャナと2人でギルドへ。
シャナが職員に事情を話すと、ギルド内にある個室の1つに案内された。知らなかったけど、高価な戦利品があった場合等、人目につきたくないような案件では、しばしば利用されるものらしい。
今回は、あまりに大きな魔法結晶が手に入ったというだけでなく、それが名の知れた冒険者の遺骸の一部だというデリケートな事情もあり、ここに通された様だ。
「ご苦労様です」
さほど待たされずに現れた初老の男は、神妙な表情で席に着いた。
「当ギルドの副長を任されておりますスタルベンと申します」
慇懃に頭を下げる男は、口調は丁寧だが、その身にまとう雰囲気は現役の冒険者を圧倒する迫力だ。
「この度は、サイザル様の遺品を回収して下さったとか?」
「これを遺品と言うのか分かりませんが・・・」
背嚢から魔法結晶化したサイザルのドクロを取り出すと、スタルベンは痛ましそうに首を振った。
「結晶化してるということは、彼は魔物になっていたのですね」
サイザルが魔物になった訳じゃなく、彼の遺骸の一部が魔物に取り込まれていただけだと思うが、あえて否定はしない。ギルドの副長ともなれば、そんなことは重々承知のことだろう。
サイザルを思う心情が、そういう表現になって出てきたに違いない。
つまり、カルベスの冒険者ギルドにおいて、サイザルという男は、副長を嘆かせるぐらいに存在感のある男だったということだ。
オレは、ダンジョンの奥での経緯を説明した。
「そうでしたか。なんとか彼の遺品だけでも回収出来ないかと、何組ものパーティーがそこまで行ったのですが、部屋は土砂で埋まったままだったそうです。
貴方たちは、たまたま魔物によって土砂が取り除かれた直後に、そこまで行ってしまわれた様ですね。
しかし、無事で良かった」
スタルベンは、何度もオレたちを労ってくれると、サイザルのドクロを買い取ってくれた。
その金額は、ちょっとした屋敷が買えるほどで、オレに否やはあるハズもない。
それに、例え予想外に低い金額を提示されたとしても、ブツがブツなだけに、あまりゴネることも出来なかったろう。
案内人であるシャナにも、法外な報酬が入ることになる。
探索で得られた稼ぎの10分の1というのが、案内人への報酬の相場だ。
自分に支払われる報酬の額を、シャナは複雑そうな表情で聞いていた。
よく知っていた人間の遺骸の一部が商品として扱われ、しかも自分に高額な報酬が支払われるというのだ。素直に喜べはしまい。
ギルド・カードに入金の書き込みがされると、オレたちはギルドを後にした。
「シャナは、まだ案内人を続けるのか?」
「え?どういうことですか?」
「いや、もしかしたら、今回のことで案内人を続けるのがイヤになったりしてないかと思って」
「そんなことありませんよ。
そりゃ、サイザルさんの身体で儲けちゃったのは、なんだかイヤでしたけど、それとこれとは違いますから」
「そうか。だったらいいけど」
「ヴィシュヌさんたちこそ、まだ冒険者は続けられるんですか?ずいぶんお金持ちになっちゃいましたけど」
「ああ、しばらくはのんびりするけど、一緒に冒険者をやろうって約束してる男がいるからね。冒険者をやめることはないよ」
「そうですか。じゃ、また雇って下さいね」
「ああ、もちろん」
「約束です!」
朗らかに微笑んで、シャナは去って行った。
宿に戻ると、ベッドで1人退屈そうにしてたカルラが出迎えてくれた。
上半身だけを起こして、嬉しそうな表情を向けてくれる。
真っ白な絹の寝巻き姿が色っぽい。
ナラガの魔獣戦に比べると、ダメージも少なかったようで一安心だ。
例のドクロがどれだけの金額で売れたかを教えると、「良かったですね」と喜んでくれる。
貴族から見ると、大した金額じゃないんだろなぁ。
「約束通り、いいアパートを探して拠点にしよう」
カルベスに永住する気はないけど、シヴァが合流するまで宿屋に泊まり続けるよりは、アパートを借りた方が経済的だ。
