新しい出会い
「地味」ってタグは、削除した方が良さそうですよね(´・ω・`)ショボーン
たてがみの魔物をついに倒し、オレは抜け殻状態だった。
今、また魔物が群れて襲いかかって来たら、ひとたまりもないだろうって感じ。
とりあえず戦利品だけでも拾い集めることにする。魔法結晶があれば、それなりに戦えるからだ。
まずは、たてがみの魔物の分。
あれだけのデカブツからは、どんな大きさの魔法結晶が取れたのか。
もしかしたら、しばらく引きこもれるぐらいの・・・
「・・・剣だ」
なんと、真っ白な一振りの剣・・・いや、片刃だから刀か?が、落ちていた。
まさか、盾に続いて刀まで魔法結晶製の物が手に入ったというのか?
出来すぎだろう。
オレは、シンプルだが美しいフォルムの刀を、恐る恐る手に取った。
刃渡り7~80センチくらいで、ゆるく反りがある。
軽く振ってみると、すごくバランスがいい。
「これは、いいなー。思わぬ拾い物だなー」
さっきまで立っているのもキツかったのに、ニヤニヤ笑いが止まらない。
手早く魔法結晶を回収して、じっくりと鑑賞することにしよう。
刀は、鞘が無いので、背嚢に突っ込んでおく。それから、あちこちに散らばった魔法結晶を回収する。
炎の魔法程度じゃ壊れることもないらしく、焼けた土の上に、コロコロと真っ白い石が転がっていた。
合計42個。そのうち、2センチ大の物が5個、なんと3センチ大も1個あった。
冗談抜きで、しばらく狩りに出る必要はなさそうだ。
焼け焦げた臭いが鼻につくので、少し移動してから、野営の準備を始めた。
今夜はゆっくり休んで、明日からヤーミの森の脱出に取り掛かる。
例によって、野営地の周囲5ヶ所に魔法結晶を設置し、結界を張った。この辺りには、そうそう魔物も残ってないと思うけど、油断は出来ない。
ド派手に暴れ回ったせいか獣の影も見えないので、仕方なく野草と果物だけを集めた。
背嚢の中には、まだ干し肉が少し残っていたハズだ。
薪は、アンナのパーティーが集めていた物を失敬してきた。
焚き火を燃やし、干し肉と野草でシチューを作り、のんびりとした時間を過ごす。
背嚢から戦利品の刀を取り出し、じっくりと眺めた。
「よく見ると、刀身に細かい筋がいっぱい入っているな」
触ってみるが、凹凸は感じられない。
ただの模様か?
自分の盾やシヴァの大剣を見る限り、魔法結晶の武器にそんな無駄な装飾が入ってるのは不自然だ。まあ、この2つが例外だって可能性もあるけど。
待てよ。
何かに似てるな。
・・・さっきの魔物の・・・舌?
たてがみの魔物の口から伸びて、オレに襲いかかってきた舌。
高速で伸び縮みしてるところを見ただけだから、印象が似てるとしか言えないけど。
と、言うことは・・・。
「伸びろ」
カシャン。
刀身が無数の切片に分かれて、伸びた。
伸びて、3倍ぐらいの長さになって、地面に横たわった。
切片の間は、真っ白な紐でつながっている。
「えーと、つまり・・・」
「スネークソードのようですね」
「あ。これがそうか。え・・・?」
オレは固まった。
焚き火のすぐそばに、全身真っ黒な服を着た人間が立っていた。
オレの緊張に反応して、スネークソードの刀身が瞬時に縮んで、もとの刀の形に戻る。
現れた人物にその刀を向けそうになる動きを、必死に止めた。
結界を気づかれることなく突破し、音もなくそこまで近づいて来たのだ。オレをどうこうする気なら、とっくにやっているだろう。
それに、その者の佇まいが、オレに抵抗しても無駄だと悟らせた。
「・・・・・」
真っ黒なマントで身体を包み、頭もやはり真っ黒なフードで覆っている。
そして何より特徴的なのは黒いマスクで顔の上半分を隠していることだ。
しかし、マスクの奥からのぞく瞳、そこだけむき出しの唇とあごだけ見ても、そうとうに美しい女だと分かる。
そう。目の前の人物は、女だった。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。
珍しい物を見たので、つい声をかけてしまいました」
余裕のある口調で、女が言う。
この刀を見なかったら、ずっと姿を消したまま、オレを見ている気だったのか?
