死線
アイドルのDVDを見ながら、これを書くのは辛かった(汗)
やばいな。
オレは、目の前の魔物を見上げていた。
初めて遭遇した人型の魔物。
しかし、その姿はあまりにも異質だ。
身長3メートル近い骸骨とは。
武器の類は何も持っていない。
鎧も着けていない。
だのに、感じるプレッシャーは半端なかった。
迷ってる場合じゃない。スネークソードを鞘に戻すと、腰の小物入れから魔法結晶を1つ取り出す。
仮に手持ちの魔法結晶全てを使ってしまったとしても、目の前の骸骨を倒せば、とんでもない大きさの石が手に入るハズだ。
問題は、それが人の形をしてるだろうという事だが・・・。
ゆらりと魔物が動き始めた。
やはり、動きは鈍い。
いざとなれば、走って逃げるか。
「ヴィシュヌ様・・・!」
「試しに、こいつを撃ってみる」
親指を立て、人差し指を真っ直ぐ伸ばした右手を、魔物に向けた。
残りの3指で魔法結晶を握りこんだままで、すでにリボルバーを起動している。
馬鹿の一つ覚えだが、仕方ない。
魔法力を集中し、撃つ。撃つ。撃つ。
骸骨の頭部に向けて、3連発。
狙い違わず命中したかと思った瞬間、銃弾は骸骨の目前で爆発した。
「え、爆発?」
「魔法です!」
「え、なに?」
呆けるオレに向かって、何か見えない力が迫る。
目の前に黒い影が滑り込み、手に持った大鎌でそれを叩き斬った。
またも、爆発。
オレは吹っ飛ばされ、カルラの足元まで転がっていく。
「げほっ、げほっ・・・!!」
爆発音で耳が馬鹿になって、目も回っていた。方向がつかめない。それでも、必死に身体を起こそうとする。
そのオレをかばう様に、カルラが立つ。
カルラの前には、スレーンドラジットの黒い影。
その向こうで、魔物の巨大な姿に、ラサーヤナが討ちかかっていく。
完全に足を引っぱっていた。これじゃ、逃げようとも言い出せない。
ポーチからポーションを取り出して、一気に飲む。
身体の痛みが引くと同時に、揺れていた三半規管も正常に戻った。
立ち上がると、カルラの横に並ぶ。
「大丈夫ですか?」
「もう、大丈夫。申し訳ない」
「どう攻めますか?」
「スネークソードで手足を狙ってみる。ヤツが魔法を飛ばしてきそうな時だけ、雷の魔法で迎撃できないか?」
「分かりました。やってみます」
恐れる様子もなく、カルラが受けあう。
なんで、ここまで肝が据わってるのだろう。
気持ちだけでも、負けるわけにはいかない。
左手に盾を持ち、右手でスネークソードを抜き放つ。
ラサーヤナが風のように飛び回りながら、魔物の足に斬りかかるガツガツいう音を聞きながら、背後に回りこむ。
あれだけ刀を打ち込みながら、手足の1本も両断できないのか。やはり、普通じゃない。
スネークソードの刃に魔法力を通わせると、魔物の足を狙って鞭のように振るった。
細かく分離した刃が、魔物の右の大腿骨に巻き付く。
魔法力を通わせて操作したスネークソードは、その刃たちをきちんと食い込ませている。
間髪を入れず、伸ばした刃を手元に引き戻す。
ギャリギャリっ!という耳障りな音を立てて削れる骨。いや、ニクか。
しかし、切断できない。なんて堅さだ。
魔物がこちらを振り向こうとするのを、ラサーヤナが追撃する。
双刀が嵐のように回転した。
並みの魔物なら、とっくに無数のニク片になっているところだ。
しかし、効かない。
わずかに削られたニクが散るのが見えるが、ほとんどダメージになっていない。
魔物は悠然とこちらに向き直ると、またあの不可視の魔法を撃とうとした。
が、横手から放たれた雷の魔法が襲いかかり、魔物の眼前で2つの魔法がぶつかり、爆発する。
爆風を受けても、びくともしない魔物。
そこにグライド・ソードをしかけた。
風を巻いて、魔物の足元を滑空する。
すれ違い様に繰り出した刃が、ガキン!という手応えで弾かれた。
バランスを崩し、またもオレは地面を転がる。
堅い。
堅すぎる。
ラサーヤナの双刀も、オレのスネークソードも、まるで歯が立たない。
倒れたオレをかばうように、ラサーヤナが猛然と突っ込む。
ガイナークさんに剣技を習ったせいで、ラサーヤナの振るう刀の一撃一撃は、以前よりはるかに威力を増している。
が、その全ての攻撃をまともに喰らいながら、魔物の骸骨の身体にダメージらしいダメージを与えることが出来ないでいた。
オレはスネークソードを鞘に納めると、魔法結晶を右手に掴み取った。
何個だ?
