カルラの魔法
第15話「新しい出会い」の中で使っていたガリアン・ソードという名称を消しました。アニメで使われていた名前でしたよね。
その前後も、若干改稿しました。
読んで下さる方が増えたおかげで、本人が気づいていない不味い箇所を指摘していただけるようになりました。ありがたいことです。
これからも、よろしくお願いします。
オレたちは、ナラガを目指すことにした。
シヴァに会いに行くのだ。
カルラにしてみればナラガに逆戻りってことになるのだけど、別に構わないそうだ。彼女の目的は、オレから知識を得ることなのだから。
冒険者たちが一度は訪れるというナラガだ。オレだって、訪れてみたい。
カルラのような世俗から超越したような人間が、わざわざ訪れたような町だ。
冒険者向けの店もたくさんあるらしい。
今回の一件で大量の魔法結晶も手に入ったし、いい装備を買いそろえるのもいいだろう。
スネークソード用の鞘も作らないといけないしね。
しかし、一番の目的は、シヴァにカルラのことを問いただすことだ。
本当に、シヴァがカルラのことを信用して、オレに会うように仕向けたのなら、何も問題はない。シヴァが信用したのだったら、オレも無条件に信用しよう。オレの持ってる知識を伝えるのにも、なんの不安を感じずに済む。
シヴァというのはそういう人間だ。
ゼダーシュ・トルクの七つ目の武器に見出されたような人間だ。
本人には、自覚ないだろうけど。
オレだって、ごく短い付き合いでしかないけど。
でも、オレはシヴァという人間が特別な存在だと思い始めていた。
オレが思いついた一番しっくりくる表現は、「勇者の卵」だ。
だから、そんなシヴァがカルラを認めたのなら、それこそ核分裂や核融合という知識だって教えてもいいだろう。うん。いや。多分、教えない。
でも、シヴァにオレのことを教えられたっていうのは、カルラがそう言ってるだけの話だ。
もしかしたら、シヴァにとって不本意な状況でオレのことを知られてしまったという可能性もある。
盗み聞きされたとか、拷問されたとか、何のかの魔法で知られてしまったとか、ね。
そのあたりのことを、オレはシヴァに確かめたいと思ったのだ。
ナラガに行くと言っても、カルラが何の動揺も見せない時点で信用してもいい気はするが、やはり、どの世界においても、女性の心のうちは見通せないわけで・・・。
ところで、ヤーミの森からの帰り道にも、何度か魔物には遭遇したんだけど、オレはカルラのとんでもない戦闘力をまざまざと見せつけられることになった。
まず、魔法感知の範囲が、オレよりはるかに広かった。
「魔物が近くにいます。ベビークラスが1体だけ」
しかも、魔物のサイズも細かに判別できるようだった。
「よろしければ、私の魔法を見ていただけますか?」
それは、興味があった。
ずっと1人で魔物を狩ってきたオレには、他人の魔法を見る機会がほとんどなかったのだ。
「うん。見てみたい」
オレの答えに、カルラは軽く微笑むと、目を閉じた。
心の中で呪文を詠唱しいてるのだろう。
よく知られている魔法はともかく、高位なものやオリジナルの魔法は、他人に盗まれないように、呪文や術の名称を口に出さないものなのだ。
これは、魔法使いの弟子をやってる時に、オレもうるさく教え込まれた。
「行きなさい、ラサーヤナ」
15秒ほどで魔法は完成したらしい。
カルラの足元から、銀色の人間が躍り出した。
地面から現れたようにしか見えなかったが、地面には何の変化もない。
銀色の人間は、両手に一振りずつの刀を持ち、優美な鎧を身につけていた。
頭に兜はなく、長い髪をなびかせている。
美しい女だ。と言うか、カルラそっくりの容貌だ。
そして、その全身が、何もかも銀色に輝いている。
ラサーヤナというのが名前か。
ラサーヤナは、オレに向かって会釈してみせると、風のように森の中を駆けて行った。
「召喚魔法?」
「そうです。ラサーヤナは、私の分身です」
「精霊とかを使役してるのとは違うの?」
「くわしい話は、いずれさせていただきますが、そういうものとは違います。子供のころに、私の両親たちにより、私のアストラル体を使って作り出された存在です」
「それは、ずいぶん特殊な・・・」
もしかしたら、貴族にとっては、当たり前のことなのか?
