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ナラガの町

 主人公的には、ちょっと休養期間です。

 ナラガは、大きな町だった。

 魔物の襲来に備えて、多くの都市は城壁に囲まれているのが普通だし、農村でも最低限の防護柵は備えている。

 だのに、この町には城壁も柵も堀もなかった。

 いや、町の中心部には、城壁があった跡が残っている。

 しかし、ナラガ・ダンジョン目当てに多数の冒険者が訪れるせいで町は拡大し、城壁の外に新市街が形成された。

 その際、新市街を囲む城壁が築かれるのが常識だろうに、この町を拠点とする冒険者たちの意向で築かれなかったということだ。

 それがどこまで本当か分からないし、賢明なこととも思えないが、冒険者たちのプライドを刺激する話ではあるらしい。「自分たち冒険者こそがナラガの城壁だ」というセリフを、オレは何度も耳にすることになる。

 ちなみにナラガという町は、流動的に出入りする冒険者たちによって成り立っており、本当の意味での住人はしごく少ないという。

 そのため、いまだ施政上は都市という扱いを受けていないのだという。

 シヴァの家は、そんな少数派であるわけだ。


 オレたちは、一応作られている町の入り口の門をくぐって、ナラガに入った。

 門と言ったって、その左右に城壁が無いのだから、本当に形だけのものだ。驚いたことに、門兵さえ見当たらない。

 そのかわり、門を入ってすぐに冒険者ギルドの建物があるのは、いざという時に冒険者たちが対応するためか。

 ギルドの建物に入ると、各種の受付けカウンターだけでなく、簡単な食事がとれる休憩所が設けられていた。なるほど、常時、少しでも多くの冒険者を建物内に留めておこうとしてる訳だ。

 魔法結晶の買取りカウンターは、なかなか盛況だった。

 ナラガ・ダンジョンはほぼ枯れているが、近くに他の大きな都市もないナラガは、短期間の旅程で魔物狩りを行うのに向いているのだろう。

 そんな中でオレたちが持ち込んだ魔法結晶の量は、群を抜いていたようだ。

 ヤーミの森を出てから、結局どこの町にも寄っていないのだ。そりゃ、数も貯まるさ。

 魔法結晶は、オレのだけで70個を越えていた。カルラと行動をともにするようになってから手に入った分は、きっちり2等分してある。

 ちなみに下級冒険者になってからは、オレに魔法的に刻印されたデータを読み取るカードを個人配布されており、冒険者ギルドと提携している施設では、現金を使わなくてもカードで支払いが出来るようになっている。

 オレは、魔法結晶を売った報酬を、全てギルドに預けた。その分のデータがカード(ギルドカードと呼ばれている)と、ギルド内にあるハズの巨大魔法結晶に記録される。

 そして、ギルドで提携している施設では、支払いの際にカードの情報(預金残高)を読み取り、新たな情報(支払い後の預金残高)を記録するわけだ。

 カードに記録された内容は、通常は持ち主本人にしか読めないが、ギルドと提携した施設には、それを読み取った上に、新たな情報を書き込む魔法的装置が置かれていることになる。