「こんな所で人と会うなんて珍しい。良かったら、ハーブ茶でも、ごちそうしましょうか?」
「よろしいのですか?ありがたく、ちょうだいします」
うわっ、シヴァよりお上品な口調だ。
女1人で、しかもこの口調。とても冒険者とは思えない。
女は、その場に腰を下ろした。
そして、真っ黒なフードを下ろす。
光がこぼれた。
白銀色の長い髪が、焚き火の光を受けて煌めいたのだ。
ついで、真っ黒なマスクもはずす。
やはりと言うか、想像以上に美しい顔が表れた。瞳の色は、銀にも紫にも見える。
トシは、オレと似たようなところか。
「まさか、魔人なんじゃ?」
「いえ。人間です」
「じゃあ、貴族なんですね?」
「出自はそうですが、今は一介の冒険者です。カルラとお呼び下さい」
「オレは、ヴィシュヌ」
「存じております」
「え?」
「シヴァ様から貴方のことをお伺いして、今まで探しておりました」
「シヴァの知り合いなの?」
意外な場所で懐かしい名前を聞き、オレはカルラを凝視した。
普通なら、こんなとんでもない美少女と2人きりでいるだけでプレッシャーに潰されてしまいそうだが、半分抜け殻なので、感性が麻痺しているらしい。
「3ヶ月ほど前に、ナラガの町で知り合いになりました」
「まだ、ナラガにいたんだ。そうかぁ。元気そうだった?」
「シヴァ様は、学校に通っておいででした。なんでも、冒険者になることをご両親に認めてもらう条件が、学校を卒業することなのだそうです」
「へー。でも、冒険者をするにしても、学問は邪魔にならないし、逆にいい機会かもね」
シヴァ、元気なのか。良かった。
「シヴァ様も、そうおっしゃられておいででした。ヴィシュヌ様が学識豊かなので、少しでも話が通じるようになりたいと」
「え?オレは、学校にも行ったことないよ」
「そうかも知れませんが、どこかで高度な知識を学ばれたのでしょう?聞いた事もない魔法を使われるそうですが」
うわっ、シヴァ、相手が美少女だと思ったら、ペラペラしゃべりおって!
「オレを探してたのって・・・」
「はい。私に魔法を・・・と言うより、ヴィシュヌ様の持っている概念を伝授していただきたいのです」
概念と来たか。確かに、日本で得た知識や常識は、この世界に無い概念だ。そして、オレ固有の魔法は、それに基づいて作られている。
学問がないって言いながら、シヴァはそこに気づいたのだろうか?
それとも、シヴァの話から、このカルラという美少女が類推したのか?
「オレの持っている概念は、(この世界の)常識とは相容れないかも知れないよ?
教えるにしても系統立てて説明する自信もないし、どれだけ時間がかかるか分からないし、あまり気が進まないんだけど」
「そこを曲げて、お願いしたいのです。報酬は、私の与えられる物なら、何でも差し上げます」
「いや。貴女みたいな人が、そんなこと言っちゃダメだよ」
「かまいません。私の身体をお望みなら、喜んで差し出しましょう」
「いやいやいや、すごく魅力的な申し出だけど」
「どうせ、私の身体は、貴族のままでいても政略結婚の道具にしかならないのです。でしたら、冒険者になった今、私は私の身体を自分の望むものを得るための道具にするだけです」
「望むものって?」
「魔法使いとして、大きな力を持つことです」
「今でも、そうとうな力を持ってるんじゃないの?」
「父や母に認められるには、全然足りません。
魔法力の大きさでは、私は半端者なのだそうです。
だとしたら、誰も考えついたことのない魔法を作り上げるしか、道はありません」
確かに、オレの持っている知識を理解できれば、とんでもない魔法を作り出せるかも知れない。でも、危険な話でもあるんだよなー。核分裂とか核融合なんて概念は、絶対教えられない。毒ガスなんてのもダメだよね。
「私の身体に価値はありませんか?でしたら、この瞳や指を取って下さってもいいのです」
「え?何その猟奇的な話」
「ご存知ありませんか?貴族の肉体は、いい触媒になるということです」
「いやいやいや。無理無理無理」
恐ろしい。
なんだって、魔法のために、そんな覚悟を持てるんだ。
「でしたら、何と引き換えになら、ご教授をお願いできるのでしょうか?」
そりゃ、こんな超絶美少女を自由にできるんなら、自由にしたい。でも、素直にそう言えない。
それは、プライドってやつなのか、それともアンナへの義理立てなのか。
「ごめん。ちょっと、答えは待って・・・」
それとも、意気地がないだけか・・・。