「それより、もう1つの約束を果たして下さい」
「ん?」
「どうして、科学なんてものを知っているのかということです」
「ああ・・、そうだったね」
ひと言断って、カルラのいるベットに腰を下ろす。
「実は・・・」
そしてオレは、誰にも語ったことのない前世の記憶について、洗いざらい話して聞かせた。
50年以上も昔に、ある魔法使いの弟子をしていたこと。
15歳で亡くなる前に、別の世界に生まれ変わってみたいと師匠に話したこと。
そのせいか、魔法の存在しない世界に生まれ落ちたこと。
そこには魔法は無かったが、代わりに科学があったこと。
平和で豊かなその世界で、30半ばまで生きたこと。
また、この世界の人間として生まれ変わったこと。
「生まれ変わる前の記憶が残っているのですか?」
「うん。それが師匠の魔法によるものかどうかは分からないけど、記憶は残ってる。
ただ、今生の子供のころの記憶がだんだん薄れていってるのと同じように、過去世の記憶もかなりアヤフヤになってるけどね」
「50年前には、どこにいたのですか?」
「魔法王国ザムザラの王都だったよ。ザラシュバート」
「師匠のお名前は?」
「メーヒラ」
「灰色の魔女メーヒラ・・・」
「あれ?知ってるの?」
「名前だけですが。
既存の魔法の改良や、戦闘ではなく生活に役立つような魔法の開発に長けていたと聞き及んでいます」
「そうだね。召喚体に料理を作らせるという研究が、オレの死ぬ間際にやってたものだった」
「スレーンドラジットに料理をさせるなんて発想は、ありませんでした」
カルラは、ケラケラと笑った。
「まあ、やめといた方が、いいだろうね」
死神のような美女が料理をする姿を想像して、オレも笑い転げた。
あれ?何か背中に冷たい視線が・・・。
「実は、シヴァに会うまでは、ザラシュバートを目指す気だったんだ」
「今は?」
「うん。もう行く気がなくなった。
この世界では1人ぼっちっていう意識が強くて、オレを憶えていてくれる人がいる所を目指そうとしていたけど、思えば、兄弟子たちとそんなに仲良かった訳じゃないし、師匠が生きてるかも分からないしね。
て言うか、もう死んでるよね。あの頃だって、ずいぶんなトシだったんだ。今生きてたら、人間じゃなくなってそうだ」
「灰色の魔女メーヒラは、もう亡くなってると聞いてます。おそらく、30年ぐらい前に」
「そうか・・・。でも、オレが死んでからも20年ぐらいは生きたのか」
「ヴィシュヌ様は、何というお名前だったんですか?」
「マツヤ・・・。
物心ついた時には、もう師匠に拾われていた。本当の親のことは何も知らなかったけど、その名前だけは、実の親からもらったものだったらしいよ」
「マツヤ・・・。不思議と、今のヴィシュヌ様にも違和感のない名前ですね」
「そう?なんか、悪い気はしない・・・ね」
ツっと、オレの頬を涙が流れ落ちた。
「え?」
自分でも驚いた。そんなに感情が高ぶった自覚はない。
うろたえるオレの頭を、カルラの両腕がフワリと抱きかかえた。
「きっと、ヴィシュヌ様の中のマツヤが、涙を流しているのでしょう」
頭が、カルラの柔らかな双丘に押し付けられる。
オレも、カルラの華奢な身体に手を回していた。
「オレはオレであって、マツヤじゃない。マツヤの記憶を持ってるだけだ。
でも、やっぱり、オレの中にマツヤは生きているのかなぁ?」
「きっとそうです。そして、自分のことを語られるのを聞いて、思わず涙してしまったのですね」
「そうか。そうだね。
カルラに話せて良かったよ。
カルラに出会えて、良かった」
顔を上げると、真っ直ぐにカルラの瞳を見つめた。
カルラの銀にも紫にも見える美しい瞳も、熱っぽくオレを見つめていた。
「私も、ヴィシュヌ様に出会えて良かったです」
カルラの桜色の唇に自分の唇を重ねると、オレは彼女の寝巻きに手をかけた。