3個。よし、なんとか右手は保つだろう。
レーザーガン。
魔法を起動する。
レーザーって言いながら、収束させた光で攻撃するんじゃなく、収束させた魔法力で攻撃するものだが、魔物には一番効果的なハズだ。
魔物が、また魔法を撃とうとし、カルラの放つ雷が、またそれを迎撃する。
再び、頭上で起こる爆発。
狙うなら、ここだ!
親指を立て、人差し指を真っ直ぐ伸ばした、リボルバーと同じ形から。
魔物の頭部を目がけて。
撃つ!
握りこんだ3指の中で魔法結晶が砕け、人差し指の先から真っ白な閃光がほとばしった。
右腕が破裂したかと思うほどの圧力が、魔物に向かって走り抜ける。
直撃!!
ヤーミの森のたてがみの魔物を1発で消し飛ばした時よりも、さらに強い光。
砕け散れ!!
ごっそりと、自分の中から魔法力が抜けて行った。
足元がふらつく。
それを気力で支え、ズタズタになった右手に追加の魔法結晶を取る。
いつの間にか、ラサーヤナがオレの隣で魔物を睨んでいた。
魔物を。
「マジか・・・」
魔物は、健在だった。
ドクロの左半分がごっそり削り取られていたが、2本の足で立っていた。
どれだけ、しぶといんだ。
魔法結晶を使って、自分に治癒魔法をかける。
右腕を苛んでいた痛みが、楽になった。
まだ、戦える。
戦えるが。
どうしたらいい?
ラサーヤナが、突っ込む。
それを、魔物の右手がカウンターで迎え撃った。
吹っ飛ぶラサーヤナ。
「!!」
右手を振り切ったまま、魔物がオレに向けて魔法を放とうとする。
カルラの雷が飛んでこない。
ラサーヤナを吹き飛ばされたダメージが、カルラを襲っているのだ。
必死に盾をかざし、その陰に身を隠す。
強大な魔法力が盾にぶつかり、激しい爆発を起こした。
当然のように吹き飛ぶ身体。
ごろごろと、凄い勢いで地面を転がる。
意識を失ったらお終いだ。
耐える。
耐える。
全身に訳の分からない痛みが走る。
「うぉぉぉぉぉおおおおおっっっ!!」
無理やりに回転を止め、立ち上がり様に走り出す。
一瞬遅れて、オレが転がっていた場所が爆発した。
爆風にあおられて体勢を崩しそうになるのを、根性でこらえる。
走りながら、ポーチからポーションを取り出し、一気に飲み干す。
視界の隅で、カルラが身を起こそうとするのが見えた。
華奢な身体に、ぶるぶると力がこもっているのが分かる。
もう立つなと言ってやりたいが、今はカルラ抜きでは勝てない。
魔物が、ゆらりと動き出す。
カルラに向かって。
おい、そっちじゃない!
スネークソードを抜きながら、魔物に向かって急ターンする。
その瞬間を狙っていたように、魔物がオレを振り向いて、魔法を放った。
「ぐわっ!」
慌てて盾を構えるが、目の前で爆発が起きて。
何も分からなくなった。