 もしかしたら、それらの装置はギルド内の巨大魔法結晶とも魔法的にリンクしているのかも知れない。

 更に、各地のギルドにある巨大魔法結晶は、王都にある冒険者ギルド本部の超巨大魔法結晶にリンクされているというウワサだ。

 その魔法で構築されたネットワークを個人が利用できるようになれば、前世にあったインターネットに近いものが出来上がるだろうに。

 買取りカウンターのギルド職員は、一瞬驚いた顔をしながらも、事務的に処理を済ませてくれた。

 続いて各種登録用のカウンターに移り、背嚢からスネークソードを取り出した。

 「戦利品の登録かい?」 

 初老の職員は、チラっと視線を飛ばしただけで、淡々と言う。

 この程度の物は、見慣れてるんだろうか。

 「ええ。お願いします」

 魔法結晶製の装備を手に入れたときは、ギルドでの登録が義務付けられている。

 窃盗等のトラブルに対処するためだということだが、本当のところは冒険者たちの戦闘力を大まかにでも把握しておこうということに違いない。

 職員は、オレのギルドカードを使ってスネークソードに魔法的な刻印を行った。

 オレたち冒険者に行う刻印と同じ理屈だ。

 目には見えないが、専用の魔法を通すことによって見える刻印。それが、スネークソードに刻み込まれた。そして、その旨がギルドカードに記録される。

 この刻印は絶対だ。

 例え誰かがこの刀を盗んだとしても、鑑定されれば一発でオレのものと分かる理屈だ。

 もちろん、冒険者ギルドに近づかず、鑑定もされなければバレないとも言えるが、少なくとも見つかったときに、きちっと持ち主を確定できることは大きな意味がある。

 ちなみに、魔法結晶製の装備を譲渡するときの手続きは、かなり大変らしい。

 「こいつに鞘を作ってあげたいんだけど、オススメの店とかないですか?」

 「ん?なら、ガメツ武器店に行きな。

  どの冒険者に聞いても、あそこの評判は悪かねぇぞ」

 無愛想ながら、きちんと答えてくれる。

 「ありがとう。じゃ、そこに行ってみます」


 まずは、ギルドの近くで、けっこう高級な宿屋に入った。

 普通の宿屋だと、見知らぬ者どうしでザコ寝だったり、相部屋になったりしてしまうからだ。

 オレ1人だとそれでもいいけど、カルラと一緒だとそういう訳にもいかない。

 基本、女が1人で旅をすることはない。

 カルラが常識外なのだ。

 これまで1人で旅していた間も、宿屋に泊まる時は、できるだけ高級な所を選んでいたらしい。

 冒険者としての稼ぎも多いのだろうけど、どうやら実家から少なからぬ現金を持ってきたんじゃないかと思われる。黙って持ってきたんじゃないことを願うが・・・。

 部屋は別だ。野営とは言え、1ヶ月以上も一緒に旅をしてきて今更って気もするけど、風呂ぐらいゆっくり1人で入りたいだろう。


 荷物を置くと、武器屋に向かった。

 カルラはカルラで買いそろえるものがあるらしく、別行動だ。

 武器屋や防具屋は、やはりギルドの近くに点在していた。

 町の反対側の入り口付近にも冒険者ギルドの建物があり、そちらにも武器屋や防具屋がいくつかあるらしい。

 冒険者たちは、自然と町の2つの入り口付近に集まるようになっているわけだ。

 ガメツ武器店は、分かりやすい場所にあった。店構えも立派で、けっこう繁盛してるらしい。

 店内には高級そうな武器がずらりと並び、1つ1つ見て回るだけで1日たってしまいそうだ。

 武器を眺めて回りたい気持ちを抑えながら、オレはカウンターの男の前にスネークソードを置いた。

 オレのソードを見た壮年の男の眉が、ピクリとはねる。

 「まさか、買取りかい?」

 「いや、これ用の鞘を作って欲しい」

 「なるほど。手に入れたばかりか。

  見せてもらうぜ」

 スネークソードを一通り検分すると、男はニヤっと笑った。

 「いい拾い物をしたな。

  こいつの鞘となると、一点ものを作らなきゃならないから、しばらく時間がかかるぜ。しかも、その間こいつを預からなきゃいけないが、それでいいのかい?」

 「しばらくって、どれぐらい?」

 「物にもよるが、だいたい2週間はかかるかな」

 のんびり休養するには、ちょうどいいかも知れなかった。

 「分かった。じゃあ、それで頼みます」

 そこから、奥の部屋に通され、鞘の材質やデザイン、予算の話に入る。

 2時間近くも話はかかった。なんだか、男も張り切っているようだった。

 「鞘ができるまで、代わりの刀を持っていけよ」

 そう言って、そこそこ業物らしい刀を持たされた。

 更に、ギルドカードに「スネークソード預かり」という文言とガメツ武器店というサインが記録される。

 記録は、店側の人間がギルドから借りている魔法装置によって行う。

 ギルドカードに記録された内容が間違いないと確認してから、やっとオレは店を出た。

 冒険者ギルド御用達ってだけでも信用できるけど、念には念を入れなきゃね。一度手放したら、二度とこんな超高級品は手に入らないだろう。


 さて、やっとシヴァに会いに行けそうだ。

 

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