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スネークソード

オンラインゲームで、移動が便利すぎるのは好きではありませんでした。

めんどくさいと思いながら時間をかけて移動し、途中の景色を楽しんだり、モンスターに追いかけられたりするのが楽しかったなぁ。

 ナラガまで、まっすぐ向かうと1ヶ月弱というところだ。

 主要都市間では街道も整備され、乗り合い馬車も走っているが、いざルートをはずれると魔物が発生するために、道行く人もいない。

 人々は都市や村に固まって暮らし、必要な時には、舗装された街道を馬車なり徒歩なりで移動する。

 もちろん、街道上だとて魔物が出没することはあるけれど、基本的に人の行き来の多い場所には魔物は発生しない。

 人里離れた場所で発生した魔物が、街道や村に近づくことはあるが、それを阻止するのが冒険者だ。

 兵隊が魔物退治を行う場合もあるが、あくまでその相手は人間である。戦争であったり、治安維持ということだ。

 オレとカルラは、街道から外れ、ナラガまでの最短ルートを取ろうとしていた。

 冒険者にしか無理な真似だ。

 しかし、日本的な常識からすると考えられないことだが、この世界にはロクな地図がない。

 正確な測量技術が存在しない訳ではないが、いつ魔物が現れるか分からないような場所で悠長に測量なんかしてられないというのが実情だ。

 軍事的な問題もある。

 いくら戦争らしい戦争が行われなくなって1000年たつと言っても、自国の正確な地形図が他国の手に渡るのは恐ろしく危険なことなのだ。

 そんな理由で、存在する地図らしい地図と言えば、都市や村落の位置と、それらを結ぶ街道のみが描かれた、俗に言う「街道図」だけだ。

 それとて、距離や方位等はかなりいい加減なもので、鉄道の路線図みたいな感覚と思えば、分かりやすいだろう。

 2人は、無謀にも「街道図」を参考に、荒野を歩いていた。

 もちろん、ナラガに真っ直ぐたどり着けるなんて思っていない。

 街道に差し掛かる度に大体の位置を確認し、軌道修正していくのだ。

 急ぐ旅ではない。荒野を歩くのは、むしろ魔物に遭遇するためだ。


 数体の魔物が近づいてくる。

 オレは、スネークソードを手に待ち構えた。

 カルラには、後方で待ってもらっている。ちなみに、すでにラサーヤナも召喚済みで、カルラの横に控えている。

 魔物が10メートルぐらいの距離に達すると、スネークソードを突き出した。

 オレの魔法力と意思に反応し、スネークソードの刀身が細かく分離し、魔物に向かって真っ直ぐ伸びた。

 速い。

 が、刀身の先端は、魔物の肩口をかすっただけで、そのまま後方へ走りぬけた。

 「くっ!」

 伸び切った刀身を、慌てて引き戻す。

 伸びて行った時と同じ軌道を逆回しするように縮んでくる刀身。

 オレが軽く手首を動かすと、魔物の身体をかすめる位置に軌道がズレる。

 細かく分かたれた刀身の切片1つ1つについてる刃が、魔物のニクを削っていく。

 ジャキっという音を立てて、刀身が元の形に戻った時、魔物の半身はズタズタに引き裂かれており、すぐに輪郭を失って虚空に溶けた。

 その間にも近づいている残りの魔物たち。

 今度は、刀を振りながら、刀身を伸ばした。

 伸びた刀身が、鞭のように1体の魔物の身体に叩きつけられる。

 細かく分かれた刃の1片1片が魔物の身体に深く食い込む。

 そこから、刀身を巻き戻す。

 魔物のニクが激しく削られ、すぐに形を失っていく。

 普通の獣に同じことをしたら、肉片や血液を周りに撒き散らして、凄惨な光景になるだろう。

 3体目が、すぐそばまでやって来ていた。

 その顔面に突き刺すように剣尖を向けると、刀身を撃ちだす。

 そう。伸ばすと言うよりは、撃つという感覚だ。

 剣尖が真正面から魔物の顔面に突き刺さると、背中をぶち破って飛び出した。

 それだけで、魔物の身体が四散する。

 伸びたままの刀身を縮めず、そのまま4体目の魔物に叩きつける。

 魔法結晶でできた刀身は、遠心力とか慣性を無視し、オレの意思通りにトリッキーな軌道を描く。

 刀身が魔物の身体に巻きつくように食い込んだところで、一気に刀身を引き戻す。

 2体目と同じ要領で魔物の身体が切り刻まれ、一瞬で魔法力の状態に還元された。

 残りは・・・

 ラサーヤナの二刀流で、あっさり片付けられたところだった。


 「どうですか、スネークソードの使い心地は?」

 「慣れないから、操作するのが大変だけど、威力は抜群だね。こんな簡単に魔物を倒せるとは思わなかったよ」

 「もともと、魔法使いが身を守るために作り出された武器だそうです。

  細かい刃を魔法結晶の紐でつなぎ操作していたということですが、習得する者が少なくて、普及しなかったようですね」

 「もともと部品に魔法結晶の紐が必要ってところで、量産も出来ないもんなー」

 オレは、手に入れたスネークソードを使う練習をしていた。

 カルラには手を出すのを待ってもらって、危なそうな時にだけフォローしてもらっている。

 スネークソードの扱いは難しく、オレは苦戦していた。

 刃をつなぐ紐どころか刃そのものまで魔法結晶のオレの刀は、通常のスネークソードに比べたらはるかに使いやすいハズだが、最初は伸び縮みさせるだけで一苦労だったのだ。

 どこかにスネークソードの達人なんていないかな。

 しかし、魔法結晶製の武器だけあって、普通に斬っただけでベビークラス程度の魔物なら倒せてしまう。

 盾と刀と合わせると、オレってけっこう戦闘力上がってない?

 だのに、そうと感じられないのは、ラサーヤナの戦闘力が凄まじ過ぎるからだよなぁ。

 ラサーヤナが使うのは、優美に湾曲した細身の刀。

 風のような速度で接近し、舞うように刀を振るい、嵐のように魔物を殲滅する。

 とても、勝てない。

 それを考えると、上級冒険者なんてのは、きっととんでもない戦闘力を持ってるんだろう。

 そんな者たちの戦いを目にする機会があるだろうか。

 

 ナラガに着くのは、なぜか1ヶ月以上かかった。



 

 

 

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