ラサーヤナは、オレの魔法感知できる範囲から、あっと言う間に姿を消した。
なんだ、この速さ。
こんなの、気づいた時には、もう目の前にいるってパターンじゃないか。
「倒しました」
「え?」
ラサーヤナが、またオレの感知できる距離に戻ってきた。
と、思った2秒後にはカルラの前にいた。
無理無理無理!こんなの防げるかよ。
ラサーヤナは、背中にクロスさせて装着している鞘に刀を戻しており、かわりに手に持っていた魔法結晶をカルラに渡した。
「ごくろうさま」
カルラに労われると、ゆっくりと足元の地面に沈み込んでいき、消えた。
もちろん、地面には何の変化もない。
カルラの魔法感知の範囲がどれだけあるのか分からないけど、遠距離からラサーヤナを仕掛けさせ、一瞬で魔物を屠るなんて、そんなの反則だろう!?
オレは、感想に困った。
「オレと次元が違いすぎて、言葉が無いよ」
「貴族なら、みんな似たようなものです。
感知さえ出来れば、私のように分身を戦わせる者もいれば、雷を落としたり、魔法の矢を飛ばしたりして、魔物を倒すのは一瞬のことです」
「そんな人間に、オレが何かを教えるなんて、おこがましい気分になるよ」
「確かに、戦えば、ヴィシュヌ様に負けない自信はあります。
ですが、私の魔法使いとしての力量は、ごく平均的なものでしかありません。
両親や兄たちと比べると、どうしても見劣りしてしまうのです。
魔法使いにとって、才能の差は絶対のものです。今から私がどれだけ努力を重ねても、兄たちを超えることはかなわないでしょう。
そんな私の唯一の希望が、ヴィシュヌ様の持つ異質な知識なのです。
ですから、どうか卑屈になるのはおやめ下さい」
卑屈になるなとか、言葉遣いは丁寧なのに、言いにくいことをズバズバ言ってくれる人ですね。
まあ、卑屈になってるのは確かなんだけどさ。
「了解。卑屈になるのは、やめるよ」
とりあえず、そう言うしかない。
「それはそうと、魔物なら魔法力を感知して遠くからでも居場所が分かるだろうけど、ただの獣や人間が襲いかかって来たら、どうするの?」
ラサーヤナを呼び出すのには、けっこう時間がかかっていた。不意をつかれた時には、役に立たないだろう。
「もちろん、普通の魔法も使えますが・・・」
目の前に、漆黒の女が立っていた。
フードをかぶり、マスクをつけたカルラも真っ黒に見えたが、目の前の女は、肌も髪も完全に漆黒だ。ラサーヤナが銀色だったように。
漆黒の女は、やはりカルラに似た風貌をし、ラサーヤナが着けていたものに似た鎧をつけ、死神のような大鎌を手にしていた。
「スレーンドラジットです」
「今、一瞬で召喚した?」
「いえ。スレーンドラジットは、常に私の影の中に控えています」
「まさか、常時召喚ってやつ?」
「その通りです。
私が眠っていようと、気を失っていようと、彼女は私の身を護ってくれているのです」
常時召喚て、物語の中だけの話と思っていたぞ。
ましてや、戦闘の時には、別にもう1体召喚するって?規格外だろっ!
これで、魔法使いの中では平均的だって?
絶対、貴族とは喧嘩しない。
「一つだけ、聞いていい?」
「なんでも、どうぞお聞き下さい」
「もし、オレがカルラの身体を自由にしようとしたら、彼女は襲いかかってこないの?」
「え?」
「・・・・・・・・・・」
おい、カルラさん・・・。